第16駅 自販機とコーヒー ~カフェマウンテン~

 スパイスプレインを一通り探索し終えた僕達は、残るセントラルシティの南側を探索すべく、列車に乗って移動していた。

 現在はスパイスプレインからセントラル駅に戻っている最中で、そこから直接南に向かう。日が落ちるまでには南の領域に入っているんじゃ無いかな?


 ところで、スパイスプレインに到着した時点で魔力鉄道のレベルが三十五になっていた。

 それに伴い、ある設備が一等車両の後部デッキに設置されていた。


「これが『自販機』かー」


「お金を入れると、飲み物が入った容器が出てくるんですね」


 そう。自販機が設置されていた。それも二台。

 一台は缶やペットボトル飲料を扱う自販機。もう一台は、カップ販売している自販機。


 ちなみに、自販機を使うには当然ながらお金が必要。一応、この世界のアウルム貨幣が使える。

 ただ現状、お金を持っているのはたった一人しかいないわけで……。


「せっかくですし、何かごちそうしますよ。私は紅茶で」


「じゃあ、僕はカップのコーヒーで」


「エディはサイダーっていうのを飲みたいのだ」


 と言うわけで購入。アンとエディの紅茶とサイダーは500ミリリットルペットボトルでそれぞれ150アウルム、僕のコーヒーはLサイズで140アウルムだった。


「……けっこう濃い紅茶ですね。砂糖も多めで甘いです。お茶も砂糖も一部地域でしか採れない貴重品で、普通ならこれ一本で数万アウルムはしますよ」


「これ、シュワシュワして甘いのだ。しかもスッキリした飲み応えなのだー」


「なるほど、炭酸水に砂糖を混ぜているんですね。炭酸水は世界各地に湧き出る源泉がありますが、砂糖を使っているとなると数千アウルムはするでしょうね。ところで、トシノリさんのそれは?」


 僕のコーヒーを不思議そうに見ながら、アンが聞いた。


「コーヒーって言って、コーヒー豆を焙煎して粉末にして、煮出した飲み物だよ。こっちの世界じゃ知られてないの?」


「はい。全くの初耳です。少し味見してもいいでしょうか?」


 拒否する理由が無かったから、僕はアンにコーヒーのカップを渡した。


「うっ……。香りはいいですけど、かなり苦いですね」


「エディも飲んでみるのだ。……ウエッ、トシノリはよく飲めるなー」


「大人はこの苦みが好きらしいけどね。僕達の年代だと、苦手なのが普通だよ。僕が異常なだけで」


 実際、僕が同世代の他の子に比べて苦みに強いのは事実だった。家庭科の授業で緑茶を淹れたんだけど、何の問題も無く飲めたのは僕だけで、余った緑茶を全部僕が飲んだ。

 あと、作文で僕がコーヒーをブラックで飲めることをさらっと発表したら、宣誓を含めみんなに驚かれていた。


「これはブラックって言って何も混ぜていないコーヒーだけど、好みで砂糖やミルクを入れることもあるんだよ」


「そうだったんですか……。だとすると、最低でも一杯1000アウルムはするものになってしまいますね……」


 とまぁ飲み物談義に花を咲かせていると、毎度おなじみというかトムが放送でいきなり割って入ってきた。


『トシノリさん、一等客車で自動販売機を確認しましたね? 確認が終わったので、これからは駅構内で自動販売機が設置されます』


 駅の方も、成長したらしい。




 目的地の領域に到着したのは、夜に入り始めてからの事だった。

 暗かったのでわかりづらかったけど、聖樹が他とは違う形という事だけはわかった。

 なんと、聖樹の三分の二が山に埋まっていて、山頂に聖樹のてっぺんが覗いていたんだ!

 ちなみに、領域内の走行している時に見たんだけど、どうやらこの領域、面積の半分以上が山岳地帯で、標高が全体的に高めみたい。

 幸運なことに、山自体はそんなに険しくなく、ちょっとしたハイキング感覚で歩き回れてしまいそうな山だった。


 僕は山の麓に駅を構え、今日はそのまま夕食を取って寝ることにした。

 さすがに時間的に七面鳥を締めて処理する気が起きなかったので、ジャガイモとトウモロコシとトウガラシの炒め物とフルーツ盛り合わせ、そしてホームにあった自販機から買ってきた(アンに買って貰った)コーンスープにした。


「おー、こんなものも自販機に売ってるんだなー」


「これは……トウモロコシをスープにした物ですね? それに、食べ物も自販機で買えるなんて……」


「調べたけど、食べ物になりそうなのはコーンスープとゼリー、お汁粉、カップ自販機にかき氷があっただけだったよ。さすがに食事全部を自販機で賄うのは無理かも……」


 とまぁ自販機を話題に話しながら、食事を過ごしたんだ。




 翌日。朝食を食べてからこの領域を調査した。


「お茶の木がありましたよ」


「シュワシュワな水が湧いていたのだー」


「この赤い実……もしかして、コーヒー?」


 何の因果か、自販機が使えるようになってすぐに飲み物の原料が自生する領域を発見するとは……。

 ともかく、駅の名前が決まった。


「『カフェマウンテン』って名前を付けよう」


 喫茶店で出すような飲み物の原料がある山だから、そう名前を付けた。


 駅に帰ると、今日手に入れた戦利品を早速味わおうという事になった。

 ちなみに、炭酸水は昨日エディが飲んだサイダーのペットボトルを綺麗に洗って詰めることにした。アンが飲んだ紅茶のペットボトルは炭酸水用では無いので、あきらめてペットボトル用のゴミ箱に捨てた。


 まず着手したのはお茶。発酵を必要とする紅茶はさすがに作れないので、発酵させない緑茶を作る。

 蒸し器で蒸して冷ました後、フライパンで煎る。これだけ。

 味や風味を追求しようとするともっと色々あるはずだけど、個人で出来るのはこれくらいなんだよね。


 炭酸水は、パイナップルを潰した物と混ぜてみた。


「おー、いつも食べているパイナップルがスッキリした感じになったのだー」


「このお茶、スエノブ皇国で飲まれているお茶みたいですね」


「スエノブ皇国?」


「北部大陸の東の海上にある島国です。どうもトシノリさんがいた国と似たような文化を持つ国のようですけど……」


 気になる。いつかスエノブ皇国に行けたらいいな。


「ところで、コーヒーはどうされたんですか?」


「あー、コーヒーかー……」


 実のところ、何の機械も無い状態ではコーヒーを作るのは手間がかかる。

 まず果肉を剥かなきゃならないんだけど、手作業でやるとすっごく面倒なんだよね……。


「でも果肉はほんのり甘みと酸味があっておいしいらしいから、いっそのこと果物扱いで有蓋車に乗せとこうかなーって。食べていくうちに豆が溜まるはずだから、ある程度溜まったら飲料のコーヒーを作ろうって思ってるんだけど……」


 コーヒーの果肉は『コーヒーチェリー』って言って、結構おいしいらしい。乾燥しさせてお茶にも出来るらしい。

 ただ、果肉がそんなに採れないせいもあって、前の世界ではなかなか市場に出回らなかった。


「そうですか……。では、その時をお待ちしていますね。私、何度か挑戦すれば苦みに馴れると思うんです」


「エディはもうちょっと遅くてもいいのだ。砂糖かミルクを手に入れてからでいいのだ」


 二人の好みが、ちょっとわかったかも知れない。


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