第3駅 車両召喚 ~フルーツタウン行き~
「では、ここで車両を召喚してみましょう」
「いやいや、ちょっと待って!?」
ホームに出て、いきなり『車両を召喚してみましょう』なんて言われたら驚いてしまう。
なんせ、レールをまだ敷いていないんだ。そんな状態で列車なんて動くはずが無い。
「ご心配には及びません。召喚していただければわかります」
「まぁ、そう言うんなら……」
僕はメガネの画面から『車両召喚』を選択。
すると、ホームにピッタリ寄り添う形で列車が出現した。
車体は緑色をメインに所々金色のラインが引かれてあり、ダイヤモンド型の煙突とカウキャッチャーを装備したアメリカ風の蒸気機関車だ。
石炭を収納するスペースを車体後方に設けてある、タンク車型らしい。
いきなり物が出てくるのは駅設置の時に見たからもう驚きは少なくなっているが、僕は全く別の所で驚いてしまった。
「金色に光る線路……?」
なんと、線路は引いた覚えが無いのに、列車の下に金色に光る――というか、光そのもののような線路が出現していたのだ!
「魔力を利用した線路です。そもそも魔力鉄道は、地中深くに存在する魔力の流れ『レイライン』から魔力を吸い上げて走る鉄道ですので」
この世界、地中や海底のあらゆる場所を網の目の様に魔力が流れていて、その魔力の流れを『レイライン』と呼んでいる。
魔力鉄道はレイラインから魔力を吸い出して動力にしていて、さらに魔力で線路を編み上げて走りやすくしているんだそう。
あの光そのものな線路も、レイラインから吸い上げた魔力で出来ているんだって。
ちなみに、見たところ線路の幅は1435ミリメートル軌間になっているらしい。新幹線と同じ軌間で、在来線より幅広な感じ。
「では次に、車両を編成して下さい」
「わかった」
続いてメガネ越しの画面から『車両編成』を選択。
使える車両は三種類しかなかったので、とりあえず順番にそれらを選択した。
機関車側から順に一般客車、有蓋車、無蓋車と並べてみた。
すると、機関車の時と同じように車両が出現。しかもすでに連結されている。
車両は全てボギー車が使われている。車輪が左右へ自由に回転できる形式の台車で、カーブに強く安定して走ることが出来る台車なんだ。
有蓋車は焦げ茶色の車体をしていて、台車の上に倉庫が丸々乗っているような外見だった。側面に大きな引き戸が二枚取り付けられていて、全開にすることで貨物車の全長の半分近く解放でき、かなり巨大な物でも収納できそうだな。
無蓋車は黒い鉄製のカゴに車輪が付いている感じ。『無蓋』の名の通り屋根が無く、鉱石や木材といった多少濡れてもいい物を運ぶための貨物車なんだけど、今のところ使う予定は無いかも。
一般客車だけど、これはシンプルな焦げ茶色のリベットを施された車体だった。
「ではトシノリさん。乗車する前に、機関車の名前を決めて下さい」
「機関車の名前か――」
何かいい名前は無いかなーと考えていたら、ある名前が思い浮かんだ。
それはアメリカ初の商用鉄道の名前で、語感もいいし、なによりこの世界初の鉄道と言うことでピッタリな名前だと思った。
「この機関車の名前は、『グラニット号』だ!」
すると機関車の側面に、『GRANITE』という文字が金色の曲線を強調する字体で現れた。さらに、機関車の正面には『GR』を崩したロゴマークが現れた。
「はい、これで準備完了です。では、客車の方にご乗車下さい」
というわけで乗降口に近づいた。一般客車の乗降口は前後二カ所にあるらしい。
扉には真鍮製の取っ手が付いていて、手動で開けるようだ。開けてみると、この扉は二つ折り式――路線バスとかでよく見る開閉スタイルの扉だった。
車両に乗り込むと、客車とデッキを仕切る扉が。こちらも手動だけど、家の扉によく使う前後開閉式だった。
なんというか、扉だけで古いを通り越してレトロな感じがする。それが持ち味とも言えるし、僕個人としては結構好きだけどね。
客車の内装は全て木製で、天井にパネル式の照明が設置されている。窓は等間隔。
席は、前方半分にベンチ式、後方半分にボックスシートが設置されていた。なお、どの席も木で出来ているだけで、クッションは全くない。何時間も連続して乗るのは厳しいかも。
席の上には、真鍮で出来た荷物置きがあった。
僕はベンチシートに座って発車を待ったけど、なぜか前方からトムが入ってきた。
「すみません、大事なことを忘れていました。ここの駅の名前を付けていません。これでは出発の合図を出せないですし、当然出発も出来ません」
「それは大変だね。ところで、ここって南大陸のどの辺の位置にあるの?」
「そうですね……。では、簡単に南大陸の地理についてお教えします」
トムが語ったところに寄ると、南大陸は逆二等辺三角形に近い形をしているらしい。
そして北端から三分の二くらいの所に、東西にまるで線を引いたようにサバンナ地帯が広がっている。
このサバンナ地帯を境に北と南では驚くほど環境が違うんだそうだ。
そして現在僕達がいる場所は、サバンナ以北の地域のほぼ中央に位置している。
この情報を聞いたとき、僕は駅の名前を決めていた。
「ほぼ中央にあるって事は――この駅は『セントラル駅』だね!」
そのまんま『中央』という意味で付けた。
あと同じく『セントラル』の名を持ち、巨大かつ歴史的建造物でもあるアメリカ・ニューヨークにある『グランド・セントラル駅』にもあやかった。
「セントラル駅。いい名前ですね。では、早速出発しましょう」
そう言うとトムは客室を出て行った。
しばらくして、車内放送でトムの声が流れた。
『グラニット号、間もなくセントラル駅を発車します』
ポォーーーーッ!!
三秒ほど汽笛の音が勢いよく鳴らされると、列車がゆっくりと動き出した。
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