第十九話 狐は魔王に罰を受けてみる

 時はゾイがゴブリン洞窟に行ってから、ちょうど一週間。

 場所は拷問室。


 現在。

 クレハはそこの床にへたり込んでいた。

 無論そうしたくて、しているわけではない。


「どうじゃ? 力が出ないじゃろう? そういう魔法をかけたからの……まぁ当然じゃ」


 と、言ってくるのはマオだ。

 彼女は嗜虐的な様子の笑みを浮かべ、クレハへと言葉を続けてくる。


「くはは……なにを睨んでいるのじゃ?」


「…………」


「まったく躾がなっていない――もっともそれは、うぬの主も変わらぬか。なんせゾイのやつ、もう一週間も帰ってきていない……きっと、脱走したに――」


「ゾイは……そんなことしないわ」


「ほぉ~う」


 と、ニヤニヤしてくるマオ。

 そんな彼女はクレハへと言葉を続けてくる。


「なんにせよ、奴は我を不快にさせたのじゃ。そして、主の罪はペットの罪――すなわち、うぬの罪じゃと思わんかの?」


「勝手に不快になればいい……私はあなたが不快になっていると、とても嬉しいわ」


「駄狐が……我に生意気な口を利いたこと、後悔させてやるのじゃ」


 言って、クレハの方へと手を翳してくるマオ。

 それと同時、互いの間の地面――そこに浮かび上がったのは大きな魔法陣だ。


 いったいこれは何なのか。

 クレハはそんな事を考えるが、その答えはすぐにも分かることになる。


 なんと、巨大な肉塊が召喚されたのだ。

 薄黒いピンク色をし、猛烈な悪臭を放つ粘液を撒き散らすその肉塊。

 それが、クレハの方へ無数の触手を伸ばしてきたのだ。


「……っ!」


 クレハは逃げようとするが、手足に殆ど力が入らない。

 それでも、彼女はなんとか地面を這いつくばり、触手と反対側へ――。


 グンッ!


 と、突如後ろへと引き戻される身体。

 見れば、クレハの足にはグロテスクな触手が巻き付いていた。


「あ~あ~、残念じゃのう。つかまってしまったのぉ……さてさて」


 と、聞こえてくるマオの声。

 彼女はご機嫌といった様子で、クレハへと言葉を続けてくる。


「我はここに座って、見ていてやるのじゃ。せいぜい、その触手に遊んでもらうがいいのじゃ――あぁ、もしも助けて欲しければ『マオ様どうかお助け――」


「あなたみたいな人に……私は屈しないわ」


「くはっ! いい加減だまれ、駄狐が」


 と、なにやら再び手を翳してくるマオ。

 その途端、クレハの身体に決定的な変化が起きた


 体中の力が、完全に入らなくなってしまったのだ。


 クレハがそれを認識したのとほぼ同時。

 凄まじい速度で引きずられる彼女の身体。

 そして――。


「っ……」


 クレハが言葉を言うよりも先に、無数の触手がその身体へと襲いかかってくるのだった。

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