第2話

担任の田口先生には気に入られている。田口先生は二年目の新米教師で、大学を卒業して母校に帰ってきたらしい。学校の中で一番若いのではないだろうか。

先生は、にこっと笑って「河野さん、」と言った。「面談の前にね、河野さんに頼みたいことが一つあるの。」「はい。」「あのね、もうすぐ全校集会があるでしょ。そこでE組代表としてスピーチをして欲しいの。先生、河野さんがぴったりだと思って。」晴香は、またか、と思った。先生はたまにこうやって私に頼み事をしてくる。


どうして私なんだろう。私よりもE組の代表にぴったりな人いると思うんだけど。例えばリーダーっぽい人とか、部活を頑張っている人とか、すごく成績が良い人とか。私はクラスの中でそんなに目立っていない、と思う。

「すいません。」「どうして?」クラス代表としてスピーチなんてしたら真面目な子に見られてしまう。晴香はそれが嫌だった。「真面目な子」という目でみんなに見られてしまったらもうそこから逃げ出せなくなりそうで。悪いことをするような度胸なんてないけど。

晴香はとっさに「勉強が忙しいので・・・。」と言った。声が小さくなる。

先生は、笑顔で「そうよね、河野さんも忙しいわよね。」と言って頷いた。「他の子に頼んでみるから。大丈夫よ。」晴香はとりあえずほっとした。

「河野さんは、第一志望○○大であってるのかな。」「はい。」「志望校全部県内だけど・・・良いの?」

晴香は「はい。」と答えた。本当は県外を受験したかったし、東京の大学に行きたかった。だけど、それを先生に言ったところでどうにもならないことを知っているから、先生には言わなかった。家族と言い合いになったことがある。それでもだめだったのに、田口先生にどうにかできるとは思えない。先生には悪いけど・・・。「そっか。でも河野さんが決めたことだもんね。」と先生は納得したように言った。「河野さんだったらこの調子で頑張っていけばきっと合格できると思う。先生応援してるから。がんばれ。」晴香は「ありがとうございます。」と答えた。





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