第二十三話 ゾンビは魔王へ挑む

 時あれからすぐ。

 場所は玉座の間。


「おぉ、ゾイではないか。何をしに来たのじゃ? 特にうぬを呼んだ覚えはないが」


 と、楽しそうな様子で言ってくるのはマオだ。

 彼女はそのまま、ゾイへと言葉を続けてくる。


「何をしに来た……と、我が言っているのが聞こえないのか?」


「魔物を統べる者、魔物の中で最強の存在――それが魔王。だったら、お前は魔王とは呼べないんじゃないか?」


「なんじゃと?」


 と、一転不快そうな表情になるマオ。

 彼女はゾイへと言ってくる。


「ゾイよ、うぬは何か勘違いをしていないかの?」


「勘違い?」


「うぬは我のお気に入り、故に少しうぬを傷つけることはあっても、殺すことはない――つまり、自分は我に殺されないと、そう考えているのではないか?」


「ははっ……確かに! たしかにそれは勘違いだよ、マオ! 殺されないのをいい事に、僕がお前に悪口を言いに来た――そう思ったのか?」


 どうやらマオ。

 ゾイの想像以上に、バカに違いない。

 となれば、よりストレートに用件を伝える伝える必要がある。


「僕の要件はお前を潰すことだよ、マオ。お前はやりす――」


 直後、腹に感じる違和感。

 見れば、マオの腕がゾイの腹へと突き刺さっていた。

 そして、そんな彼女はゾイへと言ってくる。


「お前はやり過ぎた……それはこちらの台詞じゃ」


 と、ゾイへともう片方の手を翳してくるマオ。

 そこに集まるのはどす黒い魔力塊。

 彼女はなんらかの、高威力魔法を放とうとしているに違いない。


 ゾイは思わずため息をつく。

 マオは本当に残念なやつだ。

 というのも――。


「なぁマオ……お前は分からないのか? 僕達の間にある……決して縮まらない力の差ってやつが?」


 言って、ゾイは翳されているマオの手。

 それを全力でひねり上げる。

 同時。


 ゴキッ。


 と、鳴り響く異音。

 マオの腕――その骨が折れた音だ。


「っ……なん、じゃと?」


 と、驚いた様子のマオ。

 きっと、ゾンビ程度に腕力で負けるとは……ましてや、身体を傷つけられるとは思わなかったに違いない。


 などなど。

 考えている間にもマオは言葉を続けてくる。


「ち、調子にのるでない!」


 と、マオはゾイが掴んでいる手を切断。

 同時、バックステップをしながら、もう片方の手をゾイへと向けてくる。


 当然、マオのその手に集まっているのは、先ほどと同じ強大な魔力。

 彼女はそのままゾイへと言ってくる。


「ふん、せっかく我が可愛がってやったというのに! つまらん、これで終いじゃ! 我の前から消え失せろ!」


 同時放たれたのは極大な力。

 きっと、並大抵のものならば、塵すら残さず消え失せる極光。


 だが所詮はその程度。

 これで魔王と呼ばれるならば。

 本当に魔王と呼ばれるべきなのは。


「お前は終わりだ――これからは僕が魔王になる」


 言って、ゾイは力をこめる。

 そうこうしている間にも。


 迫る黒き極光。

 呑み込まれれば消滅すること必至。


 ゾイはそんな極光めがけ。


 全力で拳を繰り出した。

 これまでの恨みを全てのせ、ただただ殴りつけた。


 直後、巻き起こったのは雷鳴のような音。

 嵐のような風。


 ゾイの攻撃で起きたそれは、いともたやすく極光を消し去る。

 さらに。


「ひっ……ぅ」


 と、そんなマオの横をかすめ。

 彼女の背後――玉座の間の壁に、大穴を空けるのだった。

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