第3話 探り合い

 風が吹いた。

 落ち葉が地の上を滑るように動く。


 真壁は一歩前に踏み込んでいた。

 それは、咄嗟の判断だった。

 あと0.1秒気づくのが遅かったら、真壁は地面の上に這いつくばっていただろう。


 強烈な上段廻し蹴りだった。

 ガードした左腕には、痺れに似た感覚が残っていた。


 もし、判断を間違えていれば、岸田の廻し蹴りをまともに喰らっていたはずだ。


 カウンターで出した真壁の右拳は、岸田の左耳をかすめていた。

 蹴りを受けた衝撃で狙いがずれたせいだった。


「さすがは噂通りだ。怖いねえ」

 岸田が半歩後ろに下がって、間合いをはずしてからいう。


 構えだけを見れば空手だった。

 フルコンタクトカラテと呼ばれる、打撃を相手の体に直接当てる流派の構えに似ていた。


 フルコンタクトカラテをやっている人間の特徴といえば、打たれ強いという点だった。お互いに打撃をぶつけ合って体を鍛えたりするため、打撃を当てただけでは、ほとんどダメージにはならない。

 ただ、弱点があるとすれば顔面への攻撃だった。フルコンタクトカラテのルールでは、顔面への攻撃は蹴り以外は認められていない。

 ただし、流派によっては顔に防具を付けた状態で、顔面への攻撃を認めているところもあるため、フルコンタクトカラテだからといって、一概に顔面への攻撃が有効というわけでもなかった。


 両手を開いた状態でアップライトに構える岸田に対して、真壁は構えを取ることなく、じっと岸田のことを見ている。


 構えを取るような間合いではない。

 真壁はそう判断している。


 この距離であれば、お互いが大きく一歩踏み込まない限り、蹴りだろうと突きだろうと当たる距離ではないのだ。


 当たらない距離にいる限りは、構えを取る必要はない。

 それが真壁のやり方だった。

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