第十七話 ゾンビは胸を借りる

 時はあれから数時間後。

 現在、ゾイはゴブリンの洞窟傍へとやってきていた。

 その理由は簡単だ。


(今回はゴブリン達に胸を借りる形になる……でも、大丈夫なのかな)


 ゾイはアオイ達と冒険している時、何度もゴブリンと遭遇した。

 それだけでなく、様々な人々からその悪評を聞いた。

 すなわち。


 ゴブリンは凶暴。

 魔物同士であっても、平気で襲い――欲しい物を奪い取る輩。

 さらに、楽しみのためだけに、人や魔物を痛めつけることもあるという。


(きっと、マオ様がそういうところ――話を通しておいてくれたんだろうな)


 などなど。

 ゾイがそんな事を考え、洞窟への一歩をさらに踏み出した。

 まさにその時。


「ギィ! ギッ! ギゴ! ギギー!?」


 聞こえてくるゴブリンの声。

 見れば、ゾイに気がついたに違いないゴブリン。

 奴等が洞窟の前から、ゾイを威嚇していきてた。


(お、おちつけ僕……きっと大丈夫だ。ゴブリンは縄張り意識が強いから、ああいう行動に出ているだけだ)


 今大切なのは、ゴブリンに伝えることだ。

 ゾイこそが『マオから紹介のあった訓練してほしい相手』だと。

 などなど、ゾイがそんな事を考えていると。


「ギ? ギギ!」


「ギゴ? ゴギギ?」


 と、そんなゴブリン達。

 いつの間にやらゾイ、武器を持った彼等に取り囲まれていた。

 だがしかし。


 ゾイはもう慌てない。


 ゾイにはわかるのだ。

 ゴブリン達は、仲間同士できっとこう会話しているに違いない。


「だれこいつ? なんでゾンビが来たの?」


「わかんね。あれじゃね? マオ様が言ってた奴じゃね?」


「でも妖しいから、名乗るまでは一応取り囲んでおこうぜ」


「オッケー」


 間違いない。

 ゴブリンは確実にこう言っている。


(よし、じゃあもうやることは決まってるな)


 それは挨拶だ。

 ゴブリンはプライドがものすごく高いという。


 ここで彼等を刺激し、怒らせてしまえば。

 マオの面子をも潰すことになってしまう。

 ゾイはそんな事を考えたのち。


「は、初めまして……ゾイといいます」


 なるべく頭を低く。

 なるべく丁寧に、ゴブリン達へと言葉を続ける。


「このたびはマオ様の紹介でゴブリ――」


 と、ゾイの言葉を断ち切る様に感じる胸の違和感。

 気がつけば、ゾイの胸には槍が刺さっていた。


「……へ?」


 なにが起きているのか。

 ゾイが考える間もなく、ゾイには更に複数の武器が突き立てられるのだった。

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