第2話 100万円のツケ
待っていた男が店に現れたのは、真壁たちが店に入って二時間後のことだった。
斎藤などは待ち時間の長さに苛立ちを募らせていたが、向こうはこちらが待っているということなど知らないのだから、何時間待たされても文句をいうことはできなかった。
気づかれないように斎藤は男の顔を確かめると、真壁に頷いて見せた。どうやら、この男で間違いないようだ。
男はカウンター席に腰をおろすと、自分の焼酎ボトルで飲みはじめた。
ただ、自分のボトルといっても、まだ金は払ってはいなかった。男は店にツケとして100万の借金があった。
最初のうちは、店のママもいつか支払ってくれるだろうと思っていたそうだが、次第に金額は膨れ上がっていき、ツケが100万に近づいたところで店のケツモチをしている北条会へ相談を持ち掛けたのだった。
もちろん、ツケが100万に行くまでに、何度もママは男へ支払いの催促をしてきた。しかし、男はのらりくらりとその催促をかわし続けてきたそうだ。
ママからの相談を受けたのは、北条会の宍戸という幹部構成員だった。
宍戸は腕っぷしに自信がある若い組員を二人連れて店に出向き、男にツケの支払いを催促した。
宍戸は男のことを侮っていた。少し脅かせば、溜まったツケを支払うだろう。そう高をくくっていたのだ。
しかし、男は宍戸の要求を笑い飛ばし、軽くあしらった。
その態度に怒った宍戸は連れて来た二人の組員に男を痛めつけるように指示した。
それがいけなかった。
男は、二人の組員を返り討ちにしたのだ。
あとで知ったことだが、男は学生時代に相撲部に所属しており、学生相撲のチャンピオンになったこともある実力者だった。
組員二人は肋骨と鎖骨を折られ、宍戸は全身打撲という半殺しの目にあった。二人の組員は通院生活、宍戸はいまでも病院のベッドの上で寝たきり状態だという。
素人相手にメンツを潰された宍戸だったが、北条会の上にこのことを報告できるわけもなく、どうにかしてこの男のことを片づけなければならないと考えた。
そこで白羽の矢が立ったのが、真壁だった。
真壁に仕事の依頼を持ってきたのは、斎藤だった。斎藤からの仕事は何度か請け負ったことがあり、斎藤の方も真壁の仕事を信頼していた。
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