第十五話 ゾンビと狐

 時は翌朝。

 場所はゾイにあてがわれた寝室。


 なでなで。

 なでなでなで。


 気がつくと、ゾイは誰かに頭を撫でられていた。

 いったい何者なのか。

 ゾイがそんなことを考えたのち、ゆっくりと目を開けると、そこにいたのは——。


「ゾイが起きたわ」


 と、言ってくるのはクレハだ。

 彼女はゾイの真横にぴょこりと座り、彼へと言葉を続けてくる。


「なでなで……痛いの痛いの飛んでけー」


「…………」


「痛いの痛いの……飛んで行った?」


「えっと……クレハは何をやっているの?」


「なでているわ」


 と、言ってくるクレハ。

 彼女はひょこりと首をかしげ、ゾイへと言葉を続けてくる。


「ゾイをなでているのよ」


「……なんで、クレハは僕をなでてるの?」


「痛いところがあったらこうやって……痛いの痛いの飛んでけーってするの。そうすると、痛いのが飛んでいくのよ……お母さんが言っていたわ」


「…………」


 なるほど。

 きっとクレハは、昨日のゾイに何があったのか。

 それを知っているに違ない。


(たしかに昨日は色々あったけど、僕はゾンビ……もうマオ様に潰されたものも治ってるし、痛みもなにもな――)


「ゾイは虐められているの?」


 と、言ってくるクレハ。

 彼女は真剣な様子で、ゾイへと言葉を続けてくる。


「マオはゾイの敵? それとも味方?」


「マオ様は……僕の恩人だよ」


「恩人だからゾイに酷いことをするの?」


 ちがう。

 昨日のあれはゾイが悪かったのだ。


(きっとマオ様は、ダメな僕をどうにかするために、イヤイヤああいうことをしてくれたんだ)


 だからゾイは、別に酷い事をされたわけではない。

 マオも当然、酷い奴ではな――。


「どんなにゾイが悪くても、私はゾイの味方よ……ゾイを虐める人は許さないわ」


 と、ゾイの思考を断ち切るように聞こえてくるクレハの声。

 同時。


 はぐっ。


 と、包まれるゾイの頭。

 クレハがゾイの頭を抱きしめてくれたのだ。


「……」


 まだ大丈夫だ。

 ゾイはまだやれる。


 クレハが居てくれるのなら、ゾイはまだまだ進める。

 

 などなど。

 ゾイはそんなことを考えたのち、クレハへと身を委ねるのだった。

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