第10駅 亡国の王女の加入 ~グレインハイランド・ターキーウッズ間~

 とりあえず女の子を客車に乗せて、事情を聞くことにした。

 ちなみに、列車を走らせながら話を聞いている。


「……助けていただいてありがとうございます。私はアン・トレビシック。トレビシック王国の王女です」


「トレビシック王国……?」


 僕はエディと顔を見合わせたけど、何の解決にもならない。僕はこの世界に来てから人間社会のことは知らないし、エディは五歳の時に南部大陸に来てから人間社会と隔絶されていたから、国名を聞いてもピンとこない。


「その……僕達、人間社会と関わってないからさ、国名を言われてもよくわからないんだよね。北部大陸の地理も、どういう国があるかもよく知らなくて」


「それは……そうですね。南部大陸で生活をしていらっしゃる時点で、そういう可能性があるんですね。トレビシック王国は、北部大陸の北東にある島国です。私はその国を治めている国王の娘、と言うわけです」


 なるほど。トレビシック王国についてはなんとなくはわかったけど、本音を言えばもう少し詳しく聞きたい。国の規模とか。

 ただ、今はなぜ王女という高貴な地位にいる人物が南部大陸に来たのかという疑問から解決していきたい。


「王女っていう高い地位の人が、なぜ南部大陸に? 僕自身が言うのもなんだけど、ここはどんなに戦闘力が高くてサバイバル能力も秀でている人でも、普通に生きることが難しい土地なんだけど……」


「実は……北部大陸最大の勢力を誇るバルツァー帝国がトレビシック王国に侵略を行いまして……。王都ターンブルは陥落。両親は私を逃がすため、北部大陸の南端にあるスタッキーニ王国へ転移魔法で送り出す予定でした」


 この子も訳ありだったんだ。国から逃げることを余儀なくされた、ファンタジー作品でたまに見かける『亡国の王女』なんだ。


「ただ、素直にスタッキーニ王国へ転移させると、魔法の痕跡から私の居場所を突き止められてしまいますし、私の事を名目にスタッキーニ王国へ侵略の手を伸ばすことも考えられるので、南部大陸へ目標を定めたのです。魔法が失敗すれば痕跡を追跡出来なくなりますから」


「だけど、意図せず魔法が成功してしまった、と」


「エディと同じなんだなー」


 結果だけを見れば、エディとアンは同じだった。その目的は、子供を逃がす為と捨てるためという真逆のものだけど。


「だけど、疑問が残るね。僕は北部大陸から南部大陸への転移は失敗しやすいって聞いたんだけど。成功した直近の例がこのエディで、数年前の出来事なんだ。わずか数年でまた転移の成功ってありうるのかな?」


「そうですね……おそらく、魔法使いの質の問題だと思います。子捨てを行うような転移魔法使いは、その……そういう仕事を行うしかないくらい未熟ですから。王室に召し抱えられている魔法使いは優れた技術をお持ちなので、未知の南部大陸でも転移に成功する確率が高かったのかと……」


 なるほど、技術の問題。確かに理に適っているね。

 それと、この世界の魔法使いの事情を少し知ってしまった。


「それでさ、君はこれからどうしたい? 今は難しいかも知れないけど、君が亡命する予定だったスタッキーニ王国だっけ? そこに送り届けることも出来ると思うし……」


「……少し、考えさせていただけませんか? ここまではっきりと質問に答えられた自分に少し驚いていますけど……両親がほぼ死ぬ寸前の状態で、色々託されて送り出されたので……整理する時間が欲しいのです」


「わかった。僕達は前の方の席にいるから、いつでも話しかけていいから。行こう、エディ」


 客車が一両しか無いから、こうやって距離を離すしか出来なかった。本当は一人にしてあげた方がよかったんだろうけど……。

 結局、目的地に到着するまで僕達とアンの間に会話は無かった。




 目的地の聖樹の麓に到着すると、いつものように駅を召喚してホームに降りた。


「本当にたくさんいるんだね」


「そうなのだ! 数が多いし、飛ばないから捕まえるのが楽なのだ!」


 エディが言っていたとおり、この聖樹の領域には七面鳥がたくさん生息していた。

 そのほかの特徴としては、林と言える程度には木が生えている。


「よし。この駅の名前は『ターキーウッズ』にしよう」


 ターキーは七面鳥、ウッズは林。そのまんまだね。


「さて。僕とエディは駅周辺を探索するとして……君はどうする? まだ悩んでいるんだったら、部屋を用意しておくけど」


「はい……お願いします」


 というわけで、僕はアンを仮眠室に案内し、トイレの場所を教えた後、すぐエディと一緒に駅の外に出た。


 駅の外に出てしばらく探索したけど、この領域は七面鳥に特化していて、どこも七面鳥で埋め尽くされていることがわかった。

 まだ領域の端から端まで調査したわけでは無いけど、この領域全体がおそらく同じ傾向にあると思う。


 エディが一羽の七面鳥を捕まえてきて、駅のそばで捌くことになった。


「それじゃ、始めるのだ」


 エディの爪はスキルの影響で、二種類の形態を自由自在に変えることが出来る。

 普段は人間と同じ爪。戦闘時や木に登るときは、長くて鋭いトラの爪に変化させる。


 エディはトラの爪で七面鳥を素早く絞めると、手際よく血抜きをし、要領よく羽をむしって内臓を取り除いた。


「早いし、要領がいいね。何回もやってるの?」


「ママに教えて貰ったのだ。三回くらいやってみたら身体が覚えたのだ」


 聖獣って言うのはすごいね。そのままがっつく野生動物や魔物とは違って、食べやすいように捌き方を考えるらしい。

 そう考えていたら、エディはあっという間に七面鳥を捌き終えてしまった。このまま丸焼きにすれば、七面鳥の丸焼きとしてそのまま食卓に出せそう。


「ありがとう、エディ。あとはこのまま料理をしよう」



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