第19駅 レビーベアとハチミツ ~ハニーガーデン~
クロスタウンに撤退してきた僕達は、トムから詳しい説明を受けていた。
「ボクが目撃したのは、確かに飛んでくる岩でした。そして、西の方にある影が見えました」
「ある影?」
「クマです。正確に言えばクマ型の魔物ですが」
なるほど。っていうことは、あの飛んできた岩ていうのはつまり――。
「そのクマの魔物が投げた物ってこと?」
「投げたと言えば投げたと言えますけど……手を触れずに岩を投げたんです」
「手を触れずに投げた!?」
ちょっと意味はわからないけど……可能性があるとすれば……。
「風魔法が使えてそれで岩を飛ばしたって事?」
「いえ、そうではなく。念力を使うんです。ボクは『レビーベア』と呼んでいるのですが、魔法で念力を使い、様々な物を飛ばす能力を持っているんです」
「魔法で念力を……。南部大陸の魔物は、本当に不思議ですね」
アンはレビーベアの存在に関心していた。
「あー、あのクマかー」
「知ってるの、エディ?」
「うん。めちゃくちゃナワバリ意識が強いヤツでなー。入れもしないのにレイラインの上に岩を投げて、ナワバリを主張しているのだー。最初に見た岩も、絶対にあのクマの仕業なのだー」
「なるほど。ところで、エディはレビーベアと戦った事はあるの?」
「ママが戦っているところを見たぞー。ママにかかれば岩投げなんて簡単に避けられるし、なんなら投げてきた岩を連続で飛び移って、そのままクマに襲いかかっていたのだー。……だけど、今のエディにはそこまで出来ないし、勝てるかどうかもわからないのだ……」
うーん。となると、北部大陸に行くのはかなり難しくなるのかな……?
「けど、弱点は知っているのだー」
「弱点!? そ、それって!?」
「それは――ここから東にある領域にあるのだ」
翌日。エディが話していた情報を元に、僕達はクロスタウンの東を目指し列車に揺られていた。
「ここなのだ」
「クロスタウンの東隣の領域だったんだね」
この領域、車窓から見ただけで特徴がよくわかった。
フルーツタウンほどではないけど、果物が何種類か自生している。ただ、それ以上に多いのは花だった。
ハイビスカス、プルメリア、アメリカデイゴといった熱帯の花がほぼ領域中を覆っているんじゃないかというくらい咲いていた。
「花はたくさんありますけど、ハチもよく目に付きますね」
「そうなのだ、アン! ここはミツバチがいっぱいいて、よくハチミツが採れるのだ!」
なるほど。ここはそういう領域なんだ。
ということは、ここの駅名はもう決まった。
聖樹の麓に辿り着くと、いつものように駅を出現させ、そして名前を付けた。
「ここの名前は『ハニーガーデン』だね」
『ハチミツ』と『花畑』を組み合わせてみた。まぁ、花畑は英語で『フラワーガーデン』なんだけど、語呂を良くするため『ガーデン』の部分だけ採用した。
「それで、ここにレビーベアの弱点になるものがあるの?」
「そうなのだ。あ、でも、一応身を守る物……確かヘルメット? と軍手? それとハシゴ? っていうのを持って行った方がいいと思うのだ。エディは大丈夫だけど」
――なんか不安になってきた。
「着いたのだ」
「え、あれって……」
エディに連れられてやって来たのは、聖樹とまではいかなくとも十分巨木と言えるくらい大きな木だった。
ただ、その木にぶら下がっている物が非常に目に付いた。
「あ、あの……あれは本当にミツバチなのでしょうか? 私が知っているミツバチよりも随分大きいと思うのですが……」
アンの指摘通り、この木にぶら下がっているハチの巣が異様に大きかった。それに比例するかのように、ミツバチの身体も大きかった。
スズメバチなんじゃないかとも思ったんだけど、あのハチの巣は蝋質で出来ているっぽいし、ミツバチの巣で間違いないと思う。スズメバチだったら薄く削った木で出来た巣のはずだから。
そしてあの巨大ミツバチ、僕はインターネットの図鑑で見たことがあった。
「まさか、オオミツバチ……?」
「知っているんですか、トシノリさん?」
「僕がいた世界では、世界最大級のミツバチなんだよ」
特に有名な仲間は、ヒマラヤオオミツバチじゃないかな?
断崖絶壁に巣を作るオオミツバチで、このミツバチのハチミツを取る部族も存在しているらしい。
そしてそのハチミツは、国王クラスの人でなければ食べられなかったらしい。巣が断崖絶壁にある関係で取ってくるのが大変で、めちゃくちゃ貴重だから。
「な、なるほど……。ですが、そのハチとレビーベアと何か関係があるんですか?」
「アイツの好物なのだ。ハチミツ全般が好きだけど、あのデカいハチの蜜は特に大好きで、戦っている最中でもあのハチの巣を見つけるとすぐに巣を取って舐めまくるのだ」
「なるほど。で、聖樹の領域内でオオミツバチが生息しているここでハチミツを取って、それをレビーベアに投げ付けて夢中になっている間に倒そうって作戦?」
「そうなのだ。それ以外にも理由はあるけど……。まずはアレを取ってくるのだ」
すると、エディは何かを取り出した。
「トムからちょっといじった魔石を貰ったのだ。これを投げ付けると……」
巣の下に落ちた魔石は、大量の煙を吹き出した。
「魔力を込めた煙が出るようにしたのだ。あのハチは肉食のハチ並みに凶暴で毒が強いからなー」
「なるほど、魔力を混ぜた煙で酔わせるのですね」
アンの話によると、虫などの生物に対して膨大な魔力を浴びせると、その生物が寄ってしまうことがあるらしい。
ただ、相手のサイズや保有魔力量など様々な要因に左右されるので、素人ではわかりづらいらしいけど。
「で、よって動けなくなった所を回収するのだ」
「なるほど。それでハシゴが必要なんだね」
僕は素早く木にハシゴを立てかけ、アンとエディの支えを受けつつハシゴを登り、巣を切り取った。
「最後に、巣の中にいるハチを追い出して……これでOKなのだ!」
というわけで、僕達は新しい領域の探索と対レビーベアの切札を手に入れたのだった。
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