第2駅 はじまりは大樹の下で ~精霊との出会い~
「ん? ここは……」
気が付くと、僕は自然溢れる場所にいた。
草木が生い茂っていて景観がいい場所なのは間違いないんだけど、一番目立つのは――。
「大きな木だなぁ」
他の木とは比べものにならないほど大きい、てっぺんが全く見えない木だった。
明らかに元の世界では見られない木であり、僕が異世界に来たことを実感させられる。
「すごいでしょう? これが北部大陸では見られない『聖樹』ですよ」
「うわぁっ!? 誰!?」
突然後から声をかけられ、びっくりしてしまった。
振り返ってみると、そこには僕より二~三歳くらい年下っぽい、白い貫頭衣を着た男の子がいた。
「失礼しました。ボクはトム。南部大陸に住む精霊です」
精霊……。そんな存在がいるのか、この世界は。
「ところで、あなたはなぜここに? 南部大陸は魔物が跋扈していて危険なのに、こんな奥地まで、しかも無傷どころか服も一切汚さずにたどり着けるなんて……」
なんか魔物とか奥地とか気になるワードがいくつか出たけど――ここは、信用されない覚悟で全てはなすしか無いかも。
「僕は井上 俊徳。井上が名字で、俊徳が名前。ここに来た理由なんだけど、信じられかも知れないんだけど――」
「――なるほど。別の世界で生きていて、死んでからこの世界にやって来たのですね。ボクは何百年も生きていますが、そう言う話は聞いたこと無いなぁ。でも、状況的に信じるしか無いですね」
消極的ながら、信じてもらえたらしい。信用されるどころかどこかおかしい人扱いされるかもと思っていただけに、これは大成功だ。
ただ、また『数百年生きた』とか気になるワードが出てきたけど……。
「待てよ? ということは、スキルも与えられていないわけか……。トシノリさん、と言いましたね? よければ、スキルを獲得してみませんか?」
「スキル? って何?」
「ああ、異世界から来たんだからそこから説明を始めるべきですよね。スキルというのは、その人が持つ技能のようなものです」
さらにトムから詳しい説明をされた。
スキルは、この世界では少なくとも十歳までには発現する。正確に言うと、トムのような精霊が授けてくれるらしい。
精霊というのは有名なものからマイナーな存在まで多種多様いて、精霊は気に入った子を見つけるとスキルを与えてくれるんだそう。
また、中にはスキルが無いとさわりの部分すら到達できないものが存在していて、魔法がその最たる物なんだそう。
……っていうか、魔法あるんだ、この世界。どうもファンタジーな世界っぽい。
「恥ずかしい話、ボクは生まれてから今日まで誰一人としてスキルを与えられていなくて……。南部大陸には人間が以内から当然なんですが……。だから、自分がなんの精霊だか絶賛迷子でして……。だから、お願いします! スキルを与えるチャンスをボクに下さい! スキルを与えれば、その悩みが少しでも解消する気がするんです!!」
『自分は何者か』か。そういう悩みを持つ人は結構多いって聞いたことがある。
後から聞いた話だけど、精霊の場合は生まれてから百年以内に『自分はこういう精霊だ』っていうのがなんとなくわかるんだって。それが与えるスキルで表現される場合が多いらしい。
ところが、トムは人間がいない土地で生まれたため、与えるスキルの内容もわからず、自分が何の精霊か数百年経ってもわかっていない。
だから、ある種の焦りがあるんだと思う。
そういう事情を聞くと『なんとかしてあげたい』と思ってしまうし、これから僕がこの世界で生きていく上でスキルは必須になると思う。
「わかった。それじゃあスキルをもらえないかな?」
「わかりました! では、行きますよ!!」
トムが指を鳴らすと、一瞬だけ僕の身体が光った。
それと同時に、ある変化が僕に身に起こった。
僕は普段からメガネをかけているのだが、メガネのつるに小さいスイッチがいつの間にか付いていたんだ。
とりあえず、そのスイッチを押してみた。
「目の前に画面が!? そうか、スマートグラスみたいなものかな」
メガネを通して見える画面には、次のように表示されていた。
・スキル:魔力鉄道
・レベル:1
・使用できる車両:機関車、一般客車、無蓋車、有蓋車
・使用できる駅:地平駅
「解説しますと、ボクが与えたスキル『魔力鉄道』は、魔力で走る鉄道を召喚するスキルです」
「鉄道だって!?」
出た、『鉄道』!!
僕があのお姉さんに要望したのは『鉄道旅行がしたい』だった。その願望を転移先の世界に合わせた形で実現するって言ってたから、このスキルが『この世界に合わせた形』なんだろうか!?
それによく見たら、今まで貫頭衣みたいだったトムの服が、列車の運転手みたいな制服と帽子に変わっている。
「まず、駅が無ければ始まりません。最初に駅を作りましょう」
「え? 鉄道って言えばレールなんじゃ?」
「それは何とかなりますので。先に駅を作って見ましょう」
ちょっと疑問が残るが、とりあえずトムの言うとおりにしよう。このスキルを与えた張本人でもあるし。
やり方だけど、さっきのメガネ越しに見えた画面。現在の自分の状態を示す項目以外にもいくつかボタンがあって、その中から『駅設置』を選択。
さらに設置したい駅の種類から『地平駅』を選択――って言っても、まだこれしか選択できないけど。
最後に、実際に設置するとどうなるかAR画像みたいな感じで映し出されるので、それを参考にしながら駅の設置位置を決め、決定ボタンを押す。今回は聖樹の麓に決めた。
すると、実際に駅が出現した。
ただ、ホームは一つ、併設している駅舎は小さい小屋みたいな建物だった。
中は、なんと改札が自動改札じゃなくて、もうほとんど姿を思われる人力の改札だった。
改札の他には、小さいベンチが一つだけ。ホームにも何ヶ所かベンチがあるだけだった。
「この扉、『関係者以外立ち入り禁止』って書いてあるけど」
「大丈夫です。トシノリさんは関係者、鉄道のオーナーですので、気にせず入って下さい」
大丈夫なはずなのにちょっと悪いことしてるなぁという不思議な感覚を感じながら扉を開けると、そこは机とイス、電話、そして棚が何台か置かれた事務室だった。
一角がカウンターとガラス張りになっていて、小さな穴の集合体が円状に並んでいる部分、その下にはカウンターに接する形で長方形に穴が開いていた。
おそらく、ここで切符を売るんだろう。
事務室にはさらに扉があり、開けてみると四つの扉があった。
一つは大人一人が使っただけでいっぱいになってしまうようなシャワールーム、もう一つの扉はIHヒーター付きの給湯室。三つ目の扉はトイレになっていた。
そして最後の扉を開けると、ベッドが三台ある部屋だった。どうやら仮眠室らしい。
仮眠室にはロッカーがいくつか置いてあり、その中には鉄道職員の制服らしき服と作業服、それとヘルメット、軍手が収納してあった。このセットは全てのロッカーに同じように常備してある物らしい。
「水と寝る場所がある。とりあえず、この施設さえあれば生きていくのに困らなさそうだね」
「はい。あと食料があれば完璧です。ですので、食料を獲りに行きましょう。ボクは数百年も南部大陸のあちこちを飛び回っていたので、近くの食料を得られる場所に覚えがあります。そこへ行きましょう」
「おっ、それはラッキー。で、どのくらいの距離なの?」
「そうですね――人間の速度で歩けば数日という距離です」
数日だって!? それじゃあ辿り着く前に餓死しちゃうよ!
「ご安心下さい。そんな距離まで数時間で辿り着く方法がありますので。とりあえず、ホームへ出ましょう」
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