第三十八話 狐は誘う

 時は深夜。

 場所は村外れ。

 現在、クレハは近くの林目指して歩を進めていた。


「おい、どこまでいくつもりだよ?」


 と、聞こえてきたのは男の声。

 昼間、ゾイに絡んできたあの男だ。

 クレハそんな男へと、言葉を返す。


「もう少し先よ……」


「それにしてもあのガキ、ただの腰抜けと思いきや、なかなかできたやつじゃねぇか。俺を不快にさせたお詫びに、自分の女を差し出してくるんだからな」


「そうね……」


 無警戒のバカ。

 性欲に支配された汚物。


(今すぐ殺したいけど我慢よ……私が殺したら、ゾイが困るもの)


 と、クレハはそんな事を考える。

 すると――。


「なぁ、さっきから淡々と喋るだけでよ……もう少し愛想よくできねぇのかよ? 俺はこれからてめぇを抱いてやるんだぜ?」


 と、言ってくる男。

 奴はクレハへと言葉を続けてくる。 


「だからよぉ、もっと可愛らしいこと言えねぇのかよ?」


「可愛らしいこと……?」


「わかんねぇかな? もっと照れたり、怖がったりはできねぇのかってことだよ?」


「……?」


「だから、男としては女がそういう態度を取ってくれた方が、興奮するって言ってんだよ。てねぇみたいに感情が見えないと、いまいち盛り上がらねぇんだよ」


「いまいち盛り上がらないのね……」


 この汚物、結構使えるかもしれない。

 先ほどの発言は、クレハにとってはかなりのアドバイスとなる。

 なぜならば……と、クレハはゾイとのやり取りを考える。


ゾ『やぁ、クレハ。これから僕とする気分はどうだい?』


ク『は、恥ずかしいわ……とっても恥ずかしいわ、ゾイ』


ゾ『どう恥ずかしいか言ってごらん、僕専用の変態奴隷狐ちゃん?』


ク『んっ……尻尾がキュンキュンして、耳がピクピクしているの……ゾイに見られるのが、とっても恥ずかしいわ』


ゾ『ふふ、クレハは変態だね。変態でどうしようもない狐だね』


 いい。

 今度試してみよう。

 と、クレハがそんな事を考えていると。


「なぁおい、さっきからやたら黙ってるけどよ……なんだ? 俺にヤられる自分でも想像して興奮してたか?」


 と、的外れな事を言ってくる男。

 クレハそんな男へと言う。


「……そうね、興奮していたと言えば興奮していたわ」


「なんだよ、可愛いとこあるじゃねぇか」


「……そうね」


「なぁおい、もう十分町から離れただろ? ここなら多少声を出しても誰も来ねぇって。そろそろヤろうぜ? てめぇもいい加減、俺のが欲しいんだろ?」


「……欲しいわ」


 場所はもう林の中。

 これでいい。


 クレハはそんな事を考えたのち、木によりかかる。

 そして、男を挑発するような目で見つめる。

 すると。


「準備完了ってわけだ」


 言って、クレハの方へ歩いて来る男。

 奴がクレハの肩へと、触れてこようとした。

 まさにその時。


「ぶほっ!?」


 と、男は真横へ吹っ飛んでいくのだった。

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