第二十八話 ゾンビは錬金する②

 時はゾイがクレハに頼みごとをしてから、十数分後。

 場所は魔王城一室。


 現在、ゾイは大きな窯の前に立っていた。

 ポコポコ音を立てるその中の液体――それを混ぜながら。


「ぁ~~~~~~~……」


「ぅううううううう~~~~~……」


 と、部屋から聞こえてくるのは、大量のゾンビの声。

 ゾイが何をしているか。

 それは簡単だ。


「ねぇゾイ……ゾイはネクロマンシーをしているの?」


 言ってくるクレハ。

 なるほど、見た目ではそう判断してしまうに違いない。

 ゾイはそんな事を考えたのち、クレハへと言う。


「さっきクレハに言ったでしょ? 僕は錬金術でマオの薬を作るって。だからクレハに伝言をお願いしたんだよ――『部下にお願いして、必要な物を集めて欲しい』って」


「お願いされたわ……」


 狐耳をぴこぴこ言ってくるクレハ。

 彼女はゾイへと、言葉を続けてくる。


「でもゾイ……さっきからゾンビの皮膚を切ったり、血を抜いたり……解剖したり……ネクロマンサーみたいなことばかりしているわ」


「まぁ、そう言われるとそうなんだけど」


 そういえばゾイ。

 クレハに頼むだけ頼んで、ゾイがすることの詳細を教えていなかった。


 などなど。

 ゾイはそんな事を考えながら、クレハへと言う。


「今、僕はゾンビ化がどうやって起きるのかついて、調べてるんだよ」


「ゾンビ化がどうやって起きるのか……簡単だわ、ゾイが噛みつくと起きるのよ」


「うん、まぁクレハの言う通りなんだけど。でもどうして、僕が――というより、ゾンビに噛みつかれるとゾンビになるんだと思う?」


「それは……」


 ぺこりと、困った様子のクレハ。

 彼女はそのまま、ゾイへと言ってくる。


「わからないわ……でも、一つわかったわ。ゾイはそれを調べているのね?」


「そう。僕は今ゾンビを弄って、それを調べている。その仕組みさえわかれば、ゾンビ化をどうにかする薬を作れるはずなんだ……そして」


 言って、ゾイは注射器を自らの腕に刺す。

 そして、彼はそこから血を抜きながら、クレハへと言葉を続ける。


「それを調べる過程で、本当に欲しかった答えはすでに得た。考えてみれば簡単なことだったんだ」


「……?」


「自分でも時々忘れそうになるけど、僕だってゾンビ――本質的にはそこで徘徊してるゾンビと同じだ」


 ならば、どうしてゾイは意識があるのか。

 どうして生きている人間のような身体を保てるのか。

 簡単だ。


「マオは僕にこう言ったことがあるんだ――僕自身の魔力を使えば、身体をどうにか出来るって」


 けれど、ゾイは特別な魔力など生前持っていなかった。

 となれば、答えは一つ。


「始祖ゾンビの魔力が特別なんじゃないかなって、僕はそう思ったんだ」


「つまり、始祖ゾンビであるゾイの魔力があれば……意識と肉体を保ったゾンビができる?」


 と、ひょこりと首を傾げてくるクレハ。

 ゾイはそんな彼女へと言う。


「うん、簡潔に言うならそういうこと」


「やっぱりゾイは凄いわ……だってゾイ、他のゾンビと違って臭くないもの」


「は、判断基準そこなんだ」


「?」


 ひょこりと、再び首を傾げているクレハ。

 ゾイはそんな彼女を撫でたのち。


「……さて」


 言って、注射器の中身を見る。

 そこに入っているのは、当然ゾイの血液。

 そして、古来より血液には多くの魔力が含まれているという。


 であるならば。

 この血液を素材に錬金すれば、きっとゾンビ化への対抗薬ができる。


 ゾイはそんな事を考えた後、窯の中へと血を垂らし。

 錬金を開始する。


(問題は調子に乗って窯をでかくし過ぎたことだな。これじゃすごい量の薬ができそうな気がする。でも、まぁあって損はないか……それに)


 と、ゾイは窯を混ぜ混ぜ、自らのステータスを見る。

 それはゾイが元から持っているジョブ 『荷物持ち』についてだ。

 そこに書いてあるのは。


●スキル『収納』

 ▴リュック、ポケットなどの容量を広げる。

 ▴収納する際に物を圧縮することできる――取り出す際にもとに戻る。

 ▴収納した物の時間は止まる。


「ふっ……荷物持ち舐めんな」

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