第4話 マッチングアプリ、初めてのマッチング。


 俺にいいねを返してくれた『iさん』は、俺より年上の27歳の女性。上場企業勤めで、大卒。163cmで、プロフィールの本人の写真も、テレビで活躍する女優のような、とても綺麗な人だった。


「嘘……。うち、信じたくない……」

「俺のやり方は、すべてが間違いではなかったようだな」

「お兄レベルの中二の人が、女性でいるなんて……」


 俺より、向こうの女性の方がショックを受けているようだ。


「アイコンが、証明写真……妹に尻を敷かれて、酒を飲む人は、ゴミクズと書いているプロフィールのどこに魅力があるの……?」

「ありまくりだな。苺愛みたいに、中二をバカにする人ばかりじゃ無いってことだ」


 苺愛は納得していないようだが、マッチングが成立した女性に対して、こんな助言を言った。


「返事は送った?」

「いや。まだだ」

「それなら、向こうよりも早く、感謝の一文ぐらい送っておくっ‼︎ お兄は、中二だけど、礼儀正しい男性だと思われて、好印象になるはずっ!」

「そうだな。感謝の文ぐらいは送らないとな」


 会社でも、先方に何か取引が成立すれば、すぐに感謝のメールを送っている。このまま両手を上げて万歳しているわけにはいかなく、すぐに返事をしないといけない。


「……これでオッケーだな」

「どんな感じ?」


 俺は、感謝の文を送った後、目玉焼きが乗った皿を、机に乗せた後、俺のスマホの画面を見てきた。


『数多なる男たちの楽園エデンの中から、この漆黒の力を大いに秘めた俺に、力を貸してくれて大いに助かる。俺の名は、†あああああ†。ちなみにこれは、仮の名前であり、本当の名は――いや、言えないな。本名を名乗ると、敵国の密告者スパイに知られてしまい、俺の命が危機に晒される。i殿もこの会話を内密にしつつ、俺との会話をしていこうじゃないか。それでは、力添えに感謝する』


 自己紹介文より、スラスラと書けた感謝の文。内容もとても分かりやすいだろう。


「お兄」

「どうした? 褒めてくれてもいいだぞ?」

「次の相手、早く探そうか。それか、アカウントを消そう?」


 苺愛に冷め切った顔で、今回は諦めろと言われた。




 会社での昼休みに、俺は同期の大高と昼食を食べながら、これまでの事を話した。


「そりゃ、誰が聞こうが、ハルが殴られるな」

「殴るほど、俺の妹は凶悪じゃない。膝を思い切り蹴って、しばらくのたうち回るぐらいで許してくれる、可愛げのある妹だ」

「それを凶悪っていうんだな」


 大高は、カツ丼を食べながら、おかしげに笑っていた。


「それで、返事は?」

「来ていないな。既読もついていないし、あっちも忙しいんだと思うぞ」


 相手も27歳の女性だ。きっと今の時間は、勤務中なのだろう。上場企業と書いてあったので、どこかのオフィス街で、俺たちみたいに、優雅に昼食を食べているのだろう。


「ハル。確かに、マッチングアプリは、接点のない女性と知り合えるチャンスをくれる、画期的なサービスだけど、どこの世界にも悪い人はいる。恋人欲しいと思っている人の弱みにつけ込んで、色々と言ってくる人もいる。一応、SNSだということは、忘れるなよ」

「どういうことだ?」

「ま、ハルの妹は、しっかりしているからな。何かあったら止めてくれるだろうし、何事も経験してみようぜ」


 そして大高はニッと笑ってから、再びカツ丼を食べ始めていた。



 今日は、苺愛は部活のため、帰りが遅い。俺は1時間だけ残業して、家に帰ってからは、苺愛の代わりに、家事をしていた。


「お、返事きてる」


 晩飯を食べて、洗濯機が終わるまで、俺はマッチングアプリを開くと、30分ほど前に、iさんから返事が来ていた。


「よろしく〜」


 その一言だったが、俺は嬉しかった。これで、苺愛にドヤ顔でスマホの画面を見せることが出来るからだ。


「何か、返事を送るべきなのか……?」


 このやりとりに既読をつけてしまったので、このまま既読スルーをしてしまえば、俺はせっかくのチャンスを逃してしまうかもしれない。


『今日は、天気が良かった』


 ネタは思いつかなかったので、俺はありきたりな文を送ると、すぐに既読がついて、返事が来た。


「そうだね」


 iさんは、返事に困るほどの、素っ気ないコメントをしてくる。


『好きな食べ物は?』


 そう送ると、すぐに返事が返ってくる。


「臭豆腐」


 匂いがキツイ食べ物として有名な物を好んで食べるとは、俺はiさんに興味を持った。


『俺は、レッドアイズブルードラゴンの尻尾の肉』


 そう返すと、すぐに返事が来ていたのに、急にぱったりと返事は来なくなった。既読もつかなくなり、俺はiさんが晩飯を食べているのだろうと思い、アプリを閉じた。

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