第14駅 即位式 ~セントラル駅~

 七面鳥を集め終わった後、昼食を取ってグレインハイランドへ向かう。

 ただ出発の前に、車両編成を見直しておいた。現在の編成はこんな感じ。


機関車―一般客車―一等客車―有蓋車―家畜車


 無蓋車とホッパ車は、今のところ使う予定が無いので外した。


 グレインハイランドに到着すると、とりあえずデントコーンを少しだけ採取し、七面鳥に与えた。時間的に、これだけで日が暮れてしまったからね。

 翌日、消費した穀物の補充と七面鳥用のデントコーン採取を本格的に行い、昼過ぎにセントラル駅へ向けて出発した。


 そして移動中、アンに人間社会について色々教えて貰っている。今はお金の種類について教わっているところ。

 アンは一等客車の折りたたみテーブルにお金を置き、僕とエディに説明していた。


「お金は『アウルム』という単位を用いています。貨幣の種類は一、十、百、千、万、十万、百万の貨幣が存在しています。一万アウルム貨以下が普段の生活で使う場合が多く、十万アウルム貨と百万アウルム貨は国や商人が取引で使ったり、不動産や宝石といった高額商品を買う際に使用されることが多いですね」


 ちなみに、アンは全ての貨幣を持っていた。王族が亡命生活を送るし、亡命先の国の王と接触する計画だったから、高額貨幣を持っていたらしい。


「ちなみにアウルムという単位も、貨幣も全世界で通用します。総重量と使用されている貴金属の割合が統一されているからです。貨幣の意匠は国によって違いますけど」


「世界通貨ってこと!? 普通、貴金属の割合って国によって違うと思ったんだけど……」


「大昔はそうだったらしいです。ですが、ある時トムさんのような精霊付きの彫金スキルを持った人物が現れたんです。その人はどんな国でも無理なく、かつ貨幣としての価値を維持できる絶妙な貴金属配合率の貨幣を考案しました。その貨幣が瞬く間に全世界へ普及しまして、現在に至っているのです。そして、その彫金師の方は伝説の人として今も語り継がれています」


「そうだったんだ。でも、一カ国くらいは自分たちの好きなようにお金を作りたいって思わないのかな?」


「今となってはもう不可能ですね。世界通貨の普及と同時に世界的な交易・物流網も速いペースで構築されました。今、独自通貨を作ろうとすれば、交易・物流網から出て行かなければならないのと同義ですから。そうなると国の経済は大打撃ですよ」


 と、貨幣談義を繰り広げていたところ、エディが何かを思い出したように口を開いた。


「アウルムって言葉、なんか聞き覚えがあるのだ。なんか周りの大人がよく言っていたような……?」


「そうでしたか。もしかしたら、エディさんは商人の家の出身かも知れませんね。お金のことをよく話すのは、国の財務関係の役人か商人くらいですから」


 僕もエディの生家について少し考えてみたけど、すぐにやめた。当たり前と言えば当たり前だけど、少なくともエディは自分を捨てた親のことをよく思っていないから。

 エディの親とは、白虎の神獣なのだから。


「ところでアン。即位しきって、具体的に何をするの?」


「主に国の主になったことを宣誓し、国の内外に知らせることですね。宣誓とは国王としての責務を全うすることを誓うことです。誰に誓うかと言うと、信仰する精霊――特に王へスキルを与えた精霊に対しての場合が多いですね。なので、神殿で行う場合が多いです。あとは、精霊と共に歴代国王に対しても行う国があると聞きます」


 南部大陸には神殿なんて無いから、駅の中でやるのかな? 特に僕達の場合は精霊が姿を現している状態だから、トムに直接宣誓する形になりそう。

 歴代国王への宣誓も無いね。僕が初代国王になるんだから。


「そして国の内外への告知ですが、これは国の各地へそれを伝える役人を派遣したり、文書を送付したりします。それと国内の貴族や海外の来賓を招いて、国王自ら王位への即位を宣言します。式の後のパーティーもある種の告知とも言えますね。ですが……」


「国民なんて僕達しかいないし、どの国も僕達の存在を知らないから、来賓なんて招けないよね……」


 告知についてはこれくらいにして、アンがその他の即位式でよくある儀式を説明する。


「あとは、代々国王に伝えられる宝物や国王の証と言える物の継承も儀式の一部として行いますね。代表的な物と言えば、王冠、印章、宝剣、杖、アクセサリーなどですかね」


「でも、今はそんな物ないし……。強いて言えば魔力鉄道だけど……」


 トムの話によれば、魔力鉄道は僕の血縁者に継がせることが出来るらしいけど、もうすでに僕の物だし。

 っていうことは――。


「精霊――トムへの宣誓だけで終わりそうだね」


「そうですね。まぁ、一から作った国の即位式と考えれば、当然かも知れませんけど。ある意味、原始的な即位式に近いかも知れません。そう思えば趣深いと言えるかも知れませんが……」


『間もなく、セントラル駅です』


 トムからの放送だ。もう目的地が近いらしい。

 思ったよりもシンプルな即位式で終わりそうだと思いながら、僕達は列車を降りる準備を始めた。




 列車から降りると、すぐに即位式の準備に取りかかった。

 と言っても、さっきアンと話していたとおり、トムに対して誓いの言葉を述べるだけになる。

 ただ、それでも式典を行う以上ある問題があるんだよね。


「どんなに簡素でも、服装はきちんとしなくてはなりません。お二人とも、礼服やそれに準じる服はお持ちですか?」


「いや。僕はこの世界にやって来たときに着ていた、この服だけだよ」


「エディは、服すら持っていなかったのだ。トシノリにこの服を貰って、ヒサビサに服を着たのだー」


 そう。式典で着るような礼服を持っていなかった。

 アンはスタッキーニ国王に会う計画だったことを踏まえて、コンパクトで簡素なドレスを一着持っているらしいけど……。

 ただ、礼服になりそうな服について、僕は一つ心当たりがあった。


 その場所は、仮眠室。そこのロッカーを開け、ある服を取り出しアンに見せた。


「ほら、これ。本当は鉄道職員の制服なんだけど、これが礼服の代わりにならないかな?」


「トムさんが着ている服と似ていますね。一種の職業専用の正装、と言うわけですか……。いいのではないでしょうか? この国は鉄道を中心に据えるのですから、むしろふさわしい服装とも言えますね。ところでトシノリさん、国名について考えていますか?」


「うん。もう考えたよ。即位式で発表するから、楽しみにしてて」


 宣誓する際、国名を言わなければならない。まだこの国の名前は全くなかったけど、今日この日から国の名前を名乗ることになる。


 そして全員制服に着替えると、ホームの機関車前に集合。そこで即位式として宣誓を行う。

 僕はトムの前に進み、跪いて誓いの言葉を述べた。


「私、井上 俊徳は、今日この日より『グラニット王国』の国王に就任します。以後、その力を手放すその日まで、国のため、民のために尽くすことをここに誓います」


「わかりました。以後、今日の宣誓の言葉を忘れず、励んで下さい」


 トムから承認の言葉を得て、即位式は終了。

 続いて僕は立ち上がり、後を振り向いて来賓や国民達(今はアンとエディしかいないけど……)に向けて宣言を行う。

 この時、なるべく国王らしく威厳を感じられる態度や口調で言え、とアンから言われている。


「聞いての通り、本日よりこの国の王に即位した井上 俊徳である。そしてこの国の名称を、我がスキル『魔力鉄道』にて出現した機関車の名称『グラニット号』から名を取り、『グラニット王国』とすることにした。また、この街の名前がまだ未定であったため、駅の名前から取って『セントラルシティ』と名付けることにした。以後、このセントラルシティを都とする。

 これからこの国のため、民のため、全力を尽くす所存だ。皆も我に力を貸して欲しい」


 パチパチパチ――。


 観客二人としては惜しみない拍手を送られ、即位式は終了した。

 実際はこの後にパーティーとか色々あるのが他の国では通例になっているんだけど、グラニット王国はまだそこまで基礎が出来ているわけではないし、来客も以内ので割愛する。


「スゴいのだ、トシノリー! カッコよかったのだー!!」


「非常に様になっていましたよ。それにグラニット王国やセントラルシティという名称もセンスが感じられます!」


「ありがとう。そう言ってもらえて嬉しいよ。じゃあ、今日はもう休もうか。短い時間だったけど、馴れないことをして疲れちゃってさぁ」


 儀式をやってわかったけど、こういう形式張ったことをすると結構体力を持って行かれる。馴れていないのもあるんだろうけど。

 僕達は駅舎へ入り、その日は外出することは無かった。


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