第27話
そんなこんなで結局その翌日、レオンは話をした通りマルコフ手紙を書いた。もちろん内容は私とレオンの関係を伝えるもので、今後キールが本気で私に婚約を申し込むなんていう最悪なシチュエーションになった場合に備えての対策だ。
本当に婚約をするつもりはないから形だけなんだけど、それでもマルコフは大はしゃぎ。むしろ婚約そして結婚への話を進めようと躍起だ。由緒正しい侯爵家。さらにお金の心配もないレオンは、マルコフの金銭的援助を必要とはしない。それを理解しているマルコフは、商人という人脈を駆使し、世にも珍しいものをレオンに送りつけ出した。
それに飽き足らず、私に投資も始めた。投資内容は見た目をゴージャスでエレガントに着飾らせ、レオンから飽きられないようにする作戦らしい。マルコフに買ってもらうドレスや宝石は、以前の自分なら遠慮していたけど、今回はありがたく受け取っている。
以前は施しを受けてしまえば未来の旦那様を否応無しに受け入れないといけない強迫観念があったけど、今はレオンという相手がいる。ゆくゆくは別れる間柄で、本当に婚約する気もないとはいえ、そこは上手く別れる理由をつければなんとかなる。
マリーゴールドが現れた時に私の身の振り方、別れ方を悲惨なものにしないで済むわけだし。そこも話し合いでレオンなら理解してくれると思うし。
な・に・よ・り!
私は公式にレオンの恋人だ。二次元でも、白黒でも、ましてやコマ割りの中に存在するキャラとしてではなく、三次元で、フルカラーで、声も熱も匂いも全てを感じる事のできる推しキャラが、私の恋人とか。
たとえそれが形だけの偽りだらけで歪な関係だとしても、私は十分だ。レオンの恋人ポジにいれるだけで爆ぜれる。
それにヒロインのマリーゴールドは私のお気に入りキャラでもある。ヒロインは可愛くて清楚で、誰も嫌いになんてなれないでしょ? ってキャラに設定してある。だからそんな二人の恋仲を邪魔するつもりは毛頭ない。
だからマリーゴールドが現れる前まで甘い汁を吸わせていただき、ヒロイン登場したタイミングで私は悲劇のヒロインかっつーくらいに周りの同情を引きながら円満に別れるつもりだ。
この喜びは『青愛』がアニメ化決定した時並だ。ううん、それ以上かも。
何せ『青愛』はアニメを生で見れかったけど、レオンと恋仲にあるという状況はすでに始まっているのだから。
「いやーめでたい。本当にあの侯爵を落とすとは実の娘ながらあっぱれだ」
ガハガハと笑いながら食餌を取るマルコフにも、私は終始笑顔で対応する。私だってガハガハ笑ってやりたいくらいめでたいと思っているのだから。
「しかしリーチェ。お前はコーデリア公爵とも良い感じだったのではないか?」
きた。絶対このことを聞かれると思ってたのよね。ここでちゃんと釘を刺しておかなくちゃ。
「良い感じだなんて、パパもご存知でしょう、コーデリア公爵様がどのような方かを……特に女性に関する噂の一つや二つは聞いたことがあると思いますが、私の事なんて眼中にありません。本気になってはいけない方ですし、あの方もそんなつもりは全くないです」
私は伏し目がちで演技を始めた。前世漫画家じゃなく女優だったんじゃないかってくらいの名演技だ。
困ったように眉毛を八の字に変えて、フォークとナイフをテーブルに置いた。
「根っからの遊び人ですから。特に田舎男爵は初心だと言って楽しんでいる様子でした」
「ふむ、まぁコーデリア公爵ならそうだろうな」
さすがにマルコフも私の意見に納得してくれた。社交界に一度も出た事のないマルコフでさえキールの噂話は届いていた。
「今まで女性の噂を聞くどころか、煙たがっていたあの侯爵がお前と婚約を結びたいと言ってきたのだ。根のない花よりどっしりと地に根を張った大木の方がお前も安心だろうしな」
ガハハと笑いながらマルコフはワインを飲む。
いやいや、その言い方だとレオンの方が容姿が劣ってるみたいに聞こえるけど、そんな事ないから。むしろキールのように顔面偏差値だけで生きてきた穴ぼこだらけの人間性よりもレオンのようにオールマイティでパーフェクト男子は高物件でしょ。
肩書きだけで言ってるのならばそうかもだけど、侯爵家はコーデリア公爵家よりも古くから存在している由緒ある家柄だし。
新しいもの、地位が三度の飯と同じくらい好きなマルコフにとってはそう捉えてしまうんだろうけど。
「リーチェ、侯爵を逃すんじゃないぞ。さっさと結婚までこぎつけるのだ」
「パパ、急がば回れと言います。あまりがっつくのも良くないですよ。特にあのレオン様は石橋を叩いて渡るタイプですから。無理にどんどん進もうとして橋が崩落しないようにしなければ」
「がハハッ、それもそうだな! さすがはわしの娘だ!」
マルコフはここ最近で一番の上機嫌な顔で笑った。
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