第23駅 スタッキーニ王国との接触 ~ウリッセ~

~アルベルト・スタッキーニside~


 北部大陸最南部にある国・スタッキーニ王国。この国の中でも最南端に位置し、南部大陸と繋がっている地峡に面した首都・ウリッセ。

 このウリッセの王宮に住まう主こそ、スタッキーニ王国の国王、アルベルト・スタッキーニであった。


 年齢は四十五歳。非常に端正な顔立ちをしている。

 かなり陽気な性格をしているが、元々スタッキーニ王国は流民によって建てられた国家であるからか、粗野な言葉遣いが目立つ。だがスタッキーニ王国の国民性と合っているためか、言葉遣いが問題になったことは一度もない。

 また外国の要人と会談する際、言葉遣いには非常に気をつけている。言葉遣いや正確によって連想される軽薄さは微塵もなく、むしろ思慮深い国王なのだ。


 そんな国王が仕事をしている執務室に、兵士が慌てて入室してきた。


「失礼します、陛下!」


「おいおい、そんな慌ててどうした? 紅茶を飲んで落ち着きなさい」


「いえ、お気持ちだけで……。それより、大変なのです! 地峡から、正体不明の乗り物がやって来ました!」


 その一言で、アルベルトの表情がガラッと変わる。特に『乗り物』という部分が気になった。


「なぜ、『乗り物』だと判断したんだ?」


「車輪が付いていたそうです。それにほとんど金属で出来ていましたので……」


「なるほど。確かに、乗り物の可能性が高いな」


 人間がいないはずの南部大陸から、乗り物のような人工的な物体がやって来たのは非常に興味深い。

 そして、乗り物が来たからには必ず付随する存在もいるだろうとアルベルトはすぐに思い至った。


「それで、いるんだろ? 『乗客』が」


「はい。おっしゃるとおりです。少年一人と少女二人が降りてきました」


 詳しい人数までは知るよしもないが、人間が誰かしら乗っている事は容易に予想できた。

 だが、次に兵士の口から出た言葉だけは、全く予想できなかった。


「彼らは『南部大陸に建国した『グラニット王国』の国王である。交易交渉のために来訪した』と宣言していまして……」


「はぁっ!?」




 全く事情が掴めなかったアルベルトは、現場へ足を運ぶことにした。アルベルトはフットワークが軽く、国内であれば割と気軽に出向こうとする。

 特に、今回は首都ウリッセのすぐ南で起こった。王宮とは目と鼻の先だ。


 普段は南部大陸からまれにやって来る(もっとも地峡はレイラインの真上なので、地峡よりは海からやって来る事が多いが)魔物の迎撃に軍が通る南門を抜け、騒動の現場をその目で確かめる。


「――なるほど。王宮へ連絡しろ。来客を迎える準備をしろとな。最高の貴賓待遇で頼む」


「な、あの正体不明な者共を王宮へ迎えるというのですか!?」


「そうだ。建国云々の真実はともかく、最高のもてなしで詳しく話を聞く価値は出てきた。信頼性も高い」


 そしてアルベルトは、一人の少女を指さした。


「あの少女――獣の祝福を受けている方ではなく、普通の人間の方だ――彼女は、トレビシック王国の王女だ。随分女性らしくなったが、昔会ったときの面影をよく残している」


 すると、アルベルトは少年少女達の方へと歩み寄った。




~トシノリside~


 トレビシック王国最南部の首都・ウリッセの南に到着した僕達は、グラニット号の珍しさ(異様さ?)に注目して集まった兵士達に対し、宣言を行った。

 ちなみに、僕達の服装は駅の仮眠室のロッカーに保管してあった鉄道員の制服。ドレスを持っていたアンはともかく、僕やエディは正装を持っていなかったし、アンが『統一感が出るから』ということで正装代わりに着ることを提案してきたので、こうして鉄道員の制服を着ていた。


『南部大陸に建国した『グラニット王国』の国王である。交易交渉のために来訪した』


 当然、兵士達の反応は冷ややかだった。

 それは当然だと思う。僕達みたいな子供が『建国して国王になった』なんて言っても、信じられる人はほとんどいない。遊びかふざけているのかと思われるのが関の山だろう。


「……ねぇ、あんな宣言しちゃって大丈夫だったの?」


「大丈夫ですよ。精霊のトムさんに対して宣誓した、正真正銘の国家ですし、全て本当のことです。それと、グラニット号の力も大きいですね。グラニット号をバックにしているからこそ、『もしかして真実かも?』と思わせられるのです。

 事実、怒号やからかいの言葉をかけてくる人はいないでしょう?」


 言われてみれば、確かにそうだ。兵士達は全員、緊張感と困惑に包まれて一言も発することが出来ない状態になっている。

 アンの言うとおり、グラニット号の威容を目の当たりにして真実かどうかを決めかねているらしい。


 そうこうしていると、門から豪華な馬車がやって来た。

 その馬車からは、この場で最も豪華な服を着た、端正な顔立ちのおじさんが降りてきた。


「来ましたね。最も話を通せる人物が。トシノリさん、後は任せて下さい」


 アンがそう言うと同時に、おじさんが到着。アンと言葉を交わした。


「おお、お久しぶりですね、アン・トレビシック王女。以前お会いしたときは美貌の片鱗を感じられはしましたが、かわいいという印象が勝っていた。ですがたった数年で、見違えるほど美しくなられた」


「ありがとうございます、アルベルト・スタッキーニ国王陛下。陛下も、数年前とお変わりないようでなりよりです」


 え? 今国王って言った!?

 このスタッキーニ国王という人、挨拶代わりに女子を褒めちぎるというイタリア人男性のステレオタイプみたいな話し方をいたけど、その人が国王なんて想像していなかった。


「それでアン王女。なぜ、南部大陸から見知らぬ乗り物で我が国へやって来たのでしょうか? それに建国とは……」


「そうですね……。詳しくお話ししたいのですが、なにぶん長い話になりますので、どこか落ち着いた場所でお話ししたいですね。もちろん、私を含めた三人と精霊一人、全員でです」


 それと……と、アンはさらに続けた。


「この乗り物……『機関車』と言うのですけど、一時的に置いておく場所を貸していただけませんか? ご迷惑にならないようにしますので」


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