第13駅 新車両と家畜利用 ~ターキーウッズ~

 翌朝。朝食を食べ終えた僕達は、駅のホームに立っていた。


「――これでよし、と」


「おお、新しい列車が現れたのだ!」


「駅を出現させた時点で察してはいましたが、何度見ても驚かされますね」


実はターキーウッズに到着した時点で、魔力鉄道のレベルが10に上がっていた。その結果、新しい車両が使えるようになったんだよね。


「じゃあ、最初に後の車両から」


 一つ目の車両は、有蓋車の後に連結させた車両。見た目は有蓋車と同じなんだけど、有蓋車に付いたスリットよりもさらに広いスリットが入っている。

 入り口は前後の小さい扉と、側面の大きな扉。小さい方が普段使いの扉らしい。

 小さい扉から中に入ると、非常に狭い空間があった。さらに奥へ行く扉があるので、開いて中へ進む。


「おお……」


「これが……」


「『家畜車』だね」


 『家畜車』。文字通り、家畜を始めとした動物を運ぶための車両。

 広いスリットは動物を快適に、かつ病気などにならないよう最大限換気に配慮したため。小さい扉の先に狭い空間があったのは、逃走防止のための二重扉ってこと。

 ちなみに、側面の大きい扉は大型動物を出入りさせるための専用扉らしい。


 家畜車の中だけど、車両前方の壁際に蛇口があった。これは、掃除と飲み水用の水が出る。

 中央にはエサ入れと水入れがあって、後方の隅には掃除用具を入れるロッカーや家畜を扱う上で必要になる器具が収められた棚があった。

 ちなみに、柵やエサ・水入れは自由にレイアウト可能で、運ぶ動物によって適した配置にすることが出来るらしい。


「かなり設備がいいですね。このまま牧場の施設にしてもいいくらいです」


「でも、エサを置いておく場所が無いんだなー」


「限られた空間しか無いからね。盗み食い防止のためにあえて付けていないんだと思う。有蓋車とセットで運用して、エサは有蓋車で保管するようにしているんじゃないかな?」


 家畜車は一通り見終わったので、次はもう一つの新車両を見に行くことにした。

 もう一つの新車両は、一般客車と有蓋車の間に連結させるようにしている。


「これが『一等客車』だね」


「一般客車とは少し雰囲気が違いますね」


 もう一つの新車両『一等客車』は、外見は白をベースに青い植物をイメージしたラインが描かれている。

 アンが一般客車と雰囲気が違うと言ったけど、確かに僕もそう思う。描かれているデザインこそレトロ車両っぽいけど、全体的な雰囲気や窓の形が新幹線に近いんだよね。


 車両に入ってみる。乗降口は前後にあって、なんとスイッチで開閉するスライド式。よく電車が長時間停車するときに省エネ目的で乗客に扉を開閉させることがあるけど、あれとまるっきり同じシステムだった。

 デッキから客室に入るときはなんと、『ここに触れて下さい』と書かれたパネルに手を振れ開ける、タッチセンサー式の自動扉だった。


「おー、触っただけで勝手に開いたのだ」


「かなり高度な技術ですね。しかも一定時間が過ぎるとひとりでに閉まります」


「……言われて見ると、確かにすごいかも」


 僕は主に利用者目線で鉄道を見てきたことが多く、技術や管理手法は余り興味なかったんだけど、多分こういう自動扉はマイコンみたいな装置で動きを管理しているんだと思う。

 この世界に命令を記憶・実行させる装置があるかどうかはわからないけど、仮に無かったとしたら時代を何百年も先取りしている技術じゃないだろうか。


 さて客室の中だけど、壁紙の色や証明が非常に暖かく、床はフカフカの赤いカーペットが敷かれている。

 座席は全て進行方向を向いていて、片方が二列、もう片方が一列で配置。座席一席がかなり大きく、前後の距離もかなり取っていて非常に広い。頭上には、飛行機に見られるフタ付きの荷物置きが。


 座席は非常に高級な皮が張られていて、カラーは車内の雰囲気に合わせて落ち着いた配色。クッションもよく効いている。

 注目したのはアームレスト。ここの側面にスイッチがたくさん付いていて、ヘッドレスト、背もたれ、腰、足を独立して動かせるみたい。しかも後の人に迷惑をかけない構造になっている。

 さらにヘッドレストの横あたりから読書灯が伸びているし、アームレストにテーブルが収納されていて、展開すると結構大きい。しかもスライドして好きなポジションを取らせることが出来る。

 前方の座席の下に足かけがあって、そこに足を引っかけて楽な姿勢を取ることが出来る。


 そして、それぞれの座席には袋が置いてあって、中にはスリッパ、アイマスク、毛布が入っていた。これを使って移動中くつろいでくれという事っぽい。

 で、ここまで設備を見て僕はこう思った。


 ――グランクラスだこれ!


 新幹線の中で最上級の席、グランクラス。快適な座席とサービスは多くの人々のあこがれで、僕もインターネットや投稿動画でグランクラスの様子を見ながら、いつか乗ってみたいと思っていた。

 結局乗る前に死んでしまったけど、まさか異世界でこういう形で乗ることになるとは。

 これで軽食サービスが付いていたら完璧なんだけど、ちょっと現状では望めないかなぁ……。


 ちなみに、後部デッキは右側にトイレ二部屋、左側に洗面台が二台あった。トイレは一般客車のトイレと違いリノリウムの床で、全体的に明るい色をしていた。

 一般客車のトイレよりかは広く、手洗い場も大きめだけど、便器の能力はあまり変わらないね。それでも嬉しいけど。


「この客車、すごく快適ですね」


「身体が痛くなる心配が無いのだー!」


「そうだね。それで、二種類の客車を手に入れたことでやった方がいいことが出来た」


 その、やった方がいいことと言うのは――。


「七面鳥を乗せよう」


 というわけで今日は昼頃まで、七面鳥を家畜車に乗せるため、七面鳥の捕獲に乗り出した。

 今は列車に冷蔵庫なんて乗せられないし、従って七面鳥を食肉加工して乗せても日持ちしない。通風車に乗せてもほぼ意味は無いと思う。

 けど家畜車があるんだったら、生きたまま乗せればいいよね、という結論になった。


「うーん……なかなか捕まらないなぁ……」


「結構難しいですね。触れるのがやっとです」


「みんなヘタなのだー。このくらい、生きたまま捕まえるのなんて楽勝なのだー!」


 まぁ結局、僕とアンは七面鳥の捕獲を試みるも全く捕まらず。目標の十五羽は全てエディが捕まえた。

 ちなみに、家畜車はニワトリや七面鳥、ウサギのような小型の家畜であれば二十~三十匹程度が乗せられるらしい。

 だけど世話をするのは僕達だし、あまり多く乗せすぎると手に余ってしまう可能性もあるので、あえて十五羽に限った。


「それで、これからどうするのですか?」


「一度グレインハイランドに戻ろうと思う。七面鳥を飼うことになった以上、エサを確保しないと。グレインハイランドに飼料用のトウモロコシを見つけているから、それを採りに行こうかなって」


「そうですか。でしたら、そのままトシノリさんがこの世界に最初にやって来たという、セントラル駅までそのまま行きたいのですが……」


「いいけど、どうして?」


「――即位式を行うためです」


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