第17駅 販売車と方針 ~カフェマウンテン~

 翌日、新たに獲得した車両を確認するため、僕達は駅のホームにいた。

 実はカフェマウンテンに到着した所でレベル二十になっていたらしい。


「それじゃ、一等車両の後ろに連結する形で……召喚!」


 現れたのは、青の車体に白いラインが描かれた車両だった。

 乗降口とデッキ内の扉は、一等車両と同じくスイッチもしくはタッチ式の自動スライドドア。そして車内の様子はと言うと――。


「おお、いろんな物が置いてあるのだー!」


「お店みたいな車両ですね」


「『お店みたい』じゃなくて、本当にお店だからね」


 前方一面にレジカウンター、残りは食料品や文房具、日用品など様々な物が棚やディスプレイ用冷蔵子に陳列されている。さながらコンビニを大きくしたような車内。


 これが、魔道鉄道レベル二十になったことで獲得した『販売車』。文字通り、様々な物を買うことが出来る車両だった。


 特にうれしい商品が二種類あった。一つは医薬品。

 ドラッグストアにあるような一般的な薬だったけど、あるのと無いのでは大違いだと思う。特に医師もいない、僕達だけしかいない現状では心強い品だった。

 そしてもう一つが……。


「やった、衣類だ……!」


 今まで、僕はこの世界にやって来た時に着ていた服のままだった。洗濯しているときは駅にあった作業着を着ていたけど、下着だけは替えが無かった。

 だから、乾くまで下着無しの状態で過ごさなくちゃいけない時が二日に一回はあったんだよね。

 エディの場合はもっとひどく、元々服を着ていなかった。今は作業服を着ているけど、下着だけはどうしようもなかった。


 唯一アンだけが色々と服や下着を持っていた。

 ただ全部女子用の衣類だし、エディはサイズ的にアンの服を着るのが難しい。下着は他の人の物を穿くのに抵抗がある。

 そんなわけで、衣類事情が一番良かったのはアンだけだったんだよね。


 そして今回、販売車を手に入れたことで衣類の入手の目処が立ったってわけ。


 デザインや形状はシンプルな物ばかりで、種類もそんなに無いけど、生活するだけなら問題ない。

 早速、アンに相談してみた。


「いいですよ。お二人のお洋服の事について、私も思うところがありましたので……」


 と言うわけで、下着・洋服の上下を呼び込みで三セットずつ購入。シンプルでデザイン性がほとんど無かったので、三人合わせて一万アウルムもしなかった。

 なお、アンは自前の服があるので買う必要が無いはずなんだけど、本人曰く、


「お二人だけ同じお洋服だと、なんだか私だけ仲間はずれにされている気がするので……。それに、私が持っているお洋服だと探索するときに動きにくかったりするので……」


 とのこと。


 その他にも常備薬や気になる商品をお試しで買ってみて、会計するためにレジカウンターに向かったその時だった。


「いらっしゃいませー」


「え……ちっちゃいトム!?」


 なんと、レジに立っていたのは、トムを小さく幼くした様な人だった!


「それは、ボクから分離した魂――分霊とか分け御霊と呼ばれるものに近い存在です」


「またいつの間にか現れたね、トム。それよりも、分霊ってどういうこと?」


「グラニット号は、駅に停車すると自動的に修理やメンテナンスを行う仕様になっています。ですが、車両内部の清掃などは仕様の対象外です」


「ん? ということは――」


 アンが何かに気付いた。


「もしかして、車両のお掃除もトムさん……と言うより、トムさんの分霊の方がやってくれていたんですか?」


 一応、僕達は駅の仮眠室や給湯室といった自分たちが使っている部屋を掃除して列車に乗り込むようにしていたんだけど、列車内まではほとんど手が回っていなかった。


「そうですね。皆さんが列車から降りている間にやっていました。それが鉄道の清掃というものですので。それに、駅構内で皆さんの手が回っていなかったところも出発後にやっていましたよ」


「それは……ご迷惑をおかけしてしまいましたね」


「いえ、お気になさらず。それがボクの分霊の仕事ですので。良い機会ですので、ボクの分霊について紹介しておきましょう」


 トムが話すところに寄ると、トムの分霊はまとめて『トム・スタッフズ』と呼んでいるらしい。

 その中でも清掃担当は『トム・スイーパー』、販売者の店員は『トム・クラーク』、家畜の世話をするのは『トム・ファーマー』と言うそう。


 ちなみに、現在できる限り家畜の世話は僕達の手で行っているけど、僕達がいないときや夜間はトム・ファーマーがお世話しているらしい。


「スタッフズの事は、セカンドネームで呼んでいただけるとありがたいです。今後、新たな車両や設備を入手したりすると新しいスタッフズが誕生したり、人数が増えます。逆に魔力鉄道の状況によっては人数が減ります」


「人数が減る?」


「例えば、人間をスタッフとして雇用したりして必要人員が確保された場合などです。ですが、スタッフズで無いと難しい業務内容もあるので、完全な消滅はまずあり得ません」


「なるほど、大体わかったよ」


 一連の説明を聞き終えたので、アンに商品の精算を頼み、販売者から降車した。




「トシノリさん。実はそろそろ真剣に考えた方がいいことがありまして……」


 販売車で買った食べ物を駅構内で食べていると、アンから話を切り出された。


「お金を稼ぐ方法を考えないといけません」


「あー、なるほど……」


 販売車を得たことにより、食料や医薬品の入手が簡単になった。ただし、『お金があれば』という条件が付く。

 現在お金を持っているのはアンだけ。亡命資金として大金を持っているし、換金性の高い貴金属や宝石類も持っているらしいけど、限りがある。そもそも宝石なんかを売る手立てが無い。

 どうもこの世界、大きさと金属の比率さえ合っていればお金として世界中どこでも使えるらしいけど、お金の材料となる金属を全て持っているわけじゃないし、持っていたとしても金属加工技術が無いので作れない。


 だから、誰かと商売してお金を入手する方法を探さないと行けない。


「私としては、スタッキーニ王国と商売するべきだと思います。南部大陸から近いですし、そこの国王は私の事を知っているはずですから」


 スタッキーニ王国。北部大陸最南端に位置する国で、アンが亡命するはずだった国。

 確かに位置的にもアンの人脈という意味でも、最適かも知れない。


「と言うことは、北を目指して北部大陸に行く道を探さないといけないのか――。エディ、この大陸の北端に行ったことは?」


「ないのだ。そんな端まで行く事なんて今まで無かったし……。だけど、一番北にある聖樹の領域なら行ったことがあるのだ」


「わかった。とりあえず、当面はその最北端の領域を目指そう」


 こうして、僕達は北へ進路を取ることになった。


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