第21駅 新車両と北部大陸への道 ~クロスタウン他~

 クロスタウンに戻り、そのままこの日は休んだ。

 そして翌日。僕はスキルレベルが三十になっており、新車両が使えるようになっていたことに気付いた。


 そういうわけで、今日は新車両のお披露目をやることにした。


「それじゃあ……はい!」


 位置は、一等車両と販売車の間。

 現れた車両は、クリーム色を主体に茶色で植物の葉のラインが描かれているデザインだった。

 乗降扉にはドアノブが着いており、車内側に開く仕組みになっている。結構レトロな車両に近いスタイルらしい。


 車内に乗り込み、乗降扉と似たデッキの扉を開いて客室に入ると……。


「おお、扉がたくさん! イチ、ニ、サン、シ……全部でやっつあるのだー!!」


「まるで建物の中みたいですね……」


 そう。どこかの建物の中のように、扉がたくさんある空間になっていた。


「これが『コンパートメント車』だよ。『コンパートメント』っていうのは車両の席の種類の一つで、個室席の事なんだ」


 今回使えるようになった車両は、コンパートメントのみで構成された『コンパートメント車』だった。

 前の世界では色々な車両でコンパートメントが設置され、様々なデザインやレイアウトの物があったけど、この車両は世界的に有名なイギリスの魔法学校物の長編小説で、主人公が学校に行くときに乗った列車の座席に近いイメージだった。


 実際、近くのコンパートメントの中に入ると、列車の前方側と後方側に向かい合う形でソファが配置されている。ソファは緑を基調としたウィリアム・モリスデザインを彷彿とさせる植物モチーフの柄。ヘッドレストはソファ本体に差し込むのではなく、ヒモで上部の金具からつり下げる形で設置されている。

 窓の上には真鍮製の棒を何本か使った荷物置きがあり、窓の下部には小さいながらもちょっとしたテーブルが置かれている。ちなみに折りたたみ式で、展開すればそれなりの大きさにはなった。

 ソファの上にはハンガーがつられていて、上着を引っかけられるようになっていた。


 ちなみに、このレイアウトやデザインはどの部屋も変わらないらしい。


 後部デッキにはトイレがあった。

 中は一般車両や一等車両のトイレとは違い、手洗いスペースが少ししっかりしていた。壁に埋め込まれる形ではなく、小スペースでもきちんとカウンター状になっていた。

 便器については、本体は変わってないけど便座が変わっていた。なんと木製だった。

 極めつけは床。タイル張りなんだけど、なんと細かいモザイク画になっていた。タイルで見事な『花瓶に刺さった花』が描かれていた。


「……とまぁ一通り見たんだけど、この車両、どう?」


「顔を合わせて座れるのはいいのだー! エディ達には、こっちの方が合ってるんじゃないかー?」


「私もエディさんと同意見です。それに、トイレの床は見事ですね。トレビシックの王宮でも、あそこまでトイレに芸術を持ち込んではいませんでしたから」


 概ね好評らしい。

 そして今日を境に、僕達がメインで使う客車はコンパートメント車になった。




 そして、僕達は北部大陸へ行くための行動を開始した。

 まず、有蓋車と家畜車をそれぞれ増やした。二台目の有蓋車と家畜車に、輸出用の商品と家畜を搭載するためだった。


 で、それから一週間程度かけて南部大陸の駅を巡った。

 再びクロスタウンに戻ってきたとき、かなり走り回ったせいかスキルレベルが三十五に上がっていた。


「あ、これは便利そう。『寝台機能追加』だって」


「よければ、寝台形態をお見せしましょうか?」


「よろしく、トム」


 本当は夜八時から寝台にする規則らしいけど、今回特別に寝台形態を見せてもらう事が出来た。

 まずやって来たのは、トム・スタッフズ。鉄道員と言うよりはホテルマンのような服装をしている。


「トム・コンシェルジュです。寝台系の車両をはじめ宿泊業全般の仕事を担当します」


 コンシェルジュって、ホテルでお客さんのリクエストを受け付ける係の事じゃなかったっけ? なのに宿泊業全般の仕事をするなんて……。まぁ、深くツッコまない方がいいのかな?


 さて、やってきたトム・コンシェルジュなんだけど、開いているコンパートメントに入ると、まずヘッドレストを取り外してソファの背もたれを跳ね上げたんだ。

 そしてソファの下の収納スペースからマットレスとシーツを取り出すと、マットレスを折りたたんだソファの上に置き、素早くシーツで包んだ。

 さらに、跳ね上げた背もたれに固定ベルトを取り付けると、これも同じくマットレスとシーツを引いた。

 そして掛け布団を取り出し、これも素早くシーツに入れると綺麗にベッドの上に配置。

 取り外したヘッドレストは、吊されていたヒモを取り外すと枕カバーを取り付け、ベッドに設置。

 最後に二段ベッドに登るためのハシゴを取り付た。


 反対側のソファも同様に寝台をセット。これで寝台形態は完成らしい。


「素朴な疑問なんだけど、この仕掛け、コンパートメント車が使えるようになってからあったの?」


「答えはNOです。これらの仕掛けは、スキルレベルが三十五になってから初めて獲得したものです」


 なんか最初からこういう仕掛けがありました、みたいな感じだったけど、そういうわけじゃないんだね。


「トシノリさん、これはすごい機能ですよ! 私達、一等客車の座席を倒して眠ろうとしていたんですけど――これで寝るのが楽になりますよ!」


 アンの言うとおり、僕達は最初、一等客車の座席を倒して夜を過ごすつもりだった。

 だけど、あの座席は最大四十五度までしか倒れない。普通に座る分にはものすごく楽なんだけど、寝るには無理な体勢なんだよね……。

 だけど、コンパートメント車が寝台に出来るようになったから、楽に寝られるようになる。


「おおー、列車の中で寝られるのか? すっごく面白そうなのだー!!」


「うん。まあ、面白そうなのは否定しないけど……」


 前の世界では乗ることはなかったけど、実は寝台車に乗って列車の中で寝るのはかなりワクワクしている。

 だけど、ちょっと気になる点が……。


「トムは大丈夫なの? 寝台形態を獲得したっていうことは、夜通し列車を走らせることも出来るってい意味だけど……」


「睡眠の事ですか? ボク達精霊に睡眠や食事は不要です。ただ、疲れて休もうとすれば、自動運転も出来ますけど」


「自動運転!?」


 初耳だ……。グラニット号に、そんな機能があったなんて……。


「目的地をセットしておけば、自動で動いてくれます。ただ、目的地に設定できるのは設置してある駅限定です。駅を設置していない場合、行きたい方角へいつまでも走り続けることになります。

 まぁ、今回の場合、北部大陸へは三日はかかりますから、途中自動運転を行っても問題ないでしょう。目的地に着く直前に手動運転に切り替えればいいだけですし」


 かなり便利な機能なんだなー。

 とにかく、トムの疲労に関する懸念はないことがわかったので、安心して北部大陸に行ける。


「それじゃあ、明日の朝に出発しようか」


 こうして、僕達は当面の目標であった北部大陸へ向け、旅を始めることになった。


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