転生少年、異世界へ ~鉄道の力で無人大陸に国を築きます~

四葦二鳥

第1駅 冒険の始まり ~異世界行き片道切符~

「井上 俊徳さん、でよろしいですね?」


「ええ、まあ、はい……」


 突然自分の名前の確認をされたから返事をしたけど、実は僕自身、今の状況がよく理解出来ていない。

 そもそも、こんな真っ白で大きな扉がある空間、僕は知らない。

 というか、僕は自分の家にいたはずだ。勉強のことでお父さんと言い争いになって、いつの間にか意識を失ったと思ったら見知らぬ空間にいたんだ。


「まず最初にお伝えすることがあります。俊徳さんは死にました。享年十二歳。死因は、お父様に包丁で胸を刺されたことによるものです」


 ……うん、なんとなく予感はしていたけど、いざ面と向かって言われるとちょっとショックだ。

 僕はお父さんに言われて小学三年生の時に中学受験することに決まったんだけど、年を追うごとに厳しさが増してきた。

 五年生の終わりぐらいから包丁を持ち出すようになって、僕に突きつけて勉強させようとしてたし。

 でも、お母さん曰く『他の子もこれくらいやってがんばっている』って言ってたんだけど……。


「そんなわけないじゃないですか。あなたのお母様はお父様に加担して、あなたにウソを吐いていたんです。それと、あなたがお父様から受けていた仕打ちは立派な虐待ですので。教育絡みの虐待なので『教育虐待』と呼ばれているそうですけど」


「え!? 僕、声に出てた……?」


「いえ。この空間では、ある程度来客の心が読めますので。……こほん。では、この空間とあなたの今後に関する説明に移らせていただきますね」


 心を読めると言われたときはビクッと動揺したが、このお姉さんは僕に構わず説明を始めた。

 それによると、この空間は『この世とあの世の境目』。目の前の扉の先はあの世なんだそう。

 それで僕があの世に行かずこの空間に留め置かれた理由なんだけど、どうも現世では幸せと不幸せが釣り合っていなければいけないらしい。

 だけど、現実にはそうはいかない。時代によって人数の大小はあるらしいけど、どうしても幸せのまま生きる人と不幸なまま一生を終える人が出てしまい、釣り合いがとれない場合が多いようだ。


 そこで幸せの偏りの帳尻合わせを行うため、不幸な人生を送った人に対して異世界へ転生させ、望んだ人生をもう一度送って幸せになって貰おう、という制度を作ったんだって。


 その制度に該当したのが僕、というワケらしい。

 ちなみに、目の前のお姉さんはこの異世界転生システムを運用するスタッフさん、と言っていた。


「転生、と一口に言っても大きく分けて二種類あります。一つは赤ん坊の頃から生まれ直す『転生』。もう一つが生前の肉体・年齢のまま異世界へ行っていただく『転移』。概ね十八歳以上は転生、それ未満であれば転移を選ばれる方が多いです」


「……それじゃあ、転移で」


「了解しました~。それでは次に、異世界に行ってどういう生活を送りたいか、強くイメージして下さい」


 どういう生活、か……。

 受験に必死になっててどういう人生送りたいかとか、そういうイメージ持ったこと無いけど……。

 そういえば、一時期鉄道に興味持ったことがあったっけ。特に豪華な鉄道が世界中走っていることを知って、いつかそういう鉄道に乗って旅行したいな、なんて思ってた。


 よし、決めた。異世界に行って、好きなだけ鉄道旅をしよう。

 あと、せっかく受験から逃げられたんだし、自由な生活を送りたいな~、なんて……。


「はい、結構で~す。あなたの希望は受理されました~。この希望を実現するための能力につきましては、転移先の世界の法則に則った形で付与されますので、後でご確認下さ~い。

 ――では、長らくお待たせしました。これから転移を開始しま~す。教育の名の下に暴力振るってた親のことなんか忘れて、よい来世を~」


 そして、僕は光に包まれた。

 夢と希望に満ちた、異世界生活を謳歌するために!!


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