第11駅 建国と結婚 ~ターキーウッズ~

 獲ってきた七面鳥を適度に切った素焼き、グレインハイランドで採取した茹でジャガイモとトウモロコシ、そしてフルーツタウンで採っていたカットフルーツの盛り合わせを夕食にした。


「……どれも見たことがない食べ物ですね」


「北部大陸にはないんだ」


「はい。ちらっと見ましたけど、あのような鳥は見たことがないですね」


 北部大陸の食糧事情をアンから少し聞きつつ、僕は一番気になっていた七面鳥を食べてみた。日本ではあまり七面鳥は出回っていなかったからね。

 食べてみると、前の世界で調べてみたとおり、油が少なくさっぱりしていた。


「ところで、麦はなかったんですか?」


「なかったね。石灰があればトウモロコシを使ってパンっぽいのを作れるんだけど……。あと、米があった。精米は僕達だけじゃ難しいから、採ってこなかったけど」


「そうですか。それでええと……」


「あ、そうか。僕達の事、まだ名前も教えてなかったね。では、遅ればせながら――僕は井上 俊徳。井上が名字で俊徳が名前ね。で、こっちがエディ。なんで僕達がここにいるかというと――」


 そして、僕は自分が一度親に殺されてやって来た転移者であること、エディはスキルのせいで親に捨てられ南大陸に飛ばされたこと(これは列車内で少し話した)、そして僕のスキルやトムのことを話した。


「なるほど。あの乗り物やこの建物はトシノリさんのスキルの力なんですね。建物がいきなり現れたので建築系やそれに類似する魔法のスキルかと思いましたけど、それとは少し違うようです。そして精霊のトムさんですか――」


 しばらくアンは考え込んでいたけど、いきなりとんでもないことを言い出した。


「トシノリさん。国を建てませんか?」


「え?」


 訳がわからないことを言われた。

 国を建てるって言っても、今いる人間はトムを含めて四人。たったそれだけで建国するって言われても、無理な話だと思う。

 でも、とりあえず話だけ聞いてみよう。


「えっと……なんでそんなことを考えたの?」


「ほんの少ししか見ていませんけど、それでも国を建てる、しかも大国に化けるポテンシャルを南部大陸は秘めています。そもそも北部大陸の人間は、南部大陸は強力な魔物が跋扈していて人間が安全に住むことは不可能だと思っています。それは間違いではありませんが、実際には聖樹の領域が点在していて、そこに住むことが可能なのです」


 国を構成するためには、人――国民がいないといけない。南部大陸は、土地はあるけど国民が住めず、従って南部大陸に国を作るなんて誰も夢にも思っていなかったんだね。

 でも、実際は国民が住めるから、国を興そうと思えば興せると。


「そして、南部大陸の特産品。どれも北部大陸では見たことがないですし、味もいいです。お話を伺ったところ、トシノリさんはまだ南部大陸を全て探索していらっしゃらない様ですが、今発見されているこれらの品々だけでも輸出品として十分魅力的ですし、外貨獲得は比較的容易いかと」


「なるほど。でも、どうしてそんなことがわかるの?」


「私、『商才』のスキルを持っているんです。商売に関する能力が伸びるスキルなんですが――個人差があるんです。物価の相場を正確に予測できたり、セールストークが上手くなったり、人によって異なります。私の場合は、商品の探索・発見が得意で、私が見た品をどこでどのように売れば効果的かがわかるんです」


 っていうことは、今テーブルに並んでいる料理を見て『売れる』って確信したんだ。


「そして最後に、トシノリさんの『魔力鉄道』です。領域間の移動は常に魔物の脅威に脅かされていますが、魔力鉄道であれば比較的安全に、しかも馬車よりも輸送力があります。これを活用すれば、貿易も国内流通も効果的に行えます」


「うん。理論上はその通りだと思う。だけど、たった一編成だけだとたかが知れていると思うよ。それに一回死んだから言えることだと思うけど、僕だって永遠の命があるわけじゃ無い。僕が死んだら魔力列車がどうなるかわからないし、仮に消えてしまったら国民生活がボロボロになって、国が滅ぶんじゃないかな?」


「そこはご心配なく」


 やっぱり来ると思った。毎度のごとく、トムがいきなり現れて説明を始めた。

 ちなみに、アンはまだ馴れていないからかビクッと身体を震わせていた。エディは全く気にせず食べているけど。


「魔力鉄道のような物体を呼び出すタイプのスキルは、スキルの持ち主が亡くなっても存在し続けますし、血縁者へ受け継がせることも出来ます。まぁ、成長要素は失われてしまいますが。それと数についてですが、レベルが上がれば何編成か増やす事が出来ますし、そもそも魔力鉄道の基本的な技術は、がんばればこの世界の技術者が到達できるものです」


「え、そうなの!?」


「はい。なので、今後のトシノリさんの活動次第ですが、いずれ魔力鉄道を何百編成も縦横無尽に走らせると言ったことも可能です」


「でしたら、トシノリさんがおっしゃった懸念は解決可能ですね」


 アン、ものすごく言い笑顔だ。自分の語ったプランが実現可能だと知って喜んでいるんだと思う。

 ところが、場が建国するという方向に傾けかけたとき、水を差した人物がいた。エディだった。


「ところで、なんでオマエは国を建てたいのだ?」


 食事に集中していた人物からいきなり話しかけられたからだろうか、アンは一瞬唖然としていた。

 でもすぐに頭を切り換え、切り返した。


「先ほどお話ししたように、南部大陸の持つポテンシャルを考えれば国を建ててしまった方がメリットが大きいからです。私にとっても、もちろんトシノリさんにもエディさんにもです」


「う~ん……それはウソでは無いと思うのだ。でも、オマエはまだ話していないことがあると思うのだ。それに、まだオマエの心の部分を話していないのだ」


 言われて見れば、確かに。

 アンはエディの言うとおり、政治・経済の話しかしていない。彼女の心の部分、動機を一切話していない。

 国を建てるっていうのは、ものすごく重いことだと容易に想像できる。政治・経済の問題だけじゃ無く、心が入っていないと行動を起こそうとは思えない。


「……そうですね。確かにエディさんの言うとおり、建国の動機について話していませんでしたね」


 そう切り出すと、アンは意を決した表情で話し始めた。


「私は両親から、トレビシック王家の血を絶やさないよう託されました。今トレビシック王国を取り返すのは無理ですが、いつか国を取り戻すチャンスが訪れた時、トレビシック王家は旗頭となって国を奪還、王位を取り返すためです。

 ですが、偶然南部大陸にやって来て、ここの実情を聞いたとき、こう思いました。『バルツァー帝国を凌駕する大国に化ける可能性を秘めている』と。スタッキーニ王国に庇護を求めるよりずっとトレビシック王国を取り戻せる可能性が高いですし、理論上独自に軍を動かすことも可能。もしかしたら、私が生きている内に取り戻せるかも知れない!

 そう思って、トシノリさんに建国を勧めたのです」


「つまり、君は愛国心と両親への思いから、建国したかったんだね」


 僕の親はひどい毒親だったことが最後の最後でわかったんだけど、あれでも僕が幼稚園生の頃は普通に愛情を注いでいたし、もしあのままの関係が続いていたとしたら、アンの思いも理解出来る。受験のせいで化けの皮が剥がれたけどね。

 それに大地をレイライン上に限り自由自在に動ける魔力鉄道を持っているし、駅を簡単に建てられるスキルの都合上、自分達が自由に出来る力があった方がいい。

 鉄道は土地をたくさん使う不動産業的な性格が強いし、街の発展にも大きな影響を及ぼすからね。


「わかった。アンの提案に乗って、国を建てよう。鉄道を運営するんなら、他人の横槍を入れたくないしね」


「ありがとうございます! それと、もう一つ提案があるのですが――」


 なんだろう? 今はちょっと機嫌がいいから、大抵のお願いなら聞いちゃうかも。


「私と結婚しましょう!」


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