間に挟まる男を殺す百合VS剣豪

@aiba_todome

剣豪・柳生厳重兵衛鈎明

『私たち、もっと離れた方がいいよ』


 狭間百合はざまゆりの言葉は、スマホ越しにも震えて聞こえた。無論それは彼女の本意ではない。やむにやまれぬ事情があった。


「でも!ボクだって我慢してるよ!学校も離れちゃったし、引っ越しまでした。これ以上どうすればいいのさ……」


 男鹿金名おがかなは涙声だ。今にも泣き出しそうな様子に、聞いている方が冷静になったか。百合は子供っぽい親友をあやすように話しかける。


『私だって嫌よ。でも人に迷惑はかけられない。大丈夫。どんなに離れていても、忘れたりはしないから』


「百合ぃ……」


 その時、突如巻き起こった衝撃波状の力場!二人の間、およそ200kmを正確に結び、その中にいた全男性をことごとく瞬殺!


「「ぎゃあああああああああああ!!!」」


「ああっ!」


『しまった!またやっちゃった!』




 狭間百合はざまゆり男鹿金名おがかなは友達以上である。二人の関係の複雑性については、字数の問題があるのでここでは語らない。


 ところで、百合の間に挟まる男は死ぬという自然現象はご存知だろうか。

 現在、事故殺人自殺の死者数を抜いて、百合間挟死ゆりのあいだにはさまりしが日本死因のトップである。およそ20人中7人が百合の間に挟まって死んでいる。


 挟んだ男を殺す力は、百合力ゆりちからに比例し、距離の三乗に反比例する。

 手をつなげる距離にいる百合の間に挟まれば、ほぼ確実な死である。逆に座っている机の間を通るくらいならば、よほどの百合力でないかぎり健康に影響はない。


 狭間百合と男鹿金名の間に挟まった男は、何人たりとも生きてはいられなかった。

たとえキロメートル単位で離れていても、オセロじみて間にいる男は全員即死!二人の絆のパワーである。


 世のため人のために、あえてお互い距離をとったが、自己犠牲は百合なので百合パワーは高まるばかり。このままでは地球が割れてしまう。


 どうすればいいのか、女子高生二人に分かるはずもない。陰る心に反応して百合の力は高まり、衝撃波第二陣発射!またも罪があったりなかったりする男共が殺戮の憂き目に!

 津波めいた無色の刃が走り、通りがかりの中年男性を轢殺しようとする!


 男の手から抜き放たれたのは二尺八寸の太刀、一文字木村某いちもんじキムタク。丁字乱れの刃紋が、光を受けて艶やかに輝く。

 男は無造作にさえ見える動きで刃を振るった。災害そのものの百合力の塊と剣が、確かに噛み合う。


「ぬうん!」


 脚が半ばまで大地に埋まり、地表に卵の殻のようなヒビが走った。

 ついに刀が振り抜かれる。破壊力の奔流が弾け、周囲を蹂躙しながら散った。


 何たることか。人の身で百合の間に挟まる男を殺す衝撃波を打ち払う事が出来るのか。


 出来る、出来るのだ。剣豪ならば!


 この男こそ、設置が断念されたイージス・アショアに代わり、弾道弾警備にあたることになった剣豪。その名も柳生厳重兵衛鈎明やぎゅうげんじゅうべえかぎあかである。

 ミサイルを撃ち落とせると聞いて任に就いたはいいものの、北も毎日ロケットを飛ばしたりはしないので、暇をしていた。そんなところに、人を殺しまくる百合の話が飛び込んできたのだった。


「ここは一つ手合わせしてみようか」


 豪胆!それでこそ剣豪である。

 そして何が起こったかは知らないが、異常事態が発生したことは分かる少女二人。当然互いに思い合い、衝撃波第三陣発生!何たることか、今度は塊ではなく散弾銃じみた拡散波動である!


 しかしこれは下策。相手は剣豪だ!ステータスは筋力より技術寄りだぞ!


「破!!」


 煌めく剣閃!雪崩打って迫りくる不可視の力場を羽虫のように撃ち落としていく。これは勝負あったか。



「あっ!」


『カナ!?』


 流れ出る血!力の反動か!?


否!あえて宿主を傷つけることでの……出力強化!


「ぬう!?」


 バラバラだった波動が巨大化し、同化。一つの大嵐となって鈎明を包む!

 ズタズタになって吹き飛ばされる剣豪!そしてトドメとばかりの第四波!何たる卑劣か。これが人間のやることだろうか?しかしやっているのは人間ではなく、百合の間に挟まる男を殺す謎パワーなのである!


「もうやめてえ!こんなことしたいわけじゃない!ただ、一緒にいたいだけなの!」


 金名は叫ぶが、力は無慈悲に人を押し潰すのみ。


 そこに現れた源九郎判官義経!


「さしたる用もなかりせば、これにて御免」


 去る源九郎判官義経!


 鈎明は立ち上がり、衝撃波と切り結ぶ。しかし劣勢は明らか!


「ぐおおおお!」


 二度、三度、重い斬撃が肉体に食い込む。そして第五波!山を割らんばかりの火柱が迫る。一文字木村某いちもんじキムタクが唸り、しっかと受け止めるが、熱は容赦なく身体を焼く。もはやこれまでか。

 

「見えたわ。百合の間に挟まる男を殺す力の正体」


 しかし柳生厳重兵衛鈎明、余裕の表情。敵が卑劣に走ったとき、もはやそれは百合を助けるものではなく、その障害となった。勝負はついていたのだ。


「貴様こそ、百合の間に挟まる害悪力がいあくちから!」


 一閃!


「ぎゃあああああああああ!!!」


 百合の間に挟まる男を皆殺しにする力は十六裂きにされて死亡した。


「ユリ!」


「カナ!」


 生じた真空によって超音速で引かれ合った二人の少女がひしと抱き合う。落着である。


「え(笑)、百合の間に挟まる男を殺す力亡くなったの?(笑)じゃあナンパし放題じゃん(笑)お(笑)そこの二人どう?(笑)女だけじゃなくって」


「ふん!」


「ぎゃあああああああああ!!!!」


 ナンパ男は三十五裂されて死亡!そう、百合の間に挟まる男を殺す剣豪、柳生厳重兵衛鈎明である!

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