第十二話 ゾンビと初めての仲間

 時はあれから数時間後。

 場所は村の中央――噴水広場。


「ぅうううぅ~~~~~~~~」


「あぁあ~~~~~~~~」


 と、聞こえてくるのは大量のゾンビの声。

 現在ゾイはそんな中、一人その広場のベンチへと座っていた。


「場所が場所だから、目ぼしいジョブは手に入れられなかったな……」


 と、ゾイは改めて意識を集中。

 すると見えてくるのは。


●ジョブ

『荷物持ち』『錬金術師』『商人』『※剣士』『※槍使い』『※格闘家』


「戦闘系のジョブで手に入った二つ。『槍使い』と『格闘家』は、スキル『身体強化』を使っている時しか使えない。そうなると、通常時でも使えるのは二つだけか」


 ゾイとしては、もう少し通常時でも使える戦闘系ジョブが欲しい。

 でなければ、またボコボコにされかねない。


「でも『商人』はともかく、『錬金術師』のジョブが手に入ったのは、かなり儲けもの――」


 いや待て。

 と、ゾイはここでとある事に気がついてしまう。

 それは。


「資金に困るようなことがあれば、『錬金術師』で作ったものを『商人』で売るということもできるはず」


 これは案外、良い組み合わせに違いない。

 まぁ、詳しくはおいおい研究だ。


      ●●●


 ジョブを確認した後。

 現在、ゾイは牢屋へと戻ってきていた。

 理由は一つ。


「おまたせ」


「ゾイ……戻ってきたのね」


 と、言ってくるクレハ。

 彼女は狐耳をピコピコ、ゾイへと言葉を続けてくる。


「血の匂いがするわ……ゾイ、怪我をしたの?」


「いや、別に怪我をしたわけじゃないよ。僕は、だけど」


「?」


 ひょこりと首をかしげるクレハ。

 ゾイはそんな彼女へと言う。


「村人を全員殺した……だから、この血の匂いは僕のじゃない」


「そう……ありがとう」


 と、ゾイの想像とはやや異なるクレハの言葉。

 てっきり、怖がられると思ったのだが。

 などなど、考えている間にも


「ゾイは私の両親の敵を討ってくれたのね……それに、それを伝えるために、わざわざ戻ってきてくれた……ゾイは優しいわ」


 と、狐尻尾をふりふり言ってくるクレハ。

 ゾイはそんな彼女へと言う。


「優しい……って、僕が?」


「えぇ、ゾイはとっても優しいわ」


「残念だけど、それは間違いだよ――僕は優しくなんてない。村の人たちを殺したのも、自分自身の目的のためっていうのが大きい」


 だからこれもついでだ。

 と、ゾイはクレハの鎖を断ち切る。

 すると。


「ゾイ……今度は助けてくれたわ」


 言ってくる、クレハ。

 ゾイはここで、いい加減思っていたことを彼女へと聞く。


「クレハはさ、僕が怖くないの?」


「怖い? どうして?」


「いやだって、僕は人間じゃないんだよ? クレハの前で人も喰ったし、この村を一人で滅ぼしたんだよ?」


「ゾイが人間じゃないのと、ゾイが優しいのは関係ないわ」


「…………」


 なんだか、調子が狂う。

 きっと、クレハとあまりかかわるのはよろしくない。


「まぁ、あとは自由に生きなよ。もう誰も、クレハを縛る奴はいないから」


 言って、ゾイは歩き出す。

 まずは魔王城へ――。


 グイッ。


 と、引かれるゾイの手。

 見れば。


「えっと、何してるのクレハ?」


「? ゾイの手を掴んでいるわ」


 と、無表情のクレハさん。

 ゾイはそんな彼女へと言う。


「だから……なんで、僕の手を掴んでいるの?」


「ゾイ……私の命はもうゾイのものよ」


「え?」


「私の目的はゾイが叶えてくれた……私に目的はもうないわ……だから、私の命はゾイにあげるわ」


 ぴこぴこ。

 と、狐耳を動かしているクレハ。

 

 これはつまりあれだろうか。

 ゾイは確認の意味を込めて、クレハへと言う。


「クレハ。ひょっとして、僕の仲間になりたいの?」


「ゾイの奴隷になろうと思ったわ……でも、仲間にしてくれるのなら……もっと、嬉しいかもしれないわ」


「…………」


 仲間。

 真っ先に浮かぶのはアオイとネイカ、そしてライヒの姿だ。


 故に仲間は信用できない。

 もう二度と作らないと思っていた。

 けれど。


(クレハはこの世界から虐げられている――僕の敵である三人が作ったこの世界から)


 つまり、この世界に適応できていないのだ。

 であるならば、クレハは信用できる……かもしれない。

 などなど、考えていたその時。


「ゾイ……私、ゾイの狐になりたいわ」


 言って、ゾイへと抱き着いて来るクレハ。

 ゾイはそんな彼女をなでなで、一人思うのだった。


(なんだか捨て猫に懐かれた気分だ……マオ様になんて報告しよう)

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