第20駅 ハチミツのヒミツ ~クロスタウン・南部大陸最北端間~

 オオミツバチのハチミツを手に入れた僕達は、レビーベアにリベンジするべくクロスタウン北の密林を歩いていた。

 というのも、エディに考えがあるそうで、レビーベアに気付かれるギリギリの位置まで列車で移動し、そこからは徒歩で距離を詰めていた。

 密林を歩く関係上、僕達全員作業服に身を包んでいた。


「ところでエディ。レビーベアの居場所がわかるの?」


「当然なのだ。あいつのニオイ、覚えているのだ!」


 すごい。最初にレビーベアと遭遇したとき、距離があった上に列車内にいたはずなのに。

 おそらく、車両の換気システムを通じてレビーベアの匂いも入ってきたんだと思うけど……それでもかぎ分けられるエディの嗅覚は、ものすごく鋭いみたいだ。


 しばらく歩いていると、エディが僕達に警戒を促した。


「他の魔物が見つからないから近いと思っていたけど、もうすぐなのだ……ほら」


 エディが指で示した先に、以上に大きなクマがいた。

 そのクマは体長が大きいが、それ以上に目立つ特徴があった。首元が白いネックレスのような模様になっていて、その中心部分にルビーみたいな赤い石が埋め込まれていた。


「あれが……レビーベア……」


「やはり、普通のクマとは違いますね……。あの首元の石とか……」


「ママの話だと、あの石がネンリキの源らしいのだ。……それじゃ、気付かれないうちにハチの巣を……」


 エディは、抱えていたオオミツバチの巣を投げ込んだ。

 それに気付いたレビーベアは、なんと何も警戒することなく一目散にハチの巣に走り寄り、興奮した様子で巣を破壊。そのまま一身不乱に舐めまくった。


「すごい食いつきよう……」


「本当にハチミツが大好物なんですね。……あれ? なにか様子がおかしいような……」


 アンのいうとおり、レビーベアはハチの巣を舐める度に興奮度合いが以上に増していった。

 そしてしまいには千鳥足になり、酔っ払ったような状態になってしまった。


「実は、あの領域に住んでいるオオミツバチだけが集める花のミツがあってなー。そのミツの中になめたらなんだか楽しくなっちゃうモノが入っているらしいのだー」


「っていうことは、あのレビーベアは今……」


「結構たくさんなめたからなー。幻覚でも見てるんじゃないかー?」


 そういえば、ヒマラヤオオミツバチのハチミツの別名を聞いたことがある。

 その名は『マッドハニー』。春に咲くツツジから集めた蜜に含まれる毒によって、大さじ三杯食べるだけで向精神作用を発揮し、大量に食べると幻覚を見るとか……。

 そういう効果を持っているからこそ『マッドハニー』の別名が付けられたらしい。ただ、向精神作用を発揮するのはさっき言った通り春に咲くツツジによるものなので、時期をずらせば普通のハチミツと何ら変わらないそう。


 まさか、この世界でも向精神作用を持つハチミツがあるなんて……。


「とにかく、これでアイツは隙だらけなのだー。後は……」


 すると、エディはレビーベアに近づき――。


「そおおおぉぉぉぉぉりゃああああぁぁぁぁ!!」


 レビーベアを投げ飛ばした!

 そして、レビーベアが自由落下を始め、着地寸前になったとき――。


 ポオオオオオオォォォォォォ!!


 甲高い蒸気音が鳴り響いた。

 僕達は急いで音が響いた場所に向かうと、そこにはグラニット号と、その前で蒸気を噴き出した(様に見える)レビーベアの死体が転がっていた。


「お帰りなさい、皆さん。作戦は成功ですよ」


「お、やったのか!? さすがトムなのだー!!」


 エディが考えた作戦はこうだった。

 まず、僕達がレビーベアに気付かれないよう徒歩で移動。オオミツバチの巣を投げ入れ、ハチミツを舐めさせる。

 このハチミツには向精神作用があるので、レビーベアは正常な思考が出来ない状態に。その隙を突き、エディが投げ飛ばす。

 投げ飛ばした先には、あらかじめスタンバイしていたグラニット号が。レビーベアの着地位置に合わせてトムが適切な攻撃をして、レビーベアを仕留める。


 今回はグラニット号の目の前に落ちてきたらしいので、真正面に向かって噴射する高温蒸気攻撃を選択したらしい。

 おかげで、レビーベアは蒸し焼きになった――というワケ。


「では障害を取り除いたことですし、最初の目的地まで行ってみましょう。最北端の地へ」


 トムの提案に従い、僕達は列車に乗り込んだ。

 もちろん、レビーベアの死体も一緒に運び込んだ。




「ここが、南部大陸最北端……」


 当初の目的地であった南部大陸最北端に着いた僕達は、列車を降りてその目でこの場所を見ていた。

 この場所は、北へ向かって細い陸地が続いていた。まぁ、細いと言っても大陸に比べたらの話で、グラニット号と同じくらいの大きさの列車であれば十車線確保出来そうなくらいには幅があるんだけど。


「エディ、ここには来たことないのだー」


「この陸地を渡れば、北部大陸に渡れるんですね。でも、今は……」


「まだ準備が必要だね」


 ここを渡ってどのくらいの日数で北部大陸へ辿り着けるかわからないし、それまでの食事も必要。そもそも、北部大陸へ向かう目的はお金の獲得なので、商品として売るための物を確保してこないといけない。


「トム、北部大陸までどのくらい?」


「大体わかりました。グラニット号で三日ほどです。ただ、街がどこにあるかまでは……」


「そこまで心配しなくても大丈夫です。スタッキーニ王国の都『ウリッセ』は、南部大陸へ至る道の目と鼻の先にあると聞いていますから。この陸地を渡りきったら、すぐ着きますよ」


 ということは、当面の目標は……。


「三日分の食料の確保と、商品の確保。この二つを目標に行動しよう」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る