第二十一話 覇王の胎動②

 ゾイはどれくらい突っ立っていたのか。

 気がつくと、マオはいなくなっていた。


「…………」


 いずれにしろ、このままでは駄目だ。

 クレハのところに行かなければ。


 ゾイはそんな事を考えたのち、ゆっくりと歩き出す。

 すると。


 出口への道中。

 ゾイを拷問したゴブリン達と、何度もすれ違う。


 奴等はマオに改めて説明され、ゾイを仲間と認めたに違いない。

 すれ違う度、笑いながら頭を下げてくる。


 死ね。


 こいつら何考えてんだ。

 土下座して謝れよ。


 死ね死ね死ね死ね。

 許せない許せない許せない。


 だが、ゾイが本当に許せないのは。

 ゾイ自身だ。


 アオイ達に裏切られて、決めたではないか。

 もう二度と仲間は信頼しないと。


 にもかかわらず。

 ちょっと助けられただけで、マオの事を心の底から信頼してしまった。

 いや、ゾイはきっと信頼したかったのだ。


(わかってる。本当は……アオイ達に裏切られて、寂しかった。僕はとても悲しかったんだ)


 だから、ゾイは産まれたばかりのヒナのように、信頼できる人を求めてしまった。

 それが全ての間違いだった。


(マオのことは、よく考えずに無条件で信頼してしまった。クレハのように、自分で考えて仲間にしたわけじゃない)


 だから、より一層ムカつく。

 ゾイ自身の惰弱で貧弱で、すっからかんな脳みそを。

 殺してやりたい。


 …………。

 ………………。

 ……………………。


 再び気がつくと、ゾイは魔王城一角。

 拷問室の扉の前に立っていた。


「…………」


 この扉を開くのが怖い、。

 なぜならば。


(この扉の先にあるのは、僕の失敗の結果だ)


 けれど、開かなければならない。

 この先には、きっとクレハが助けを待っているのだから。


「…………」


 ゾイはそんな事を考えたのち、ゆっくりと扉を開く。

 瞬間。


 真っ先に感じたのは、鼻を突くような淫靡な香り。

 モワっと、押し寄せて来る湿気。


 そうして、ゾイは見てしまう。

 部屋の中央――そこに倒れている、クレハの姿を。


「っ!」


 ゾイは弾かれる様に、そんなクレハへとかけよる。

 そしてゾイは、クレハを抱き起し彼女へと言う。


「クレハ! クレハ、しっかり!」


 ゾイがいない間、クレハはいったい何をされたのか。

 何をされればここまで憔悴しきるのか。


(これが、結果か……僕が間違えた代償)


 なんでだ。

 どうせなら、代償はゾイに払わせてほしかった。

 大切な仲間を……クレハを傷つけるのだけはどうか――。


「ゾ、イ……?」


 と、ふいに聞こえてくるクレハの声。

 彼女は触れれば壊れそう笑顔で、ゾイへと言ってくるのだった。



「ゾイ……やっぱり、来てくれたわ。きっと、来てくれるって、思ってた」

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