第十一話 ゾンビは村を制圧する④

「ば、化け物だ!」


「来てる来てる来てる! はやく、逃げろ!」


 と、聞こえてくる村人達の声。

 さてさて、時はあれから数分後。

 現在。


「逃げろ……もっと逃げてみろ!」


 と、ゾイは近くにいた少女を引き倒す。

 そして、即座にその首へと噛みつく。


(うまい……うまい! 口に広がるジューシーな感覚、体に力が満ちて行く感覚がある!)


 などなど。

 ゾイがそんな事を考えていると。


「ど、う……して?」


 聞こえてくるのは、ゾイが噛みついている少女の声。

 まさかこの少女――。


 自分がどうしてこんな目に合うのか。

 それをゾイに問うているのか?


 アホすぎる。

 そんなのは決まりきっているのだから。

 それすなわち。

 

 アオイたちが作った世界で幸せに暮らしている。

 

 ゾイにとって、そんな人間は敵だ。

 全員滅茶苦茶にしてやりたい。


「だから死ね……」


 言って、ゾイは再び少女へと噛みつく。

 そして、その息の根を止める。


「まだだ……まだ終わらない。もうかなりの数を殺したけど、獲物は残って――?」


 腹に感じる違和感。

 見れば、ゾイのそこからは剣が生えていた。


「なんだこれ?」


 ゾイは刺さった剣を腹側から掴み、そのまま一気に引き抜く。

 そして、それを放り投げた後、背後を振り返る。

 するとそこに居たのは――。


「ば、化け物! この化け物……よくも、よくも儂等の村を!」


 あの錬金術師だ。

 彼はゾイへと言葉を続けてくる。


「平和な村をこんなにして……平和に暮らしていた儂等をこんなにして、何が楽しい! 何が嬉しい!」


「は? おまえ何言ってんだ――自分達がいかにも、善良に暮らしてますって感じだけど」


「そうだ! 儂等は善良だ! 少なくとも貴様と違って!」


 と、泣きながら言ってくる錬金術師。

 これはあれか?


(こいつ……僕にあれだけの事をしたのに、善良な村人を名乗るつもりなのか?)


 やばい。

 価値観が違い過ぎて、それ以外の感想が出てこない。

 きっと、こいつとは話すだけ無駄だ。


 だから地獄に落ちろ。

 苦しめ。


 ゾイはそんな事を考えたのち。

 錬金術師の口元を、やや力を込めて掴む。

 すると。


「ん、もが……ひぅっ。た、助け……ごめんなさ、ごめんなさい! もごがっ……た、助け……あ、あやまる、もご……儂が悪かった、だから……は、話し合いをっ」


 さっきの威勢はどこへやら。

 しょうべん漏らしながら、そんな事を言ってくる錬金術師。

 ゾイはそんな彼へと言う。


「僕が話し合ってもいいと思うのは、この世界から――アオイ達の世界から虐げられている人だけだ」


 こいつは違う。

 どう考えても、こいつは虐げる側。

 すなわち。


「おまえはさ……俺の敵だろ?」


 言って、ゾイは錬金術師の口元を掴んでいる方。

 そちらの手に、全力で力を込める。


「ぴぎゅ!?」


 聞こえてきたのは、そんな錬金術師の声。

 同時、彼の目はデメキンの様に飛び出し、顎は粉々に砕け散る。

 だがしかし。


 まだ生きている。

 いや、そうでなければ困る。


「ひゅ……ひゅ……」

 

 と、妙な呼吸音をあげる錬金術師。

 ゾイはそんな彼にとある感情を抱く。


「……ばれ。そう、だ……頑張れ! 頑張れ! 頑張ってもっと生きろ! 僕は応援してる! 頑張れぇえええええええええええええええ!」


 そして、ゾイは作業を開始する。

 まずは剣で、錬金術師の胸と腹を裂く。

 続けて肋骨を一本一本折っていき――。


「あれ、まだお腹の中をかき混ぜるのが残ってたんだけど……」


 なんと、錬金術師さん。

 死んでしまわれた。


「つまらないな……でも、お前もしっかり僕の糧にしてやる」


 言って、ゾイは錬金術師の死体。

 それへと噛みつくのだった。

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