第1話 よき友のいる日常

「と.....む.....ら と....む...ら  とむらっ!」

「うわっ!」

朔月さくづきとむらは驚いて跳ね起きた


ゴツン!

教室内ぐらいには響き渡りそうな音が鳴り響いた。

「イタっ!?」

「っ~~」

とむらは頭を抱えて悶えていた。


「自分からぶつかってきたのにそっちの方が痛がってどうするの?」

沖村優愛おきむらゆあが言ってきた。

「お前が石頭なのが悪い」

「女の子に向かって石頭なんて失礼じゃない?」

「それは悪かったな」

とむらは少し面倒そうに言った


(どうにもにがてなんだよな…)

あまり人づきあいが得意ではないとむらにとっては優愛のテンションはあまりついていけていなかった。


優愛が教科書を机から持ち上げながら言う

「とむらも早く行こう?みんなもう理科室に行っちゃったよ?」

そういえば次の時間は理科室で授業だった

とむらはまだ眠気が取れ切っていない頭を頑張って働かせて朝のホームルームで言われていたことを思い出す。


「先に行っていてくれ、僕も用意したら後を追うよ」

「でも君、そんなこと言っておいてサボりそうだしちゃんと見張り役が必要だと思うな」

「わかったよ…お前も遅れても知らないからな。」

正直、断りたかったがそうするとまた面倒なことになりそうなのでとむらは観念していた。

それを聞いて優愛は満足そうに言う

「いいよ」


優愛はとむらのことを待ち一緒に廊下に出た。


廊下をとむらは優愛と共に歩いていた。

優愛の髪はストレートで長さ的にはセミロングぐらいだろうか

そしてきれいな黒色をしていた

それはどんな学校にもいそうだが、有象無象に埋もれることがない魅力があった。


とむらは優愛を見ながら少し過去のことを思い出していた。


それはこの高校の入学式でのこと

そのときとむらはあまりに堅苦しいものがにがてだったので、体育館の近くのベンチで、少し遠くからスピーカー越しの教員たちの声を聞き流して座っていた。


「そんなところで何しているの?」

ぼーっとしているときに声をかけられたとむらはびっくりして振り向いた。

「誰だ?」

「私?私は沖村優愛だよ 君と一緒の一年生」

「じゃあなんで僕と一緒の一年がここにいる?」

「そんなこと言ったら君もでしょ?」

とむらは自分以外の人がいると思っていなかったので、すこし動転していたが徐々に収まってきて、確かに自分もサボっているのになぜいるのかを聞くのはおかしいと思った。

「確かに…」

「君って変なの~」

「うっ」

とむらは言い返せなかった。


「ぼくはただ、ああいう場所が好きじゃないんだよ」

「人が多い場所ってこと?」

「そんなところだ」

「ふ~ん」

優愛はとむらの話を軽く聞いていた

「なんだよ?お前はどうなんだ?」

「私はただ遅れただけだよ?そしたら体育館に入るタイミング見失っちゃった」

確かに何かの行事が行われているときに割って入るのには少し勇気がいる。とむらは少し優愛の気持ちに共感できた。


「だから暇なの、終わるまでおしゃべりしない?」

「いいけど、そんな面白い話はできないぞ?」

「暇つぶしだから全然いいよ」

「そっか、ならいいよ」

「うん!」

その時の優愛は嬉しそうだった。


それから優愛はちょくちょくとむらに話しかけるようになって言った。

とむらは人に話すのがあまり好きではなかったが時々ならいいなと思い始めるようになった。

そう考えるととむらの価値観に影響を及ぼしてくれた人なのだが、どうしてもテンションについていけていない部分もあったりする。


とむらがそんな昔のことを考えながら優愛のことを見ていると、優愛が少し訝しい表情をしてとむらの顔を覗き込んだ。

「どうしたの?私の顔に何かついてる?」

「いいや。少し考え事をしていただけだ」

「私の顔を覗きながら?もしかして好きにでもなっちゃった?」

「は?」

「そんな真顔で言われると少し悲しいんだけど…」

「そんなこと言ってないでもう理科室に着くぞ」

「あっ!話そらした~」


少し遅れながらも授業に参加し、とむらは少し違和感を感じていた。

誰かに見られている気がするのだ


だが周りを軽く見渡しても自分を凝視している者はいない

ただ、人ではなく物ならあった

防犯カメラだ。


でも、防犯カメラがあることは不自然ではないし

ただの勘違いだととむらは思った。


______________________________________


「実験体のバイタルは正常か?」

「ああ、かなり安定している。」

薄暗いオフィスのような場所で二人の男が話している


「ここでもうまくいけば、もう研究は成功したも同然だ」

「ただいつもとは違うところもあってな」

「なんだそれは?」

「実験体が置かれている状況に違和感を感じている」













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