第22駅 列車で過ごす一日 ~南部大陸・北部大陸間~
『間もなく出発します』
ポオォーーーーーー!!
トムのアナウンス、そして汽笛の音と共に、列車は動き出した。
スピードが乗り、安定して走り出すと次のアナウンスが流れる。
『販売車からお知らせでーす。この度、移動販売サービスを開始する運びとなりましたー。ご利用になられる際は、各車両に設置しているインターホンからご連絡下さーい』
「今の、クラークなのだ?」
「トムさんを幼くしたような声でしたね。それにしても、移動販売、ですか……」
「手押しのワゴンにたくさん商品を乗せて、座席の所まで売りに来てくれるんだよ。本当は販売車が使えるようになった時点で出来たらしいけど、やり方を巡って色々あってさ。調整に時間がかかったんだよね」
本来は、新幹線みたいに車内を定期的に歩き回って販売する形式だった。
でも、乗っている人は僕達三人しかいないし、そんな状態で何往復も車内を歩き回るのは大変だし非効率的だなと思った。
そこでトムを交えて相談し、移動販売に来て欲しいときだけ来て貰う、という形にしたんだよね。
「気になるんだったら、今日のお昼にでも頼んでみようか?」
「本当ですか!?」
「楽しみなのだー!!」
コンコン。
「お待たせしましたー。移動販売でーす!」
コンパートメントの扉をノックする音が聞こえると、移動販売が来たことを告げた。
「何にする? 僕はとりめし弁当」
「エディは牛タン弁当にするのだー!」
「では私は、激辛スパイシーポーク弁当で」
各々注文し、商品を受け取る。お金は申し訳ないと思うけど、アンの支払い。
あと、アンが注文した弁当が気になる……。
「ありがとうございましたー。またのご利用をお待ちしてまーす!」
移動販売のクラークが販売車へ戻ると、僕は折りたたみテーブルを展開し、その上に弁当を載せた。
「あ、みんな加熱装置付の弁当なんだ」
「加熱装置……ですか?」
「そう。この弁当にくっついてるヒモを引っ張ると……」
シュボッ! という音がすると、弁当から煙が派手に吹き出した。
「わわわっ!?」
「だ、大丈夫なんですか!?」
「大丈夫。ただの水蒸気だから。これは弁当の下に生石灰と水が入った袋が入っていてさ。ヒモを引っ張ると生石灰と水が混ざって発熱するんだ。この減少を利用して弁当を暖めるんだ。大体五分くらい待つ」
「そ、そうなんですね……」
というわけで、実食。
「おぉ、みずみずしいのだー!!」
「販売車の電子レンジで温めた物とは全然違いますね」
概ね好評だった。
「あの、トシノリさん。この野菜の事なんですけど……」
「ああ、ミニトマトだね。トマトの小さい品種」
「ミニトマトって言うんですね。初めて見る野菜だったので、ちょっと気になって……」
「北部大陸にはないんだ。もしかしたら、南部大陸のどこかにあるかもね」
お昼を過ぎた頃、北部大陸と南部大陸を繋ぐ地峡に差し掛かった。
基本的に食事以外の時間は、アンから色々教わっている事が多い。特にスタッキーニ王国に入れば礼儀作法が否が応でも必要になるので、それに割く時間が多かった。
そして日が落ちるか落ちないかという時間になった頃、僕はそろそろ晩ご飯の準備をすることにした。
「夕飯は販売車で何か買うのではないのですか?」
「明日以降はそれでもいいけど、今日はちょっとやってみたい料理があって。駅の給湯室じゃ出来ない料理だよ」
僕は有蓋車からジャガイモとトウモロコシ、トウガラシ、それと今朝、運良く見つけて取っておいた七面鳥の卵を持ち出した。
そのまま先頭車両を通って機関車を訪れた。
「トシノリさん。どうされたんですか?」
「ちょっとやってみたいことがあって。炉とスコップを借りるよ」
「炉ですか。魔石を少量入れれば、煙突からの火の玉攻撃を出さずに暖めることが出来ますよ」
それはいいことを聞いた。
僕は魔石を二、三個炉に入れ暖めると、スコップに適当に切った野菜と卵を割って入れた。
さらに、適当にちぎったトウガラシを振って、そのまま炉の中へ。
適当な時間スコップを炉に入れ続け、十分加熱出来たところで炉から出す。
「お、いい感じに火が通ってる」
完成した料理を手に、アンとエディの所へ戻った。
「お待たせ。出来たよ~」
「おお、ウマそうなのだー!」
「そうですけど……なんでスコップに料理が?」
まぁ、初見だったらアンみたいな乾燥になるのも当然だよね。
「機関士料理として有名らしいよ。僕のいた世界だと、蒸気機関車は炉で石炭を燃やした熱で水を沸騰させて、発生した水蒸気で機械を動かしているんだけど――その炉の熱と運転席にあるスコップを使って食材を加熱させて料理してたんだって」
テレビで見たことがあった。外国の保存鉄道の映像だったけど。
「グラニット号はスコップを使うことが今まで無かったから、清潔だよ」
「そうですか。では……」
「遠慮なくいただくのだー!」
各々好きな具材を手に取り、実食。
「以外とおいしいですね。ちょっとスモーキーな感じもしますけど、それもいいアクセントになっているというか……」
「何個でもイケるのだー!!」
若干不安だったけど、意外と高評価を得られた。見た目のインパクトが強すぎて、好き嫌い分かれると思ったんだけどね。
ちなみに僕は、味よりもちょっと憧れてた料理を食べられた感動の方が勝っていた。
……ちなみに、アンはなぜか個人的に所持していたトウガラシを追加で料理にかけていた。
いつのまにあんな物を……。
夕食が終わると、使ったスコップは歩いて返した。
その間、女性陣はシャワー――はないので、一等車の洗面台で身体を拭く。お湯も出るし、カーテンを閉められるので簡単に身体の汚れを拭くくらいなら十分だと思う。ついでに歯を磨けるし。
もちろん、スコップを返す方が早いので、僕は一等車の座席で待つことになる。
しばらくすると、アンが洗面台を使い終わったと報告しに来た。
「トシノリさん、私達は終わりましたよ。……それにしても、覗きに来てくれなかったんですね。私達はいつ来てもらってもよかったのに」
「そんな勇気ないから」
「エディさんとは一緒にシャワーを浴びたそうですけど?」
「身体の洗い方がわからないって言ってたし。それに、あの時はトラ耳と尻尾のインパクトが強すぎて、恥ずかしいとか思えなかったし。でも今は、ちょっと意識しちゃうというか……」
「そうですか。まぁ、馴れすぎてしまうのも考え物ですけど、馴れなさすぎもどうかと思いますが……それはまあ追々考えましょう。では、私は先にお部屋に戻っていますので」
なんか、最後の言葉は意味深だったな……。
考えても仕方ないか。僕も身体を拭いて寝よう。
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