第14話 邪魔(3)
大輔と直江が出会ったのは、児童福祉施設だった。
年齢は四つ、直江の方が上である。
別の児童福祉施設から移ってきた大輔は、その時点で先生たちも手に負えないような悪ガキだった。
大輔は施設に入ってすぐに同い年の男子たちに力の差を見せつけ、リーダー格となった。さすがに四つも年上である自分には、ちょっかいを掛けてこないだろうと思っていた直江だったが、大輔に年齢などは関係なかった。
先に手を出したのは大輔の方だった。その時、大輔は小学校四年生であり、直江は中学生だった。まさか、小学生が中学生に喧嘩を打ってくるとは思っていなかった直江は、驚きを隠せなかった。
当時、直江はボクシングを習っていた。それはジムに通うとかではなく、学生時代にボクシングをやっていたという教師から習っていた程度だった。それでも、直江は同級生や上級生には喧嘩では負けないくらいになっていた。才能があったのだ。
それは不意打ちだった。
施設で食事を取った後にある自由時間。大抵の子どもたちは学校の宿題をやる時間に当てている。直江も例外ではなく、その時間は数学の教科書を開いていた。
大輔が近づいてきた。それは直江もわかっていた。だが、まさか殴りかかられるとは思ってもみなかった。
しかし、大輔の拳は直江には当たらなかった。
テレフォンパンチ。それは殴る方の拳を自分の耳の近くまで引き付けてからパンチを繰り出すため、予備動作が大きく、わかりやすいものであった。
直江は、そのパンチを少しだけ頭を動かすことで避けていた。
それに驚いたのは、大輔とその取り巻きたちだった。
ボクシングを習っていた直江からすれば、丸見えの素人のパンチに過ぎないのだ。
その後も、何度か大輔は殴りかかってきたが、直江はそのパンチをすべて避けていた。
「逃げるな、戦え」
大輔はそう言って、しつこく直江のことを挑発してきたが、直江は大輔のことを相手にはしなかった。
そんな状態が何年間か続いたが、ついに直江と大輔がぶつかる時が来た。
それは直江が施設を出ることになった時だった。
里親が決まったのである。
大輔は、最後に自分と戦ってくれと直江に言った。
直江もこれで最後だろうと思い、その大輔の願いを聞き入れた。
相変わらず大輔のパンチはテレフォンパンチであり、素人丸出しのパンチだった。
直江はフットワークを使って、そのパンチを避ける。
「逃げてばかりじゃなくて、攻めて来いよ」
大輔は肩で息をしながら直江に言った。
下手くそな挑発だ。直江はそう思いながらも、一発だけ大輔のボディにパンチを入れた。
その瞬間、直江の背が
大輔の腹筋はゴムタイヤのように硬かった。そして、大振りのパンチが見えた。
ずっと大輔は狙っていたのだ。だから、直江にボディを打たせた。
それがわかった瞬間、直江は蹴り技を使っていた。
ハイキック。
大輔は知らなかった。直江はボクシングしかやっていないと思っていた。だが、それは違った。直江は施設に入る前から空手を習っていたのだ。直江はそういった素振りを一切見せないできた。そうすることで無駄な争いが避けられると思っていたからだ。
直江の蹴りを側頭部に受けた大輔は、膝から崩れ落ちた。
脳が揺れ、足の感覚が急に消えたのだ。
はじめての経験に大輔は何が起きているのかわからなかった。
「お前の負けだよ、大輔。いつでも、俺に挑んでこい。俺は待っているから」
直江はそう言って、しゃがみこんでいる大輔のことを立たせてやった。
それ以来、大輔は直江のことを兄のように慕うようになった。
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