第三十三話 冒険の始まり
さてさて、時はあれから数日後。
現在、ゾイは絶賛旅支度中。
理由は簡単。
アオイの国――グリモワールへと向かい。
その国を崩壊させるためだ。
などなど。
ゾイがそんな事を考えていると。
「ねぇ、ゾイ?」
と、聞こえてくるのはクレハの声。
彼女はベッドにひょこりと座ったまま、ゾイへと言ってくる。
「旅の間、魔王城はどうするの?」
「それは誰に管理させるかってこと?」
「そうよ……帰ってくるかはわからないけど、ゾイの物が好き勝手荒らされるのは許せないわ」
「うーん、そうだな」
ゾイとしてはぶっちゃけ、魔王城はいらない。
理由は簡単。
(この城はあくまで、マオを倒す副産物で手に入れた物)
とはいえ、在って損はしないのも確かだ。
となれば、魔王城はキープ一択――その方法だが。
(魔王城に居る魔物を使うのが、一番らくだよね)
ジョブ 『魔王』のスキルのおかげで、魔物達はなんでも言う事を聞く。
さらに、当然反乱がおこることもない。
要するに完全放置でいいのだ。
無論、懸念事項はある。
万が一、強力な敵が攻めてくれば、魔物では確実に対処しきれない点だ。
だがしかし。
(世間から、魔王はすでに死んだと思われてる――だからこそ、アオイ達は英雄になったんだ)
となれば、今更魔王城へ来る奴が居るとも思えない。
さらにそもそも。
攻め落とされたら、それはそれでいい。
と、ゾイがそれらを順にクレハへ説明した。
まさにその時――。
「こ、これはなんじゃ!」
バンッ!
と、ゾイの寝室へ入ってくるのはマオだ。
彼女は自らの首についた鉄の首輪。
それを指さしながら、クレハへと言う。
「うぬがつけろと脅すからつけてみたものの……つけたら外れなくなったのじゃ! どういう事じゃ! この駄狐め!」
「駄狐じゃないわ。私はゾイの狐よ……ゾイの狐は優秀じゃなきゃいけないの」
「知らんのじゃ! うぬは駄狐以外の何ものでもないのじゃ! 雑魚の癖に我にちょっかいばかりだしおって! 今日という今日は許さないのじゃ!」
言って、マオはなにやら拳に魔力を溜め始める。
次の瞬間。
「跡形もなく消え失せるがいい、この駄狐め!」
言って、マオ様ダッシュ。
きっと彼女、クレハへ魔力が籠った拳をぶつけようとしたに違いない。
だがしかし。
「マオ……情けないわ。この中で一番弱いのはマオよ……だって今のマオ、ジョブを取られてスライムといい勝負だもの」
パシッと。
と、クレハによって、マオの拳は止めらてしまう。
すると。
「うぅ……くぅ」
そのまま泣き始めるマオ。
彼女はゾイの方へ走って来ると――
「びぃぇええええええん! ご主人様ぁああああああああ! クレハが我を虐めるじゃ! 我は最強なんじゃ! 駄狐なんかに本当は負けないんじゃ!」
と、ベッドに飛び乗り、ゾイへと抱き着いて来るマオ。
彼女、ゾイに負けてからというもの、精神がやや幼児退行気味だ。
(はぁ……面倒がって、僕が直接行かなかったのが間違いだったかな)
と、ゾイはそんな事を考えながら、とりあえずマオの背中をなでなで。
そのまま、彼は彼女へと言葉を続ける。
「その首輪は僕がクレハにお願いしたんだよ。マオに付けるようにって」
「なんじゃと……ご主人様が!?」
「まぁ、プレゼントってやつかな」
「ご主人様が我にプレゼントを……卑しい雌奴隷の我にご主人様が――う、嬉しいのじゃ!」
と、すぐに元気いっぱいといった様子になるマオ。
彼女は瞳をキラキラ、ゾイへと言ってくる。
「でも、どうして我に首輪のプレゼントを?」
「ほら、僕たちはもう少ししたら長旅に出るだろ? だから、マオは僕の奴隷だって誰が見てもわかる証拠が必要かな……って、そう考えたんだ」
「ご主人様の奴隷……その証拠……んっ、我、幸せ者じゃ。この首輪、ずっとずっと大切にするのじゃ」
きゅっと。
マオはより強く、ゾイへと抱き着いて来るのだった。
●●●
時は翌日――早朝。
場所は魔王城前。
「ご主人様とおっでかけ~! 楽しみで~! 幸せなっのじゃ~!」
「ゾイとおでかけ……楽しみで、とても幸せよ」
と、ゾイの両側から聞こえてくるのは、マオとクレハの声。
ゾイ達が目指す場所はただ一つ。
英雄アオイが治める国、グリモワール。
こうして晴天の下。
ゾイの復讐の旅は、始まりを告げたのだった。
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