第5話
私の祖父はお坊さんだったし、戦争末期にたった一枚の紙切れで召集されて、戦争なんかに行きたくなかったし、戦いたくなかった。
だから祖父は意志を貫いた。空に右翼に立ち合掌して佛に祈り空を飛んだのだ。
祖父はどれだけ平和を祈っただろう。
どれほど妻と娘の幸せを祈っただろう。
そして、同郷の友は自らの命を顧みず、祖父を助けるためだけに空を飛んだのだ。
その二人の姿を見ていた英国の大佐は、そこに何を思ったのだろう。英国の騎士道、そして日本の武士道。国は違えどその生きる精神が、遠くボーダーラインを越えた空に共鳴したのではないだろうか。
清らかな崇高な精神を尊ぶ者達は、その道へいくしかなかったその空へ散っていく者への尊厳を見いだしたのではないだろうか。
互いに心は通じている。必ず。今もそれは永遠の時間を越えて私に伝えに来てくれる。
戦争は
とても複雑で
難しく
私はとても残念に思う。
祖父は、浄土真宗の寺の住職だったので、陸軍学校へも入隊していない。日本での階級は伍長だった。
戦争末期に南方で飛行機に乗せられたのだ。なぜなら、パイロットの階級は尉官以上で、伍長は下士官でパイロットの階級ではないのだ。
だから、祖父の最後の姿を見た英国の大佐はパイロットの階級を祖父に授与したのだと思う。
私の生き方は、私の正義を貫いて生きていきたい。祖父の生き方、そして、戦時下であっても敵の栄誉を見いだせる、人としての深い道徳心、公正で高邁󠄀な精神。それを私は今の時代に知っている。
1945年、その地域での戦闘はそれで終わりだった。
そして、その映像は終わるが、その先の真実がまだ資料にあったのだ。
同郷の友は生きて故郷に帰った。
英国の大佐にも、私は会った。
今から数年前にオンライン通信で。大佐は祖父のことを覚えていた。そして、深い眼差しで私を見た。大佐の言葉は大佐の心なので私がここに書くことはしない。
私は大佐の顔に深く刻まれたシワにその年月と、大佐が人格者であることを知った。
1945年のその資料を分析して、その記述に私は奇跡を思った。私の祖父の最後の姿は、南方のその海域で最後ではなかったのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます