第12駅 結婚と子作り ~ターキーウッズ~
「私と結婚しましょう!」
「はい!?」
え、なんで結婚なんて単語が出てくるの!?
そもそも僕達の年齢で結婚なんて、できるの!?
「順を追って説明しますと、民が国王の統治を認めるのは王に流れている血を重視しているからです。かつて相当な努力を積み重ね、苦難を乗り越え国を打ち立てた初代国王を始め、国を安定し、もしくは富ませるよう腐心して統治した国王の祖先に経緯を払っているからです。言わば国王が背負っている歴史に敬意を表しているわけです。
もちろん、最終的には当代の国王の人柄や手腕を問われるわけですが、まだ就任当初で功績を打ち立てようが無い時期には非常に重要な要素です」
うん。まぁ、間違いでは無いと思う。
「ですが、トシノリさんはまだ十二歳と若すぎますし、強力なスキルを持ち精霊が常に姿を見せ付き添っているという類い稀で奇蹟とも言える状況を見せているわけですが、まだ人心掌握に不安が残ります」
「そ、そうなんだ……」
っていうか、トムみたいに精霊が姿を見せて人間に付き添っているのって、相当レアなんだ。
言われて見れば、エディにもアンにも精霊は付いていないみたいだし、確かに奇蹟なのかも。
「このままでは統治が上手くいかず、家臣が好き勝手して、仮に建国できたとしても早い段階で崩壊してしまうでしょう。そこで、私とトシノリさんの結婚です。
私と結婚し、トレビシック王家の一員となり、敬意を集めるのです。それに私との間に出来た子供は確実にトレビシック王家の血を引く存在なので、その敬意は子孫に残せます。つまり、恒久的に安定した国の運営に繋がるのです!」
言っていることは理解出来る。この世界のことはまだわからないことだらけだけど、王家があって国王がいて、そして王が政治を直接行っている。
そういう世界であれば、結婚で国を安定させるのは有効な方法なんだと思う。
けど、いくつか疑問点が。
「ところで、僕達の年齢でも結婚できるの? お互いに十二歳だけど」
「国によって前後しますけど、トレビシック王家の場合は十六歳から結婚が認められることになっています。ですが、今回は政治的判断によって超法規的措置という形で結婚を行おうと思います。国の安定のために、一刻も早い結婚が必要ですので」
スゴイ事言い出したね。でもまぁ、前の世界のことを思い返してみても、似ているような事例はあった。
超法規的措置っていうのはあんまり聞かなかったけど、災害が起きたときなんかに政府が自分から招聘した専門家の意見を聞かず、中途半端な対策になったり専門家の意見と真逆のことをやったりしていたのをニュースで見たことがある。結果はどうなったかはともかくとして、論理や科学を無視してしまうのが政治の世界なのかな、と多少は思ったりもした。
そう考えると、アンはもしかしたら、ものすごく政治家的な人なのかも知れない。
「ところでさ、君は政治的な面からしか語ってないけど、心の方はどうなの? その……愛情、とかさ」
「確かに愛情は必要です。ですけど、愛を長続きさせるのは難しいのです。だったら、結婚生活を長続きさせるには打算があった方が楽だと思いませんか?」
うん、まぁアンの言うとおりなんだろうけど……達観しているなぁ。まさか僕と同年代の子から、ベテランコメンテーターがテレビで言うような言葉を聞くとは思わなかった。
――と、二人で結婚話を色々していると、エディが爆発した。
「ズルいのだ! 二人だけでケッコンの話なんかして! エディもトシノリとケッコンしたいのだ! エディとトシノリで、サイキョーの子供を作るのだーーーー!!」
「あら、いいですね。南部大陸に住む聖獣に育てられた子、そしてその血を継ぐ子が生まれれて王家の一族に加われば、さらに箔が付きますから。それに、身分が高い人ほど多くの妻を迎える者ですよ? 理由は様々ですけど、主に政治的な理由ですね」
どうやら、この世界は一夫多妻制みたい。それを行う理由が政治的なものって言うところに妙なリアルを感じる……。
そして十分にもわたって二人から迫られ続けた僕は、とうとう根を上げた。
「わかったから! 二人とも僕と結婚しよう!」
「やったーーーー!!」
「ありがとうございます。ですが結婚式を挙げていませんし、この状況でどうやって式を挙げるのかと言うことについても検討を重ねる必要がありますから、今は婚約という形で収めましょう。今はもう一つの大事なことを考えた方がいいです。それは――」
アンが一呼吸置き、神妙な空気が流れる。
そして彼女が放った言葉は――。
「――子作りです」
「あー、なるほど。確かに子供は作りたいよね。でも、子供って結婚してから出来るものじゃないの?」
「まあ、トシノリさんは清廉潔癖な方ですのね。ですが、結婚式を挙げられずとも子供を作ることは出来ますし、政治的にも早急に生むことが求められます。ですので、すぐにでも子作りを――」
「いやいや、結婚していない人の所に子供が来るわけ無いでしょ?」
子供は、結婚してから生活していると自然に授かるものだと聞いているんだけどなぁ。
でも、アンの言い分からして、なんか結婚生活とは違うというか、結婚生活の中のさらに一部分を指して言っているような気がするんだけど、何を言っているのかさっぱりわからなかった。
五分ほどかみ合わない会話を続けていると、エディがある一言を放った。
「トシノリ-、コイツは交尾のことを言っているのだ」
「交尾? 動物が子供を作る行為でしょ? 確かオスがメスの上に乗っかるんだっけ?」
「動物によってまちまちだけどなー」
「でも、交尾は動物の話であって、人間は関係ないんじゃ……?」
「いやいや、何を言っているのだ? 人間も動物なんだから、交尾しなきゃ子供は出来ないのだ」
そしてエディは、なぜかハーとため息を吐き、アンに顔を向けた。
「トシノリのヤツ、交尾のことを知らないみたいなのだ。今、話し合ってわかったのだ」
「交尾を……知らない……?」
さらに、アンは僕を見てまるで珍獣でも見たかのような表情になった。……なぜ?
「トシノリさん、確か十二歳でしたよね? その年にもなって子作りを知らないというのはいささか信じられないのですが……話が進まないのでお教えします」
そして、アンから子作りについて説明を受けた。僕も男女で身体のつくり、特に股間の部分が違うことぐらい知っていたけど、その意味がようやくわかった。
それと、男子の股間に付いているモノがおしっこを出す以外の機能を持っていることを初めて知ったし、いわゆるエッチな感情の根っこが子孫を残す欲求に繋がっていることも、アンに説明されて知ることが出来た。
「……な、なるほど……。全部初耳だった……」
「いや、これくらい知ってて当たり前ですよ? 王侯貴族や家業を持つ民などは、跡継ぎが非常に重要ですので十歳くらいで教わりますし、それ以外の人々でも十二歳までには教わるはずですが……。トシノリさんのいらした世界の教育は、どうなっていたんですか?」
「ちなみに、エディはママが交尾していたところを影から見ていたのだー」
教育がどうなっていたかなんて言われても、教えられていないから答えようが無いよ……。
話が一段落したところで、アンがコホンと咳払いをした。
「とにかく、一刻も早く子供が必要ですので、トシノリさんはすぐにでも子作りを行っていただきたいのですが……」
「それなんだけどさぁ、ちょっと待ってくれないかな?」
「なんでですか!? もしかして、私と身体を重ねるのが嫌とか……」
「いや、嫌ってワケじゃ無いけどさ……」
別にアンもエディも嫌いじゃないし、いつかは正式に結婚してそういう関係になりたいとはぼんやりと思っているんだけど、懸念点はそういう感情論じゃ無いんだよね。
「ここってさ、医者がいないでしょ? そんな状態で子供を産むとなると、危なくない?」
前の世界では、日本だとあまり赤ちゃんが死亡する事件は限りなく低かった。でもそれは発達した医療のおかげであって、一昔前はバタバタ死んでいったって言う話は聞いたことがある。
もちろん、母親の命も同じ話だった。
「医者が以内状態だと赤ちゃんが死んじゃったり、最悪君やエディも死んでしまうかも知れない。それこそ政治的に最悪な状態じゃないの?」
「そ、それは確かに……」
「ご心配には及びませんよ」
結構真面目な話をしている最中、首を突っ込んできた存在が現れた。トムだった。
「ネタバレになるのであまり言いたくは無かったのですが、あまりに真剣にお話をされていたので特別にお教え致します。実はトシノリさんのスキル『魔力鉄道』ですが、レベルを上げると医療車が使えるようになります。いつ獲得出来るかまではお教えできませんが、少なくとも安全に出産できることはお約束致します」
それを聞いたアンは、ものすごく明るい笑顔になった。
「本当ですか? でしたら、早くレベルが上がるよう方法を考えなければ……!」
「エディも手伝うのだー! エディも早くトシノリと交尾して、サイキョーの子供を産むのだー!!」
そしてあーだこーだとアンとエディの間で活発な話し合いが始まってしまった。僕が口を挟むのを躊躇してしまうくらいの熱気だった。
ところが、途中でいきなりアンの口が止まった。それから言葉を口に出した。
「そうでした。まだ婚約段階とは言え、お二人ともこれから家族になるのですから、私の事は『アン』とお呼び下さい」
アンのことを、同い年だけど高貴な人だから、どう呼べばいいか迷っててなんとなく『君』呼びしてたんだった。
でも、アンから呼び方をお願いされたので、これからは『アン』と呼ばせてもらおう。
「それとですね……先ほど政治面や利害関係だけで結婚を主張してしまいましたが……トシノリさんへの好意はあるんですよ? 予定していた場所からずれ、南部大陸に放り出されて心細くなっていた私を、颯爽と救って下さって……かっこいいな、と思いましたから……」
恥じらったように告白するアンを見て、僕も少しドキッとしてしまった。
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