第四十話 ゾンビは少し成長する②

「ゾイ……!」


 と、聞こえてくるクレハの声。

 彼女はゾイの方へ近寄って来ると、心配そうな顔で見つめてくる。


(うん……で、なんで僕倒れてるんだ?)


 ゾイはそもそも、倒れる前に何をしようとしていたのか。

 完全に頭が混乱している。


「ゾイ……ゾイっ!」


 と、ゾイを揺さぶって来るクレハ。

 クレハ、どうみても焦っている。


(そう、だ。ここは僕が冷静にならないと……まだ、僕は戦っている最中なんだから)


 と、ゾイはなんとか立ち上がる。

 当然、クレハは心配そうにゾイを支えてきてくれる。


(思い出せ……確か僕は、あの男に止めを刺そうとしたら……そう、そうだ!)


 男からのカウンターパンチ。

 それを顔面に喰らって、吹っ飛ばされたのだ。

 だが、それはおかしい。


 なぜならば。

 ゾイには『身体強化』スキルがある。

 この程度の男に負けるはずが――。


「っ!」


 と、ゾイはここでとある事に気がつく。

 それは。


(『身体強化』の効果が、切れてる……っ)


 全身の力が抜けているだけではない。

 男との戦闘で使っていたジョブ、『格闘家』が使えなくなっているのだ。


 やはり、男への負の感情が足りなかったに違いない。

 などなど、ゾイがそんな事を考えていると。


「おいおい、どうしたクソガキ? さっきまでの威勢はどこへいった?」


 すっかり調子を取り戻した様子の男。

 奴はゾイへと言葉を続けてくる。


「一発殴られただけで、そんな愕然とした顔してんじゃねぇよ! わかってんのかてめぇ、今からお前の両手両足バキバキしてやるからよ……そんで、てめぇの前でてめぇの女ぶっ壊してやるよ」


「っ」


 まずい。

 まずいまずい。


 今のゾイは、この男より弱い。

 それを意識すると、手足がどうしても震えて――。


「ゾイ、逃げて……ここからは私が戦うわ」


 と、ゾイの思考を断ち切る様に、聞こえてくるクレハの声。

 彼女は正しい。


 こうなった以上、クレハの方が強い。

 それにクレハならば、男に負けたりしないに違いない。

 けれど。


「あいつは、僕が殺す……クレハは下がって見ていて」


「ゾイ……?」


 と、戸惑った様子のクレハ。

 わかっている。


(どう考えても、非効率的だし……普段の僕らしくない)


 でも、いくらなんでも情けなさすぎる。

 男に悪意をぶつけられ、それに対する返礼を連れの女の子にしてもらう?

 論外だ。


(僕のスキルは負け前提のスキルだ。だけど、それでも……っ!)


 常に諦める選択肢ばかり取っていれば、ゾイ自身が成長できない気がするのだ。

 それに、これは以前も思った事だが。


(クレハ達に情けない所ばかり、見せる訳にはいかない)

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