第二十五話 ゾンビは魔王なる
「…………」
時はゾイがマオを倒してからすぐ。
場所は変わらず玉座の間。
現在。
ゾイは気絶し、倒れたマオを見つめていた。
(あれだけ偉ぶってたくせに、一皮むいたらこの程度か)
いくらなんでも、一撃で終るとは思わなかった。
歯ごたえがなさすぎるとはこのことに違いない。
けれど。
「これから、楽しませてもらうぞマオ……惨めな奴隷にしてやるから、楽しみに待っていてくれよ」
と、ゾイがマオに手を伸ばそうとした。
まさにその時。
「終わったの……?」
聞こえてくるクレハの声。
ゾイがそちらを見てみると、いつのまにやらそこに居るクレハ。
彼女はゾイへと言葉を続けてくる。
「やっぱり……ゾイは勝ったわ」
「いや、勝ったというか……僕の事はどうでもいいんだけど。どうしてクレハがここにいるの?」
「ここに居るからよ?」
「えっと、それはわかってるんだけど。なんていうか、危ないから魔王城から離れるようにいったよね?」
クレハはどうみても満身創痍。
咄嗟の事態から逃れる体力はないに違いない。
だからこそ、ゾイはああいう指示をしたのに――。
「私はゾイを信じているもの……何があっても守ってくれるって」
と、ゾイの思考を断ち切るように聞こえてくるクレハの声。
彼女は狐尻尾をふりふり、ゾイへと言ってくる。
「だから、離れる必要なんてないわ」
「…………」
「?……ゾイはどうして、私の頭を撫でているの?」
と、ひょこりと首を傾げてくるクレハ。
そんな彼女を見ていると、癒されるから不思議だ。
と、ゾイがそんな事を考えていると。
突如、玉座の間に雪崩れ込んで来る魔物達。
当然のことだ。
(マオを倒すときにかなりでかい音たてたし、そりゃいくら何でも気づくよな……さて、どうやってこの場を凌ぐかが問題なんだけど)
『身体強化》』スキルは、もう秒読み状態
戦闘中に効果がなくなる可能性が高い。
となれば――。
「ゾイ……私が囮になるわ。ゾイに助けられた私の命はあなたのものよ……今ここで使うわ」
と、そんな事を言ってくるクレハ。
ハッキリ言って、論外すぎる。
ゾイはもう二度と、仲間に裏切られ見捨てられるのは嫌だ。
けれど。
(僕も仲間を裏切ったり、見捨てたりもしない)
故にゾイはクレハを無視。
全力で対処法を探す。
ゾイの中での希望。
それは先ほど、マオから奪ったジョブ『魔王』だ。
(マオは魔物達の王――多くの魔物を従わせていた)
ならば、そういったスキルがあるに違いない。
でなければ、あんなカリスマ性の欠片もないクズが魔物を従わせられるわけがない。
探す。
探す探す。
探し続ける。
時にして十秒未満。
魔物が今にもゾイ達に襲いかかりそうな間際。
ゾイは見つける。
「なんだよマオ様……ゴブリンに言葉が通じなかったからどうとか、やっぱり全部うそじゃないか」
●スキル 『絶対命令権(魔)』
▴このスキルは魔物のみに使える。
▴このスキルを使用された対象は、このスキルの使用者の命令を聞くようになる。
▴知能が高い魔物には通用しない事がある。
『身体強化』スキルも限界が近い。
ゾイは即座に手を翳し、魔物達へと言う。
「よく聞くがいい、マオはたった今この僕に負けた」
言って、ゾイはスキル 『絶対命令権(魔)』を発動。
そして――
「覚えておけ、今日からこの僕こそがお前達の主――魔王だ」
この日この時。
荷物持ちの少年からゾンビになったゾイ。
彼は魔王になったのだった。
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