episode.2 たまったツケ
第1話 スナック
一番暗い席がいい。
店に入ると、真壁は座る場所の指定をした。
案内されたのは一番奥にあるテーブル席だった。
ちょうど照明の明かりが届かず、入口からだと誰がいるのかは見えないような席だった。
大きな体と言われた。
大抵、初めて会う人間は、そう口にする。
しかし、身長は175センチとそれほど大柄ではない。
ただ、肩幅と胸板が大きかった。
その肩から伸び出る腕は丸太のように太い。
さらに、その先にある手、特に握った拳などは小さな岩を思わせた。
ひと目で鍛えているということがわかる体つきをしている。それも尋常じゃない鍛え方をしてきたはずだ。
ボディービルダーのような筋肉質な身体とは少し違っていた。脇腹には多少なりとも脂肪がついている。しかし、腹は出ていない。おそらく体脂肪は10パーセントから15パーセントの間ぐらいだろう。
そんな肉体を真壁はダークブラウンの革ジャンの中に収めていた。
真壁の隣で腰をおろしているのは、斎藤という男だった。
細身できっちりしたスーツを着ている。一見すると、どこかの企業のビジネスマンにも見えなくはないが、目に凄みを持っていた。
修羅場をくぐったことのある人間でなければ持ちえない、独特の目つきだった。
その目の下から頬にかけては、目立たない傷痕がある。顔が紅潮した時などにはっきりと浮かび上がる刃物でつけられたような傷痕だった。
斎藤は今回の仕事を持ってきた、いわば依頼人であった。
斎藤からの仕事を請け負ったのは、今回がはじめてというわけではなかった。
北条会。そう呼ばれる暴力団組織がある。
斎藤は、その北条会の構成員であり、この地域を任されている幹部構成員の舎弟でもあった。
テーブルの上に置かれたボトルは日本製のウイスキーだった。
斎藤は、それをロックで飲み、真壁はウーロン茶を飲んでいた。
アルコールを入れた状態で仕事はしない。それが真壁の仕事のやり方だった。
アルコールが入れば、判断力が鈍る。
一瞬の判断の遅れが、命取りになるとわかっているのだ。
真壁たちの席には、レナという若いホステスがついていた。
まだ時間が早いということもあってか、店にいる客は真壁たちだけである。
店には三十代半ばぐらいのママと、真壁たちの席についているレナ、あともうひとり若いホステスがいた。
「本当に斎藤さんたちって、北条の人なんですかあ。全然そうには見えないですよお」
男好きするうりざね顔をしたレナが語尾を伸ばした妙なしゃべり方で斎藤に話しかける。
斎藤は北条会の構成員であることに間違いはなかったが、真壁は別に北条会に所属しているわけではなく、北条会から仕事を請け負っているだけの立場だった。
しかし、周りから見れば斎藤も真壁も同じ穴の狢ということなのだろう。
斎藤もそのことを否定することなく、口元に笑みを浮かべてレナの話しに相づちを打っていた。
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