第2話

 今から77年前の話。


 1945年、昭和20年の7月31日に彼は死んだ。

終戦の2週間前だった。


 彼は、九州の浄土真宗の寺の若き住職だった。彼の娘はその年、三歳だった。


 彼は小さな規定の箱の中の遺骨となり、町の人達が総出で駅に迎えてくれた。彼の幼い娘の記憶が時空を越えて私に語り伝えてくれた。


 そう、あれは祖父と祖母の永遠の時間。

今もずっと2人は共にいる永遠の時間。その時の風も雲も波も今もずっと連続する時の中に続いている。



 祖父の遺骨は、箱を白い布にくるまれて祖母が胸に抱いて、祖母は幼い母の手を繋いで駅から家までずっと歩いた。


 母は幼く何も意味も分からなかったから、ただ祖母と手を繋いで歩いたのが嬉しかった。


 お寺に帰って祖母が箱の中を開けたら、何も入っていなかった。ただ、紙と一緒だったからそれを祖母が声を出して母に読んでくれた。


 7月31日……にて……亡くなった。と書いてあった。


 私は母からその当時の話を聞いて、母がとても可哀想だと思った。その時代は紙切れ一枚でそのような時代だった。だれもがつらい記憶に延々と生きていた。



 それから、私はその63年後に祖父と出逢った。

私は祖父の生きた姿を初めて見た。写真ではない祖父の生きた姿を、当時の軍事記録のフィム映像に見たのだ。


 1945年当時の外国の大佐が、祖父の最後の姿を映像に残してくれていた。そして、名誉の階級を祖父に授与してくれていた。私はそのフィルム映像を、日本政府から外国へ派遣された夫の赴任先の、軍事基地で見たのだ。

 


 






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