第三十六話 ゾンビは絡まれる

 時はれから数日後。

 場所は――。


「着いたのじゃ!」


「着いたわ……」


 と、聞こえてくるのはマオとクレハの声。

 ゾイはそんな彼女達へと、言葉を返す。


「へぇ、ここが例の村ね。たしかグリモワールとの交易が、盛んなんだよね?」


 クレハの事前説明通りだ。

 村は小さいが、過疎という感じはしない。

 むしろ、人が多くて活気があるといった印象だ。


「ご主人様! ご主人様!」


 と、ひょこひょこ跳ねてくるマオ。

 彼女はゾイへと言葉を続けてくる。


「まだ昼前じゃが、この後はどうするのじゃ?」


「とりあえず、情報収集かな。クレハの話だと、ここからグリモワール行きの馬車が出ているみたいだし……どうせなら、馬車で旅したいからね」


「情報収集となると、ご主人様は酒場に行くのじゃな!」


 まさにその通りだ。

 まだ昼前のため、人がいるか心配ではあるが。

 などなど、ゾイが考えていると。


「別に深い意味はないがその……我、少し酒場の料理に興味あるな……って」


 もじもじチラチラ。

 そんな事を言ってくるマオ。

 ゾイは彼女へと言う。


「えっと、マオ……お腹すいたの?」


「っ! べ、別にそういうわけじゃないのじゃ! 我は駄狐と違って、ご主人様に我儘言ったりしないのじゃ! ただ、ちょっと人間どもの料理に興味があるだけじゃ!」


「私はゾイに我儘を言っていないわ……それに、駄狐でもないわ」


 と、いつの間にやら近くに来ていたクレハ。

 彼女はマオの角を掴みながら、ゾイへと言ってくる。


「ゾイ、酒場に行くのなら早く行った方がいいわ」


「え、そうなの?」


「もし情報収集をして、グリモワールへの馬車が来るのが今日じゃなかったら……もしも、馬車が来るのが数日先だったら……早く宿を取らないと、野宿よ」


 きゅるるるぅ。

 と、聞こえてくる可愛らしい音。

 クレハは頬を赤くしながら、ゾイへと言葉を続けてくるのだった。


「野宿なのよ」


      ●●●


 時は十数分後。

 場所は酒場のテーブル席。


 結論から言おう。

 馬車が来るのは数日後だった。


 さらに言うなら、酒場の上にあった宿屋。

 そこも滑り込みで確保するこが出来た。

 クレハさんマジ感謝だ。


 けれど、宿屋を確保する際に問題が発生した。

 それすなわち――誰も金持ってないじゃん。


(正直、あの時は野宿を覚悟したよね。クレハなんてお腹をさすったまま、死にそうな顔してたし)


 と、そこに救世主が現れたのだ。

 その正体は――。


「マオ……見直したわ」


 と、聞こえてくるクレハの声。

 マオはそんな彼女へと言う。


「ふふん! 駄狐め! ようやく我のすごさがわかったか!」


「すごいわ、さすがマオよ……姑息だわ」


「そうじゃろ、そうじゃろ! くはははははははっ! ん、待て。今なんと言ったのじゃ?」


 要するに、マオが金を払ってくれたのだ。

 彼女が金を持っていた理由。

 それは簡単だ。


「でも、今回はマオが姑息で助かったよ。まさか、倒したゴブリンから金目の物を取っているとはね」


「ご主人様まで!? わ、我は姑息じゃないのじゃ! 我に対するご主人様の評価を高めるため、手札としてキープしていただけじゃ!」


 などなど、そんな事を言ってくるマオ。

 言い方が姑息だ――そう思うのはゾイの勘違いに違いない。


 さてさて、それはともかく。

 ゾイは先ほどから気になる事があった。


(僕達、周りの客からめちゃくちゃ見られてるよね。考えられる要因としては、やっぱりクレハとマオかな)


 クレハは狐娘。

 マオは魔物――中でも知性があり、人型の魔人だ。


(やっぱりマオかな。人と共存してる魔人も居るとはいえ、かなり個体数が少ないからね)


 失敗した。

 フード付きのローブでも、買えばよかった。

 ゾイがそんな事考えた、まさにその時。


「おい、良い御身分だなガキ……女二人侍らせて、昼間っから酒場で一杯ってわけか?」


 と、そんな声が聞こえてくるのだった。

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