第6話 出会い

葛西彩希かさいさきは今、迷っていた。

実験体として観察していた人間が今、彩希が所属している研究所の付属の施設を調べ始めている。

(本当にもう気づいているのではないかしら)

どこまでもう知っているのかは分からないが、ここに目星をつけたということはだいぶ調べ進んでいるということだ。


今は彩希しかこのことを知らないが、他の人が知ったらどうするだろう?

(下手したら殺されてしまうかもしれませんわね)

この組織は今まで見てきた中ではかなりの秘密主義だ。

とむらの身の安全は保障できないだろう。

幸い今、とむらを観察しているのは葛西彩希だけなので、しばらくは大丈夫だろうが、これ以上とむらがここに近づいてくればどうすることもできない


(さすがに見殺しにはできませんわ)

彩希はとむらのことを何かあったら助けようと決めた。


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「やっぱりだめか」

住宅街に囲まれた一角にある公園で自販機で一番安かった水を飲んでいた。

富川薬品を調べようと決意をしたはいいものの、一個人が調べられることには限界がある。


富川薬品はかなり規模が大きい会社のため、その製品だけを扱っている店舗もある

できることといえば、店員がいないうちに入り込んでそこの資料をあさることぐらいだ。

(ばれたらそれでもやばかったけどな)

だが、自分に入っているであろうマイクロチップのことも有益な手掛かりはつかめてはいない。


(これ以上は無理かもな)

とむらは限界を悟りながら、前に旧校舎で見つけたブレスレットを触っていた。

(これは誰の何だろうな)

そんなことを考えながら触っていると一つの青の石がはめ込んであって、そこから筋が伸びていることに気が付いた。


それを何気ない気持ちでなぞってみたそのとき



あたりが暗転した。






気が付くと自分の目には真横に鳥が飛んでいるのが見える

明らかに公園から見える景色ではなかった。

次にあたりを見回してみる

そこは鉄柵で囲まれていた。


「どこだ? ここは。」

そんなことをつぶやきながら鉄柵の近くまで歩みを進める。

そこで初めて気が付いた。

自分がさっきまでいた公園が真下に見える。

ここはマンションの屋上だった。


「何が起きたらこんな場所までとばされるんだ?」

頭が真っ白になってどんどん混乱していくのがわかる。


だが、そんな中でもがんばって頭を回転させて考える。

自分はただ、ブレスレットの筋をなぞっただけなのだ。

それだけだ。


それだけ?


もしかしたらその行為自体に意味があるのかもしれない

そう考えもう一度なぞってみる


視界が暗転する。


ブシュ!

なにかにうもれたのを感じながら

あたりを見回すどうやら草むらに埋もれてしまったらしい。


「どんな構造なんだ」


そんなことを考えながら服に着いた草をはらっていた。


どう考えたところで自分の理解を超えたものであるのは確かだ。

もしかしたら学校で見つけた資料と何か関係があるのかもしれない

だがそれ以上のことは分からない


あたりを見ると草むらは最初にいた公園にあったものらしい


「もう帰るか...」

そう思い公園の外に出る


すると、明らかに午前中の住宅街には似つかわしくないような黒塗りの車が止まっている


そこから一人の女性が車を降りてくる

そして、こっちに歩いてきて言った。


「あなたが朔月とむらね?」




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