第2幕あとがきと解説

 さっ、いよいよ過去編は女皇戦争編に本格突入していき、ティルトの解析の旅も本格化していきます。

 全然、話としては違うのですが「ゼダの紋章」と「機動戦士ガンダム」と比べて見ましょう。

 まず「ガンダム」の主人公というのがお父さんは立派なエンジニアでお母さんは地球居住者というエリート少年のアムロ・レイ。

 ゼダの紋章の方はお母さんは女皇になり損ねた人アラウネでお父さんが実はよく分かっていないディーン・エクセイル。

 でもってよぉくディーンくんを掘り下げると仮面無き(あるし書いてあるけど気付きにくい)貴公子シャア・アズナブルなんですよね。

 天才的パイロットであり敵味方から無敵の強さもよぉく知られているし、高貴の家柄だし、性格も一筋縄で行かない。

 フィンツ・スターム少佐、ベルカ・トライン、白の隠密と幾つもの名前を持ち、セカイの裏側で暗躍し続けてきた。

 でも彼に決定的に欠けているのがなんか決めようという意志決定力。

 自分自身についてはオーダーとしてちっちゃく纏める方針であり、最終的にも「嘘つき」としてちっちゃく纏まっちゃった。

 それに関してもはっきりしててディーンが大風呂敷を広げると桁違いの人間が死ぬからです。

 逆襲に成功したシャアのアクシズ落としがあったなら人類史上最悪のジェノサイドになったのを敢えて避けようとした。

 それだけは絶対ヤダというディーンは独裁を嫌います。

 大元となった過去の自分が何一つままならない独裁者だったからです。

 そして、最高司令官としてディーンは独裁者となり得る人たちを纏めた合議体制で事を決めようとしていきます。

 お母さんのアローラとも頑固者同士なので意地張ってモメる。

 というのもそもそもディーンは良くも悪くもアラウネを母だ、オーギュストを父(じゃないので当然ですが)だと思っていません。

 母親として想起する女性は「へーかおばちゃん師匠」と称する女皇アリョーネで、父親として想起する男性がトワント・エクセイルです。

 まあ二人に認められるのは簡単じゃなく滅茶苦茶苦労して得た「両親」。

 対するアリョーネも「アタシの可愛いフィンツ坊や」とディーンを猫かわいがりしてる・・・というのが実は「ガンダム」に出てきたアムロとその母カマリアの関係でして、結局カマリアは虫も殺せぬ優しい子だったのに軍属の人殺しになっていく息子アムロを「なんて情けない子なんだろう」と言ってしまいますが、アリョーネは最後にディーンの手を取って「貴方が誰であれ、貴方は私の愛する息子ディーンだった」と断言します。

 取ったその手は血まみれでしたけど。

 なんでかというとディーンがその身にかえてでもメリエルとアリアスを守ろうとしたからです。

 ルイスの方は職責ですが、ディーンの場合は違っていて、この世にたった一人しか居ない義弟フィンツのためだったからです。

 拍子抜けするほど複雑でもなんでもなく、とても当たり前の理由だった。

 何故そうなったかの真相とディーンとアリョーネが何を知っていたかは最終章で明らかになり、メリエルがアリョーネの後継女皇でなければならない本当の事情も明らかになります。

 アリョーネの二人の娘たちも皇太子皇女ではない代わりに重大な役目を与えられていて、アリョーネは人選を間違えた。

 母アリョーネは人選間違えたが娘たちはそれぞれやりきります。

 そして「メリエルとアリアスに未来を選ばせる」というディーンの言葉の持つ真相もやがて明らかになります。

 敵対する者同士としてディーンとフィンツの戦いはより多くの人間を巻き込み破滅させていくことになる。

 そしてフィンツが破滅させたがっている“もの”と、ディーンが守ろうとしている“者”の差は歴然となっていきます。

 またシャア(キャスバル)とセイラ(アルテイシア)は一度も理解し合わない永久平行線だったけれど、ナイトイーター編で明らかになる通り、ディーンとセリーナの兄妹愛は《ナイトイーター》のフリオ・ラースが呆れる程に絶対的で、なんでも抑制しなんでも建前論で考えるディーンと、なんにも抑制せずなんでも本質論を語るセリーナは対の究極です。

 全然違うようでいて、フリオ曰く「この二人が兄妹じゃなかったら世の中全部信じらんねーよ」です。

 なんでそんなことになってるかというとディーンの妹であるセリーナこそがルイスの心を虐め痛めつけてきた“魔女”だからです。

 しかし、単にエウロペア人のボキャブラリーが足りないだけでセリーナの本質は魔女とは違い、真逆です。

 だからこそ「ばっかじゃないの」とセリーナは嘯き、分からず屋どもを血に染めていく強いて言うなら小悪魔です。

 そしてそれぞれ別の人を別の理由から愛するのですが、伴侶の愛し方は真逆なのに選び方は「こうと決めたら一直線。恨まれていようがフラれてようが当たって砕けてドーンっ」でした。

 そして、ディーンとナダルが正に砕け散ってます。(笑)

 ディーンもナダルもかなりのスーパーマンだし、それらしい働きをするのに、黒メリエルに言わせるとヘタレとワンコ。(笑)

 結局、エウロペア人たちが怖れていたのは《黒髪の冥王》と《嘆きの聖女》の子供というのはとんでもない存在であり、前例がある。

 そして次幕にてその“前例”がベールを脱ぎます。

 絶望的な劣勢から圧倒的勝利に変えていくディーンたちの戦いのキーマン。

 「黒き森の鎮魂歌」にて主人公がなんと呼ばれる事が多かったかがヒント。

 そして、戦争の本質です。

 第二幕でトリエル殿下が無茶苦茶嘆いてるのは?

 メリエルが主に頭を悩ませるモノとは?

 戦争という行為を兵器と兵士、係争地、独裁者あるいは主戦強硬派の三要素で成り立つと考えているとしたら大間違いですし、日本が先の大戦で負けたのもコレが主な原因ですし、あるいはロシアも負けるかも知れない。

 それはまずソレとし、標題である「ゼダの紋章」の真実とは「簒奪した」という事実から目を背けないという覚悟であり、生き残るために重ねて来た罪と業が歪みを呼び覚ましてしまった。

 正に因果応報。

 リボンちゃんとして戦うルイスだけ気付いてなかったりするのが皮肉です。


              永井 文治朗

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ゼダの紋章 第2幕 人類絶対防衛戦線 永井 文治朗 @dy0524

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