第5話

チュンチュンチュン・・・

どこからか鳥の鳴き声が聞こえてくる。今日はとても晴れていて、気持ちの良い朝だ。平日の午前11時。晴香は一人でパルコ前の広場にいた。広場は街の中心地にある。よく友達と遊ぶ時の待ち合わせ場所になっている。晴香は広場にある階段に座った。パルコ前をせわしく通りすぎる人たち。平日なのでスーツの人も多い。誰かに電話をかけながら、キョロキョロしながらどこかに向かっていく。

クラスのみんなは今頃授業を受けているだろう。私だけこんなところでボーっとしている。制服姿で。

晴香が学校をサボるのは初めてだった。ちょっと楽しい。広場に人が少なくなったので、晴香は階段に寝転んでみた。なんと平和なのだろう。どこかで車が通り過ぎる音がきこえてくる。

本来、人間はこうやってのんびりするべきなのではないだろうか。特にこんなに晴れて気持ちの良い昼間は。あんまり寝転ぶと制服が汚れる気がして、体を起こした。

みんな階段に寝っ転がっている女子高生を気にも留めないで通りすぎていく。晴香はそのことに安心して、また階段に寝っ転がった。

しばらく空を眺めていると、「なにやってんのー?」と声がきこえてきた。低い男の人の声だった。晴香が左を見ると、男と目が合った。少し焼けた肌。ブリーチした髪。シャツにゴールドのネックレス。小さなピアス。あ、ヤンキーだ、と晴香は思った。目が合うとヤンキーはにやっと笑った。笑顔がかわいい。「何もしてないけど。」声が上ずったのは久しぶりに男と喋ったからだろう。晴香は家族や先生以外の男の人と話すのは5年ぶりだった。しかも年の近い人と話す機会はめったにない。「暇なら、一緒に遊ぶ?」とヤンキーは言った。「何して遊ぶの?」「うーん・・・、あ、タピオカ。」「タピオカ?」「飲もっ」パルコの中にタピオカミルクティーの店があるのを晴香は思い出した。これが坂本武蔵との出会いだった。

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