第2幕第1話 アルマス到着
「俺が悪党どもに手を貸してたわけじゃなかったって言いたいのか?」
スレイの疑い深い視線を受け止めた「ディーンせんせ」は更に鋭く尖った視線を向ける。
黒縁眼鏡の奥にあるディーンの目は少しも笑っていなかった。
「それはどうかな。なにしろどうやってベックス爺さんが本物のエルミタージュとの渡りをつけて信用させたかに関しては考えたくもない。そもそもプランとしての作戦を複数提示するためだけにお前を利用するなら、学生アルバイトを中尉相当官扱いになんかするもんか。ヤツらを信用させるための箔付けで中尉相当官にしていたのさ。作戦プランと対策プランを別の人間が考える。そして、出来の良い方の作戦をボクらが採用し、出来の悪い方の作戦案をアイツらに売り渡す。お前とベックス爺さんは正に師弟でソレをやってたんだろ」
「それってズルいよ」と思わずメリエルが口を挟む。
スレイは複雑な表情を浮かべる。
悪党どもに自分の作戦が利用されていたと聞くとやりきれない。
だが、利用価値があるならスレイでも間違いなくそうする。
「だから、『外殻部隊エルミタージュ』の責任者はグエン調査室長だけど、現場指揮官として事実上仕切っているトリエル副司令はヤツらを騙し討ちにするための手段なんて一切選ばないんだって。散々信用させておいて、あるタイミングで作戦失敗させるように仕向けて全滅させる。だけど、足がつかないようにあらかじめ幾つか作戦案を提示しておいたり、対策案も用意しておいた風を装う。だけど、すべて把握している。もともとそういうヘビみたいに狡猾で油断も隙も見せたらいけない人なんだもの。間違いなく言えるのは女皇騎士団の幹部級で一番性格が悪い。だから、単に弟だからってだけじゃなくアリョーネ陛下が一番信用しているのさ。陛下も相当性格悪いもの」
本人達が聞いたら怒られるどころでは済まない話だが、ディーンはサラっと言いのけてしまう。
そういうディーンもまた相当性格が悪かったし、そもそも「傭兵騎士団エルミタージュ」の作戦失敗と部隊全滅を散々やらかしてきたのがベルカ・トラインだった。
「敵側に怪物が出たせいで作戦が失敗させられた」と誤認させているが、作戦プランも撤収ルートも把握済みなのだから、後は作戦の場に出てきた騎士たちを一人残らず狩るだけだった。
そうした殲滅任務(エリミネートオーダー)担当なのがミラーとベルカだ。
二人が殺した傭兵騎士は既に足して500人以上。
セカイと所属国家国民のため、命もその身も捧げて奉仕するのが“騎士”だと考える二人は、その心がけのある騎士たちを育てる労力を惜しまなかったが、一方でいかなる理由があろうと私欲と金銭目的で真戦兵を利用する者を野放しになどしない冷酷非情さも備えていた。
すべて「殺す」か「壊す」。
よしんば命だけ拾っても、心が完全に壊れて二度と真戦兵に乗れなくなった廃業騎士たちをも量産していた。
廃業騎士というゴミには相応しい「野垂れ死に」という末路を用意してセカイを糺すのもまた「本来の騎士の使命」だと考えていた。
放っておくといつまでも弱者を食い物にし、特権をふりかざすダニとして湧いてくるし、それが嫌いな人間はなにもスレイだけに限ったことではない。
そもそもディーンもそこいらの騎士たちが大嫌いだ。
エドナの天技指南書はなんのためにあるかといえば、龍虫との戦いに際して五分の戦いに持ち込むためだ。
研鑽を積めば一つくらいは天技を扱えるようになる。
だが、それをしようとする者が少ない。
そして強さに応じた心の弱さと深い葛藤を備えた「本物の騎士」は全体の1割にも満たない。
ほとんどの騎士たちは自分自身の限界点まで己を高め、技を極めたことがないからだ。
騎士は自分自身の弱さと向き合い、勇気で克服して戦場に立ち、恐れと弱さの向こう側にある人類の勝利のために戦う。
だから、泣くし、傷つくし、他者や弱者たちに対して心から労れるようになる。
弱肉強食などというルールは龍虫たちの自然界にだけしか存在しない。
すくなくとも人間たちは違っている。
元の世界の人間たちとは決定的に違うのは「人間ははなっから人間」だという真理だ。
次に生まれ変わってもまた人間になり、前の人生で果たせなかった思いを遂げようとすることが出来る。
産まれや運命はその都度違う。
だが、想いの強さはそのままその人物の精神力になる。
それがディーンの無力化思想の行き着いた先だ。
心得違いは殺せばいい。
また産まれてきたなら、今度は間違えないチャンスは与える。
だが、性根の腐ったヤツは周りをも腐らせる。
だから圧倒的な力の差をみせつけ、恐怖をその身に刻み込み、心を破壊する。
そもそも《虫使い》と龍虫という脅威があってはじめて「騎士」という職業が成立していた。
それがないと戦えないので騎士因子という耐性をも備えた正に特権の塊だ。
それが偉ぶることがあってはならない。
旧世界にも「騎士」という概念はあったが、少なくともこのセカイでは違う。
「騎」とは真戦兵を駆る者。
「士」とはモノノフであり、その技をもって弱きを守る武者。
つまり、このセカイに最初に騎士が登場して以来変わらない真理がそれだった。
セカイのために戦いたくても戦えない人々のために戦うのが騎士であって、私欲や思想で戦うヤツらは騎士ではない。
そして「騎士の本懐」。
それは「自分の代で自分が終わらせるんだ」という子孫や未来への強い使命感とそれ以上に強く悲壮なる覚悟。
それに目覚めることで騎士たちは大化けする。
「どうしてこんなことになったかというとね、《アイラスの悲劇》があったせいなの。国家騎士団北部方面軍のアイラス要塞は知っている?」
「もちろん、《黒騎士隊》の本拠地だよな」
アイラス要塞とはオラトリエスとの国境沿岸部にあるゼダ国家騎士団の最大拠点だ。
「8年前に『傭兵騎士団エルミタージュ』に急襲され、陽動で出払っていた《黒騎士隊》を残して全滅したの。“一人残らず”ね」
「どうしてそれは公にされなかったの?」とメリエル。
「公に出来なかったんだよ。“一人残らず”だぞ。つまりドールマイスター(開発者)、メンテナンサー(整備士)といった後方要員や待機任務中の騎士たち、それに非戦闘兵員も含めての全滅。そんなのが公にされたら、『誰がやったんだ』という話になる」
ルイスはディーンの話すあいだスレイから目線を外さなかった。
現時点で最も「ルーマー教団」との関係が疑わしいのが、作戦参謀中尉相当官のスレイ・シェリフィスだ。
個人的な印象でなく、「スレイがルーマーと内通していることが発覚したら迷わず殺せ」というのが、紋章騎士たるルイスがトワント前公爵から受けていたオーダーであり、その事実はディーンも知らなかったし、スレイの過去を詳細に調べ上げたルイスはスレイ・シェリフィスという男が疑われるだけのことを過去に散々してきたと突き止めていた。
「親友をその手に掛けろ」というのはあまりにも残酷すぎる話だからとトワントが代替わりに際し、それだけは自分の責任とすると決めたのだ。
厳格ではあるが穏やかな印象とは異なり、本性として苛烈な面も持つトワント・エクセイル公爵を良く知るパトリック・リーナがスレイを関わらせたがらなかったのもそのためだ。
一方、ディーンは耀紫苑の母、耀多里亜がそのとき戦死したことも、他の誰よりも怒り狂ったのが多里亜の姉たるアリョーネと弟のトリエルだというのも知っている。
公表せぬことを決め、復讐と反撃のために「外殻部隊エルミタージュ」を組織し、「ルーマー教団」と戦うことを決めてから、トワント・エクセイル前公爵に裁可を求めた。
“報い”を与えるため、奪われた命のため、強行作戦で犠牲者を出しながらも、エルミタージュの試作艦だった《ブラムド・リンク》を強奪し、改修を加えて
エドナ杯での「アリョーネ暗殺未遂事件」の後、「ルーマーに関わる人間はそれが誰であろうと殺せ」というのがトワント・エクセイル前公爵が女皇騎士団とスカートナイツ、紋章騎士に対してくだした冷酷非情のオーダーだ。
皮肉にも誅殺対象は過去にも遡及適用され、トワント自身の父親で前公爵だったギルバート・エクセイル3世らにも及び、本物のフィンツは義祖父がルーマーの求めで《聖典》の原典復活のため、アークスの叡智を利用している事実を突き止めた上で誅殺した。
トワントやディーンたちがフィンツはおそらく生きていまいと思うのも、ルーマーのようなカルト秘密結社と正面切って戦えば、おのずとどうなるか分かるからだ。
ディーンはすべて分かった上で、西部戦線の筆頭騎士候補たるが故に「ルーマー教団」のことは脇に追いやろうと決めていた。
「なんでルイスが軍事機密を知ってるの?」
メリエルに問われたルイスにかわってディーンが答える。
「それは当時のアイラス要塞の最高責任者が要塞司令官の『カミソリエイブ』ことエイブ・ラファール准将だったからさ。ルイスの父親でボクの義父。事件当夜は国家騎士団パルム中央司令部での定例報告会議に出席していて不在だった。けど、引責降格人事で大佐にされ、その上パルム国軍監査部という閑職に回されたという体裁だけど、その実、国軍にも国家騎士団にも不穏な動きがないか監視出来る位置に立った。内務省管轄の軍警察も自由に動かせる」
「その頃から父はずっとパルム勤務。兄さんもアタシも大都会のパルムじゃ騎士修業なんて出来ないから、それぞれ別に預けられていたのよ」
シモンは国家騎士団南部方面軍司令のランスロー・ドレファス現大佐に、ルイスは同族のセプテム・ラファールにそれぞれ預けられて成長した。
その当時から准騎士シモン・ラファールの将来的な国家騎士団入りはほぼ決まっていたのだ。
なにしろエイブの跡取り息子だから当然といえた。
そして、久しぶりにパルムに居る父エイブに会いに行ったルイスは見知らぬ女が母親面して実家に居たので一悶着起こし、トリスタのセプテムのところに戻って以来、勝手に絶縁していた。
兄のシモンがアッサリ事態を受け入れたのも気に入らなかったので巻き添えにした。
そして、ルイスはエドナ杯のあとに結果報告と騎士廃業の申し入れに行った際にエイブから正式に勘当されることになった。
もとはといえば筋目を重んじる誰かさんのせいだし、勘違いの激しい親娘はとんでもない思い違いをしていたのだ。
「ともかくわかった。《アイラスの悲劇》なんてことをやらかすほど敵に内情を知られていて肉薄されているんだな」とスレイは他人事として言った。
「そうだ。用心に越したことはないし、また同様の事態が起きるかも知れない。少なくともアリョーネ陛下が一番危惧しているのがソレだ。だから、“アタシの可愛いフィンツ坊や”だとか言って、自分が鍛えた絶対的に味方というボクを側に置いてたのさ」
ナダル・ラシール、マーニャ・スレイマン、耀紫苑たちの誤解はソレだ。
フィンツ本人ではないのに猫かわいがりしていたのは、ディーンさえパルムにいればフィンツの悲劇もなかったとアリョーネが頑なに信じているからだ。
なにより内向的なフィンツの心情に一番寄り添っていたのが義兄だったディーンであると事情に精通した関係者の誰もが知っていた。
頻繁に文通でやり取りし、フィンツにとって心の支えだった。
ディーンは最終的にフィンツが破滅の道を選んでしまった本当の事情も知っている。
フィンツと同じ事をされたなら、ディーンでもあるいは我を忘れて“復讐者”となる。
メリエルは一連の話を聞くうちに妙だなと感じることがあった。
途中まで裏方だったディーンが主役に躍り出たのは義弟フィンツの出奔だとして、それまではどうして表に立たなかったのか?
皇室吟味役を拝命したといえ、もともとアリョーネたちにも近しいし、事情を知りすぎている。
皇族筋にも容姿が似ているというし・・・。
そしてなにより・・・。
「ちょっとマッテ、ディーン。なんで私にはどこか余所余所しいのに母たる女皇陛下には妙に馴れ馴れしいの?」
ディーンはこの日いちばんニマっと人の悪い笑みを浮かべた。
遂に気づいたかといった具合だ。
「ソレはボクはへーかの実の甥っ子ですので。陛下の姉たるアラウネ元皇女の忘れ形見・・・というか母は生きてますし、多分メリエル殿下の後見役として表に出てきます」
その実、ディーンは昨年2月にあった祖母でアエリア学院長アルベオの妻マヘリアの葬儀の席でセスタにいるアラウネと再会していた。
だから、アラウネが今は「アローラ・スターム」と名乗っていることも知っていた。
「はいっ!?」
3人は揃って耳を疑った。
もともと摂政皇女まで勤めたアラウネが暗殺されて即位しなかったせいで妹のアリョーネが皇太子皇女に擁立させられ、その後即位した。
なのにアラウネ本人が生きているわ、子供こさえているわというのだ。
そんなに簡単には聞き捨てならない。
「そうか・・・そういうことだったのね。婚姻届の提出は自分が公務の合間にしておくからガッコいきなさいとかって」とルイス。
「アタマ、こんがらがるわ。皇女の私生児ってのがメリエルだけじゃなくてオマエもかよ」とスレイ。
「たしかに現役女皇も所属騎士団の副司令も叔母叔父で、要人中の要人だから表舞台に立たなかった。暗殺の危険性が高かったんで成人するまで隠して育てられたし、エドナ杯で表に出てくるなり『殺せるものなら殺してみろ』という強烈なアピールからの不敗伝説だとかって・・・」とメリエルは呆然となった。
「散々、負けっぱなしの前半生の反動だよ。それに愛する義弟の名誉のために、本当は負けているのに『不敗神話』を終わらせられなかったんだもの」
ディーンだって散々命を狙われてきたのだが、そんなのは虐待的養育と比べたら可愛いものだった。
亜羅叛師匠から女皇家隠密機動としても徹底的に鍛えられている。
まず、なにより己の身を護ることが最重要任務だった。
そもそも敵を唖然とさせる「究極の隠し玉」なのだ。
オールラウンダーとして何者としても通用するようありとあらゆる訓練に耐え、超一流の騎士たちから徹底英才教育を受けた。
その上、ほぼ最強クラスの人形遣いたる二人の女性たちから、「壊れないオモチャ」として嬲られるだけ嬲られたので、中原最強騎士だとか言われるまでに成長した。
そして、素性については全く悟られなかった。
本当の両親について発覚したなら、まず全力をもって排除される。
その上で“敵の親玉”までも欺いた結果としての元老院全会一致決議による正騎士昇格だった。
それでいて騎士という人種が嫌いだし、騎士や隠密機動としての自分をとことん嫌っている。
だからこそ、養父たちの居る名門大学に自力で合格して、青年学者として頭角を顕し、将来の道としてエクセイル家の家業継承をトワントに文句なしに認めさせたのだ。
「だから、イレギュラーなんだってば。フィンツが拒否したんでエクセイル家の跡取りは内定してたけど、もともとフィンツとメリエルを“影”から支えるのがボクの役目だ。ギルバート爺様には存在を知られると排斥されかねなかった。それに剣皇もカール陛下かフィンツと決まってたんだけど、万一の保険だった。3ヶ国共同開発事業たる決戦兵器タイアロット・アルビオレ完成というボクの本当の役目はとっくに終わっている」と言いさしてディーンはスレイとメリエルをにらみ据えた。「あとはスレイ、お前の駒として、ルイス共々最善手のために徹底的に利用される。そして、メリエルを女皇にし、すべての戦いに終止符を打つ。その上で生き残ってパルムに戻り、トワント義父さんが成せなかったかわりを果たす。それがボクがボク自身に課したオーダーだ。ルイスは連れ帰るし、スレイとメリエルはなにがあろうと守り抜く。お前たちが“本当はなにを考え、なにを目論んでいよう”が知ったこっちゃない。ボクはボクの仕事をするだけだ」
それがディーンの本音であり、「騎士の本懐」であり、悲壮なまでの覚悟だった。
ルイスは深く頷き、スレイは視線を逸らした。
そしてメリエルは自身の目論見を挫く一番最強最悪の敵が目の前に居るのだと気づかれぬように小さく歯噛みした。
女皇暦1188年4月27日 午前8時
特急列車がアルマス駅に停車すると武装したゼダ国軍兵士達がコンパートメント車両前に整然と整列していた。
ディーンたちの予想はやはり正しかった。
「メリエル・メイデン・ゼダ皇女殿下、フィンツ・スターム卿、ルイス・ラファール卿、スレイ・シェリフィス中尉御着陣!」
予想通りだとはいえいい気分もしない。
早い話が戦争の人身御供として選ばれ、アルマスに到着するなりそれぞれの名前を呼ばれたのだ。
アルマス駅のホームの以前の姿を知っているのは新大陸に渡るため立ち寄ったことのあるディーンだけだった。
すっかり戦争モードではなく、戦争モードだと悟らせるのは駅舎に並ぶ国軍兵士たちと神殿騎士団員たちだけで、そうとは全く悟らせないよう徹底的に偽装されている。
「アルマスは最前線後方支援の最大拠点だものね。つまり、ここから西が戦場で、ここから東が後方」とディーンは言い、「なるほど、アルマスは平常運転状態ってことか」とスレイは言った。
「大きな街なんだね」とメリエルは車窓からアルマスを一望し、パルムとそれほど変わらない発展ぶりに驚いていた。
「さて、此処からは各自の役割を通すわよ」と言ったルイスは起きがけには白い軽装甲冑姿に胸の中央に金紋章を入れ、紋章布は左の胸ポケットに差し込んで騎士然としている。
今もパルム出立時の変装姿なのはメリエルとスレイだけだ。
ディーンもフィンツ・スターム少佐相当官を意味する女皇正騎士の正式隊服姿だ。
ただし、出発前に髪型を変えているので少しだけ雰囲気が違う。
「皆の者出迎えご苦労、ここにおわすがメリエル・メイデン・ゼダ皇女殿下、そして隣がアリョーネ・メイダス・ゼダ陛下の全権代理人たるルイス・ラファール卿。私はその夫であるフィンツ・スターム少佐。そして、作戦参謀のスレイ・シェリフィス中尉だ。以後見知りおき、粗相のないよう振る舞いたまえ」
フィンツ・スタームは淀みなく自己紹介するや代表者を探した。
「神殿騎士団副団長のミシェル・ファンフリート大佐にございます」
《鉄舟》はナカリア退却戦の頃より一段と細くなっている。
鼻ヒゲなどの身なりは貴人の出迎えとあって整えているがやつれた印象は否めない。
実際、やつれることばかりであり、ナカリアのフィーゴ大佐や国家騎士団西部方面軍のレウニッツ・セダン大佐が頼もしいからどうにかやっているという状況だった。
ちなみにミシェル、フィーゴ、セダン、トリエルが揃って「大佐」なのは各国から招聘した騎士達を指揮下に置くにあたって支障が出ないことと、国籍や所属の異なる誰かが階級的に突出することでバランスが崩れないための事前措置だ。
龍虫戦争にてどんな戦果を挙げても昇進することはなく、晴れて国に席を戻して昇進するヤツは昇進する。
それまで生き残れればの話で、戦死して二階級特進で将官になっても本人を含めて誰も喜ばない。
そして、後に必要に駆られて軍務経験のない二人の男がやがて「大佐」になる。
「《鉄舟》殿。法皇猊下の御姿が見えぬようだが?」
「取り急ぎミロアに戻り気象兵器の使用申請手続きをしております」
気象兵器の使用申請と聞いてディーンは怪訝な顔をした。
そういうものがあるのは知っているが、いきなり使うべきなのかと訝る。
「はぁ?作戦予定では『ナカリア退却戦』で戦力を温存してフォートセバーンで籠城している筈では?」
つまり、ブラムド・リンクで随行しているイアンたちとアルマス空港で合流してフォートセバーンに向かうのだと考えていた。
「スターム卿、フォートセバーンは来る3月14日に遺憾ながら陥落いたしました」
《鉄舟》のその一言にディーンは真っ青になった。
ディーンたちがアルマスに到着する一月前に西の大国メルヒンの誇る王都であり巨大要塞たるフォートセバーンが陥落していた。
そうともなれば最前線は国境を越えたゼダ領内のトレド要塞になるということだ。
「待ってくださいファンフリート卿、聡明な貴方が全面指揮したというのにメルヒン西風騎士団はどうして堅牢なフォートセバーンを放棄したのです?」
「その全面指揮が出来なかったのですよ」と申し訳なさそうにミシェル・ファンフリートは視線を落とした。「メルヒン西風騎士団の主戦強硬派が王都を敵前に晒すは愚策と主張して隘路となるラピア街道とレマン丘陵に布陣し、迎撃態勢を整えましたが・・・」
「龍虫の別働隊がセルボンヌ街道の迂回ルートからフォートセバーンに肉薄して電撃強襲したのですね?大佐」
スレイ・シェリフィスは先日レーヌで購入した駅売りの地図で確認してフォートセバーン周辺地域をすっかり把握していた。
参謀中尉という肩書きのスレイの指摘にミシェルは歯噛みして頷いた。
「それじゃ、我々の招聘を強引に実施するわけだ」
ディーンは呆れたように呻いてからミシェルに向き直った。
「それでは今すぐ一隻分の着陸スペースをアルマス空港に確保してください」
「はぁっ?」
「中原一の頭脳」と称されるミシェル・ファンフリートにもピンとこなかったらしい。
怪訝顔のミシェルにディーンは畳み掛けた。
「ゼダ女皇騎士団艦艇たる輸送艦の《バルハラ》がアルマス上空待機中です。いえ、ファンフリート大佐になら《ブラムド・リンク》と言った方が早いですかな?」
ディーンのその一言にミシェルは大慌てで近くに居た配下の神殿騎士に命じる。
丁度、ナカリア銅騎士団旗艦でフェルナン・フィーゴ大佐のマッキャオがトレド支援部隊増派のために離陸予定だった。
それを急がせさえすれば一隻分のスペースが確保出来るし、フィーゴなら察して即座にやる。
ディーンは寸刻も惜しまなかった。
ゼダ国軍兵士の連絡将校を掴まえて携帯式の無線機を用意させる。
「秘匿回線717で緊急コールサインを三度打てっ!」
「了解しました、少佐」
相手側の返答はない。
だが、三度のコールサイン後、ディーンは無線機をひったくり大声で叫んでいた。
「イアン提督っ、フィンツです。アルマス空港に緊急着陸してくださいっ!」
『おう、よく随行してると気づいたな』と先頃別れたばかりのイアン・フューリー提督の声が無線機から聞こえる。
「スレイが光学迷彩を見破りました。それよりこちらは思った以上に酷い戦況のようです。フォートセバーン陥落から既に1ヶ月経過しています」
しばし沈黙があった。
やはりイアンやパベルも想定外だったのだろう。
『了解したフィンツ、じゃなかったな“ディーン”。前に見えてるマッキャオ発艦と同時にこちらも船をおろす。ただし、搭載機体はアテにすんなよ。姉さんから持ち出し許可が出たのはスカーレット1番機と俺のトリケロス、そしてマリアンの風神丸、大将の雷神丸だけだ』
イアンではなく別の中年男性の声にディーンはやっぱりかと顔を伏せた。
聞き間違いようのなくそれはトリエル・シェンバッハ副司令のものだ。
つまり、《ブラムド・リンク》の使用許可とアルマス上空待機はトリエルの指示によるものだったということだ。
「げっ、流石にシャドー・ダーインで敵陣に突っ込む事態は避けたいデス」
小型で都市戦闘用のシャドー・ダーインは対龍虫戦闘には向いていない。
要人警護と暗殺、暗殺者撃退用の機体だ。
トリエルの言う“大将”というのが誰を指すかもディーンは理解している。
『アホたれ、大事な“総大将”にそんな無茶させるかっての。アレが組み上がり次第、紫苑もティリンス付きでコッチに合流させてバスランに回す』
いかにもトリエルらしい先手先手をとった考え方だ。
つまり派遣部隊第三陣はドールマイスターの耀紫苑少佐とガード役のティリンス・オーガスタ少佐だということになる。
「あー、フランベルジュってばやはり完成しちゃいますか?」
ナダルの着任騒動のどさくさで紫苑が騎士覚醒したのは知っていたディーンは、マリアンが発注していたシャドー・ダーイン2機がほぼ完成したのは知っていたが、出立前はフランベルジュは未完成だった。
『覚醒紫苑にかかったら風神雷神は2日ずつで仕上げの犀辰サン預かりになったし、フランベルジュも7日で仕上がる算段らしい』
「うはっ、頼もしいなぁ」
《フランベルジュ・ダーイン》はその完成前から誰が使うか決まっている。
ただ、その出撃となると慎重に時期と相手とを見計らわねばならない。
「ルイスは前にも使ったことのあるスカーレットを使うとして、その調子でボクの機体も突貫工事で組み上げでくれないかなぁ」
ディーンのボヤキ節にトリエルが「ん?」となる。
『あれっ、其処に《鉄舟》さん居ないか?剣皇ディーンの使う《使徒機》をメルヒンで用意してる筈だったんだが、ソレはどうなった?』
色よい返答どころかミシェル・ファンフリートは真っ青な顔で固まっていた。
そんな話は聞いてすらいない。
『まさかとは思うが大佐よ、陥落したっていうフォートセバーンに置きっぱなしってことはないよな?』
「た・・・多分、そのマサカです」
『ってことは耀家の公明はまだバスラン入りもしていないのか?』
耀公明は大国メルヒンお抱えのドールマイスターだ。
耀家は各国で雇われているが、血族は大分減っている。
真戦兵という軍事機密に携わるため暗殺対象として狙う者もいたせいだ。
フェリオ連邦の「リンツ工房」も耀家直系の運営する中原最高の真戦兵工房であり、600年前の天才マイスターたるジュリアン・モンデシーが属して以来、その座を他に譲ったことはない。
ジュリアン・モンデシー、
数百年前に天才マイスターと謳われた三人が居たから「龍虫大戦」で無残に負けなかった。
ゼダは
もともとメイヨール元公国の要衝とされたバスラン要塞は軍事拠点としてはゼダ本国や法都ミロアに近すぎるため、「巨大な真戦兵工房と後方拠点基地」として運用される予定であり、先行部隊として女皇騎士団に所属していたメンテナンサーたちは既にバスランに異動し、パルムに居残っていたのは警護対象者でもあり最高責任者の耀紫苑少佐だけだった。
つまり、前章でナダルが見た「もぬけの空」だった地下作業施設に居たメンテナンサーの連中はとっくにバスランに異動して女皇騎士団、国家騎士団の共通主力真戦兵ファング・ダーイン、ベルグ・ダーインの改良を中心に整備しているのだ。
ファングとベルグの改良型は東征でも活躍していた。
その上で更に次期主力機スカーレットとトリケロスを完成させていた。
今の所トリエルの専用機扱いのトリケロス・ダーインと先行配備機としてマグワイア・デュランが手合いで試験的に使っていたスカーレット・ダーインは量産前提のゼダ次期主力機として、亡妻の設計を基にして犀辰が完成させていた。
結局、トリケロスはトリエルともう一人の男性騎士が、スカーレット・ダーインは5番機まで建造され、各女性騎士たちが使うことになった。
ひどく癖があり剣聖級にしか扱いきれないこれらの機体よりも遙かに設計思想と汎用性に勝る傑作量産機を件の耀公明が既に用意していたからだった。
ちなみにルイスに割り当てられる予定だったスカーレット・ダーイン1番機は設計者に縁在る別の騎士が使うことになる。
紫苑の父で前任者の耀犀辰は正騎士の任を娘に譲り、表向きはシルバニア教導団専属のマイスターとして赴任していることに、その実は極秘新型機アパラシア・ダーイン開発のため旧都ハルファの工房入りしている。
かつてはゼダの首都だったハルファはアルマスと同程度の規模の都市として残っていて、女皇騎士団、国家騎士団の重要施設も多い。
こと龍虫戦争においてゼダの準備は完璧だったといえる。
先行派遣部隊の陣容こそトリエルがつい先日選んで命令したが、誰がどのタイミングで戦線入りするかは慎重になっている。
幸いにして月の半分をヴェロームでの執務に充てている司令官ハニバル・トラベイヨ中将は元々居るんだか居ないんだかわからない人なのでいつでも所在地を変えられるし、神出鬼没のトリエルも少しぐらいの期間なら居なくても関係者以外は気にしない。
パルムにおいては女皇騎士団の司令格たちは名誉職の“お飾り”だと思われていたからだ。
そのために調査室長兼司令代行のグエン・ラシールがパルムに常在していたし、次席司令格のアルゴ・スレイマン、騎士長マグワイア・デュランが宮殿詰めしている。
龍虫の襲撃予測地点の候補は二カ所と想定されていた。
つまり、東エウロペアのフェリオ連邦南部アストリア大公国とベリア半島だった。
各国は一般国民たちに気取られずにその備えをしていた。
ゼダ国家騎士団の「東征」とオラトリエス国ファルマスの要塞化、剣皇シャルル・ルジェンテ任命も龍虫のアストリア大公国侵攻を想定した軍事行動だった。
だからこそ、事前にミシェル・ファンフリートがナカリア入りしていたし、フェリオ連邦方面に法皇ナファド・エルレインが居た。
実際のところ、ベリア半島となりミシェルは事前の作戦案通りにフィーゴと協力して「ナカリア退却戦」を想定の被害内に留めて部隊をフォートセバーンに合流させていた・・・とトリエルたちは思い込んでいた。
情報統制がアダとなり、龍虫が半島南部に位置するナカリア王都のタッスルに続いてフォートセバーンを電撃攻略したことも、情報統制外のパルムに居たディーンやトリエルたちの知るところでなかった。
450年前に統一メルヒン建国の立役者となった元国王妃で剣聖エリンベルク・ロックフォートはフォートセバーンに仕掛けを施していた。
逆にそれを警戒した《龍皇子》は「龍虫大戦」において敢えてベリアに侵攻しなかった。
既に予定は狂っている。
フォートセバーンのガエラボルン宮殿は守備戦力さえあれば、ゆうに半年以上は持ち堪えられた。
それが喪失した。
真戦兵シュナイゼルによる大掛かりな籠城を前提に最初から設計されていた一大拠点があっさりと「敵」に落とされたのだ。
『トレドまで包囲攻略されてますじゃねぇよな、ファンフリート大佐』
「ベリアの残存兵力と国家騎士団の西部方面軍、テンプルズを集結させていますが旗色は思わしくありません」
こっちは「睨み合い」になっているとトリエルは即座に判断した。
集結戦力が人類軍のほぼ現有戦力のすべてと桁違いだったし、一度に攻略出来るほど龍虫側もまだ大群とはなっていない。
機動性に優れた先行部隊と《虫使い》たちが一気に攻略を試みても、緒戦のフォートセバーン攻略戦でかなり消耗している。
別にタダでくれてやった訳でなく、《虫使い》たちも相当に無理を押し通して制圧したのであろう。
そうでもないと現状で旗艦格のマッキャオが忙しく飛び回っている説明がつかない。
既に緒戦を戦っているベリアやテンプルズの騎士たちから戦闘のコツは国家騎士団西部方面軍に伝えられている。
旧公都たるトレドはアラウネが20年前の改革実施時に要塞化させていた。
15メルテの高い城壁を築き、半地下都市化し、その住人たちは龍虫襲来時に逃げ込める手筈になっていたし、騎士因子の高いトレドの住人たちは前の大戦を生き延びて流民化していた亡国の民の末裔たちだった。
「龍虫大戦」の隠れた英雄の一人がラムザール・メイヨール公爵だ。
ラムザールは特選隊に選抜されたレイス・ヴェローム公爵のように自ら真戦兵を駆って出撃することなく、剣聖エリンたち「特選隊」の後背支援に徹し、《砦の男》と共に為政に専念して「特選隊」の兵站を支えた。
その一方で初代剣皇アルフレッド・フェリオンに率いられてファルツ、フェリオといった北や東から逃れてきた流民達を新たな公国民として受け入れた。
それも次の龍虫襲来時の備えとしてだった。
《女皇戦争》の主戦場となったトレド要塞はそうして長い時間をかけて成立したのだ。
『取り敢えずディーンは3人連れてこっちに合流しろ』
「了解です、副司令」
本当だったらメリエルだけでも臨時司令部となっている「ホテルシンクレア」に入れたいところだ。
だが、それこそ危険な賭けだ。
「ホテルシンクレア」は民間ホテルを偽装した堅牢な施設であり、オーナーのパトリシア・ベルゴール元女皇正騎士かつ元女侯爵も含め、従業員たちもシルバニア教導団出身者であるという女皇騎士団の精鋭揃いの上、“大将”ことアランハス・ラシールが控えていた。
臨時司令部にするためにそれだけの支度はしてある。
だが、ホテルに通じる周囲一帯には暗殺者たちが手ぐすねを引いて待ち構えている恐れがある。
なにしろアルマスの詳細な情報も判明していない。
「本当に信頼できそうな人間たちだけでアルマス空港に車両移動しましょう。《ブラムド・リンク》の艦内なら関係者以外は立ち入れません。クルーの身元もしっかりしていますし、現状で安全が確実なのはパルムから到着したばかりのあの船だけでしょう」
女皇アリョーネの全権代理人たるルイス・ラファールにはゼダ所属の全将兵達の生殺与奪の権限もあり、おかしな動きを見せたら即座に排除出来る。
同様にフィンツ・スターム少佐もそれに次ぐ権限が付与されている。
(頼むよぉ、ルイス。「セプテムおじさん」の教育が誤ってなかったとその身で証明してみせてくれ)
結局、呼び寄せたばかりの若い彼等が頼みだという状況にセプテム・ラファールことミシェル・ファンフリート大佐は半泣きの苦笑いを浮かべるよりなかった。
スレイ・シェリフィスは《ブラムド・リンク》に乗艦する前に三度肝を冷やした。
一度目はアルマス駅で出迎えた兵士たちの一部が抜刀して斬り掛かってきたのをディーンとルイス、ミシェルが鮮やかに仕留めたときだ。
臨戦態勢のディーンとルイスはメリエルとスレイを庇い、刺客たちをものの見事に撃退した。
だが、スレイがなにより驚愕したのは文官肌に見えたミシェルの鮮やかな剣捌きだった。
誰の差し金かは判らないが、「メリエル暗殺」は二重三重に計画されていた。
二度目は「来い」と言っておきながらシャドー・ダーイン風神丸に搭乗したマリアン・ラムジーが光学迷彩を稼働させて車両場に突如出現したときだ。
そもそもディーンが「空港に車両で移動する」と言ったのもフェイクであり、わざわざトリエルが“シャドー・ダーインがありマリアンが来ている”と明かしたのは、それでスレイとメリエルを逃がす算段だと理解していた。
二人は小型機ながら広めに取られた操縦席後部に体を丸めて入り風神丸で《ブラムド・リンク》に入ることになった。
スレイは小型だが背中のずんぐりしたシャドー・ダーインが要人警護用の都市戦特化機体というのをそれで完全に理解した。
三度目は風神丸がアルマス空港に向かうと同時に背後で起きた爆発だった。
ミシェルが用意させた車両には爆弾が仕掛けられていた。
ディーンとルイスは申し合わせたように乗りこむフリだけして横っ飛びして難を逃れた。
そして、何事もなかったかのように護衛車の運転手を「仕留めて」乗り込みディーン自らがハンドルを取ってアルマス空港の滑走路まで全速で追跡してきた。
こうしてアルマス駅から3キロメルテ離れたアルマス空港に4人は再び顔を揃えたものの、ディーンとルイスは爆炎で折角の白衣装を煤で黒く汚していたし、スレイとメリエルは真っ青になって震えていた。
「これでもまだゲームする気になってくれないと困るわよ、スレイ」とルイスに言われ、スレイはコクンと小さく頷くよりなかったし、メリエルは軍警察に追われていたときなど可愛いもので、「常に自身の命が狙われている」のだと自覚した。
マリアンは空港への移動中に自身を“ジョセフィン・シェンバッハ”と自己紹介し、トリエル副司令の妻たることも、オラトリエス国王『剣皇カール』の実の妹たることも、メリエルにとって叔母たることも、マリアン・ラムジー元筆頭女官頭であることも明かした上で、メリエルの警護責任者であり、影の女皇騎士でディーンと同様の少佐相当官でメリエル専任のエンプレスガードだとも告げた。
女官騎士スカートナイツの指揮官であり、隠密機動でもある。
議会承認されていない女皇騎士はマリアンの他にも数名居て、かつてのディーンを除くその全員が女性騎士だ。
うち一人はデュイエ・ラシールだ。
グエン調査室長の妻で、ナダルの母親であり、マリアンの先輩格。
国民に周知されていないだけでトリエルもマリアンもアリョーネも何度も命を狙われてきた。
それに対処してきたのが諜報部隊でもある隠密機動たちだった。
そのうちアリョーネが暗殺者に狙われた場面をスレイとメリエルの二人とも一度目撃していた。
女皇家関係者の側に居るのは寿命が縮むとスレイは冷や汗を垂らした。
ブラムド・リンクの艦橋に4人とイアン、トリエルはこの年の正月以来顔を揃えた。
そもそもトリエルたち女皇騎士団主要メンバーがリーナ邸に乗り込んで年始パーティなどしたのは、アリョーネの指示でメリエルにそれぞれの顔を覚えて貰うための面通しだった。
マリアンは風神丸から降りずにそのまま待機した。
というより、夫にメリエルを預けている間にアルマスを「浄化」しなければならない。
「いよう、お勤めご苦労サン」と言った後、トリエルはディーンの首根っこを掴まえた。
そのまま二人は控え室に消えた。
なにかの打ち合わせだとスレイは判断し、この年の正月以来となるイアンと再会の抱擁を交わす。
「師兄、どうしますかね?」とスレイは言い、
「トリエルはトレドの敵情視察と耀家の坊主を回収しろだとさ。自分は女房とアルマスを偵察しとくんだとさ」
アルマスが見た目ほど安全でなどないことはスレイは体験してきたばかりだった。
「結局、戦の前から入り込まれていりゃあそういうことにもなるさ、腹くくれよ、スレイ。龍虫の相手してる時でも背後やらなんやらも注意してねぇと早々に戦死者の列に加わることになる。じさまの教えの生かし処だと思っとけ」
「怖い怖い」
身震いする風を装っていたがスレイは初めて入ったブラムドの艦橋に忙しなく視線を向けている。
「こればっかはやらねーよ」
「師兄ほど使いこなす自信もないです。それにどうやら俺は陸向きのようですね」
(嘘こけ)とイアンは皮肉っぽく笑った。
(飛空戦艦の戦術運用も含めた立体戦術こそ本領だとヌカすか)
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