第三十四話 ゾンビはやはり弱かった
時は魔王城を出てから二日目。
場所は街道。
現在。
ゾイ達は、グリモワールの道中にある村を目指していた。
のだが。
「もう嫌じゃぁああああああああああああああああああああ!」
と、聞こえてくるのは、地面に座っているマオの声。
彼女は自らの太ももあたりをパンパン、誰にともなく言ってくる。
「我はもう疲れたのじゃ! 歩きっぱなしで疲れたのじゃぁあああああああ! これ以上、駄狐の信用できない案内に従って歩くのは嫌じゃ!」
駄々っ子マオ。
フリーダムな奴隷もいたものだ。
と、ゾイがそんな事を考えていると。
「マオ……我儘よ。我儘ばかり言っていると、駄目になるわ」
と、マオの頭をぽすぽすクレハ。
マオはそんなクレハの手を跳ね除けると、彼女へと言う。
「駄狐に駄目になるとか言われたくないのじゃ!」
「駄狐じゃないわ……私は優秀な狐よ。だって、ゾイの狐だもの」
「知らんのじゃ! その理論は聞き飽きたのじゃ! っていうか、だったら我もご主人様の奴隷じゃ! つまり我だって優秀じゃ!」
「優秀な奴隷は我儘を言わないわ……マオは我儘を――っ!」
と、不自然に言葉をとぎるクレハ。
直後――。
「ぐぇ……っ」
と、吹っ飛ぶマオ。
クレハが彼女の腹を蹴り飛ばしたのだ。
マオはひとしきり転がった後、クレハへと言う
「ちょっ――この、クソ狐! 言葉で勝てないからって暴力はダメじゃぞ!」
「マオは黙って……っ!」
と、ゾイの方を見てくるクレハ。
そこでゾイはようやく理解する。
先ほどマオが立っていた場所。
そこに弓矢が刺さっていたのだ。
つまり――。
「っ!」
と、考える間もなく飛んでくる矢。
ゾイはそれを何とか躱す。
そして、それが飛んできた方へと視線を向ける。
するとそこに居たのは――。
「なるほど……野生のゴブリンか」
要するに、ゾイの『絶対命令権』の支配下にない個体。
けれどこれはある意味、運がいいと言える。
(『身体強化』スキルに頼らなくても、ある程度戦えるようになりたい――最近そんな事を思ってたところだ)
ゴブリンは強さ的にもちょうどいい。
故に、ゾイはクレハへと言うのだった
「クレハとマオは下がっていて。ここは僕がやる」
それになにより。
こういう時、真っ先に戦うのはリーダーの役目。
「さぁ、僕の力を見せてやる」
●●●
時はあれから数分後。
ゾイは何故か、クレハに膝枕されていた。
「…………」
え、なにこれ。
何が起きた?
今、どういう状況だ?
などなど。
ゾイがそんな事を考えていると。
「ご、ご主人様が起きたのじゃ! で、でも頭に矢が刺さっているのじゃ! そ、それにて、手も! 足も取れているのじゃ! しっかりするのじゃ、ご主人様!」
「ゾイ……ゴブリンは私が倒したわ……だから、もう安心よ」
聞こえてくるマオとクレハの声。
なるほど、なんとなく思い出してきた。
「く、そ……まさか、ゴブリンなんか、に」
ゾイはゴブリンに負けた。
しかもボコボコのボロクソにされたのだ。
けれど、決してゴブリンが強かったわけではない。
ならばなぜ、ゾイは負けたのか。
(僕が弱すぎるんだ。何が僕の力を見せてやるだ……僕はバカか?)
マオを倒して、完全に調子に乗っていた。
ゾンビになっても変わらず、ゾイは底辺冒険者のままなのだから。
「ゾイ……」
スポンッと、ゾイに刺さっている矢を抜いて来るクレハ。
彼女はそのまま、ゾイへと言葉を続けてくる。
「ゾイのことは私が守るわ……私はゾイの物だもの。私がゾイを守る刃になる……だから、ゾイは安心していいわ」
「ず、ずるいのじゃ! 我も、我もゾイの物じゃ!」
と、クレハに続いて言ってくるマオ。
マオとクレハは、順にゾイへと言葉を続けてくる。
「我は弱くなってしまったから、戦えないのじゃ。でも! それでも! ご主人様のために強くなるのじゃ! そこのクソ狐より絶対に強くなるのじゃ!」
「私はクソじゃないわ……それに、ゾイのためというなら……私の方が強くなれるわ」
「な、なんじゃと! 生意気じゃぞ、駄狐め!」
「痛いわ……マオ、叩くのはダメよ」
二人はゾイの身体の血を拭ってくれる。
二人はゾイの身体をくっつけてくれる。
「…………」
ゾイは二人の存在が、とてもありがたかった。
けれど。
(このままじゃだめだ……こんなの、いくら何でも情けなさすぎる)
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