第二十二話 覇王の胎動③

「ゾイ……やっぱり、来てくれたわ。きっと、来てくれるって、思ってた」


 と、壊れそうな笑顔を向けてくるクレハ。

 ゾイはそれを見ると同時、完全に理解した。


 マオは敵だ。


 マオはたしかに恩人。

 彼女がいなければ、ゾイは力を手に入れることはできなかった。

 しかし。


(僕を不快にさせる奴は……僕の邪魔をする奴はみんな敵だ)


 許せない。

 許さない。


(僕を傷つける奴も、僕の大切な物を傷つける奴も、僕の事が嫌いな奴も、僕の大切な物を嫌いなやつも……みんな敵だ)


 倒して壊しつくす。

 それまで絶対に立ち止まらない。

 躊躇なんてしない。


(僕はもう二度と間違わない)


 ゾイはそんな事を考えたのち。

 クレハへと言う。


「この城から、離れることは出来る? どうにか……自分の力で、逃げ出すことは出来る?」


「できる、わ……ゾイがそう望むのなら、私はどんなことだってするもの」


 と、本当になんとかといった様子で、立ち上がるクレハ。

 そんな彼女は息荒く、ゾイへと言葉を続けてくる。


「ゾイは一緒に来ないの?」


「一緒には行かない。でも、すぐにまた一緒になれる」


「……?」


「僕は今からマオを倒す。倒して、この城を僕の物にする。たぶん大きな戦いになるから、クレハには避難していて欲しんだ」


「…………」


 と、ゾイの方をジッと見つめてくるクレハ。

 彼女はそのまま、ゾイへと言葉を続けてくる。


「ゾイは勝てるわ」


「勝つよ、クレハのためにも……僕のためにもね」


 言って、ゾイは歩き出す。

 自らの障害となる者――魔王マオを倒すために」


(マオは僕を助けてくれた? ちがう、あいつは僕を利用したかっただけだ。でも、僕に利用価値がなかったから玩具することにした……そんなクソ野郎は死ね)


 障害。

 ゴミクズ。

 汚物。


「あぁ、そうだ……すぐ排除しないと、あいつは調子に乗り過ぎてる」


 しかし残念だ。

 本当ならば、ゆっくり攻め落としたいところ。

 けれど、こうなってはそれは無理だ。


 魔王城は敵だらけ。

 となれば、マオがどんな反撃に出てくるかわからない。

 魔物を総動員されれば、クレハを守り切る自信がない。


 故に即潰す。


「いたぶって、散々恐怖を与えてから倒すのはアオイ達まで我慢……潰す過程を楽しめないのは残念だけど、マオは潰してから楽しませてもらおう」


 まぁ、正直ゾイ。

 心配はしていない。


 きっと、マオには確実に勝てる。

 なぜならば、ゾイには『身体強化』のスキルがある。

 今、それを使えばきっと面白いことなるに違いない。


「マオ……お前は僕に色々やり過ぎたんだよ」


 言って、ゾイは玉座の間。

 そこへ通じる扉へと、手を触れるのだった。

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