第十話 ゾンビは村を制圧する③

「誰か……居るの?」


 と、聞こえてくる声。

 ゾイはその声の方向――向かいの牢へと目を向ける。

 するとそこに居たのは。


 狐娘だ

 狐色ミディアムロングの髪、それと同色の美しい瞳。

 発育のいい身体を、黒を基調とした忍服で隠しているその姿。


 そんな彼女が、腕を鎖で縛られ天井から吊るされているのだ。

 などなど、ゾイが少女をぽけっと見ていると。


「どうして……こちらを見ているの?」


 と、聞こえてくるそんな少女の声。

 彼女はひょこりと首を傾げながら、ゾイへと言葉を続けてくる。


「あなた、拷問されていたわ……まだ、痛いの?」


「痛くは、ない。拷問されてるときは痛かったけど、もう治ったよ」


「そう……よかったわ」


「…………」


「…………」


 どうやらこの少女。

 もう話したい事がなくなったに違いない。

 だがしかし、ゾイの方には聞きたいことがある。


「君は、どうしてこんなところに居るの?」


「捕まったからよ」


 と、無表情で言ってくる少女。

 彼女は狐耳をピコリと動かした後、ゾイへと言ってくる。


「両親をこの村の住民に殺されたの……だから、かたき討ちするつもりで来たの。だけど……返り討ちにあって捕まったわ。だから今は奴隷……この村の人たちから殴られたり蹴られたり……身体を滅茶苦茶にされたり」


「それは……辛くないの?」


「もう慣れたわ」


「…………」


「…………」


 気まずい。

 別にゾイ、この少女と話す必要はないのだが。

 なんだがもやもやするのだ。


 とりあえず、こういう場合は。

 と、ゾイはその少女へと言う。


「僕はゾイ。君の名前は?」


「私はクレハ……私の名前はクレハよ、ゾイ」


「そう。とっても綺麗で、キミにピッタリな――」


「おうこら、夜にでけぇ声で話ししてんじゃねぇぞ!」


 と、ゾイの言葉を断ち切る様に聞こえてくる門番の声。

 いったいいつから、居たのやら。


 門番は壁から鍵を取り、ゾイの牢へと入ってくる。

 そして、彼はゾイの方へと近づいて来ると。


「怒られたら謝れよ、このボケがぁ!」


「ぐふっ」


 門番がパンチを繰り出して来たのだ。

 当然、ゾイへとそれは直撃。

 しかも。


「ぐっ……がっ!」


 門番はさらに続けて、ゾイの顔面を殴って来る。

「賭けで負けだ」だの「どうして俺が」だの喚き散らしながら


「ごっ……がぁ」


 拳が顔面にめり込む感覚。

 眼球が破裂する感覚。

 鼻が砕ける感覚。

 歯が折れる感覚。


 メキメキ。

 めきょきょ。

 ぶちゅぶちゅ。

 

 なんだかゾイ、あんまり痛みを感じなくなってきた。

 というか、意識が朦朧と――。


「やめて……ゾイを虐めないで」


 と、ゾイの思考を断ち切るように聞こえてくるクレハの声。

 同時、門番による暴力がピタリと止まる。


(クレハが止めてくれたのは、ありがたい……けど、どう考えても失策……かな)


 このタイミングで、彼女がそんな事をすればどうなるか。

 そんなのわかりきっている。


「あぁ? 人様に指図してんじゃねぇぞてめぇ!」


 と、クレハの方へと向きなおる門番。

 彼は舌を鳴らしたのち、そのまま彼女の方へと歩いて行く。

 きっと、ゾイの代わりにクレハを殴ろうとしているに違いない。


 だから。


 ゾイは油断しまくっている門番。

 そんな彼の首を、背後から噛み千切ってやった。


「え、あ? ぎゃぁああああああああああああああああああああああああ!」


 と、首から噴水出しながらぶっ倒れる門番。

 ゾイはそんな彼へと言う。


「油断し過ぎだろ……死ねよ、バカ」


 ゾイは門番へと覆いかぶさる。

 そして――。


「いただきます」


 門番へと噛みつく。

 同時。


「あ、ぎぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」


 と、聞こえてくる門番の声。

 だが無視だ。


 ゾイはひたすらに、門番へと噛みつく。

 あとは簡単――咀嚼し嚥下。

 噛みつき、咀嚼、嚥下。


 …………。

 ………………。

 ……………………。


 そうしてしばらく後。

 気がつくと、門番は体中欠損していた。

 無論、すでに絶命している。


「うまい……人間がこんなに美味しいなんて」


 ゾイとしては、もう少し食べたいところ。

 だがしかし、今はそれよりも優先することがある。

 まずは――。


 と、ゾイは意識を集中させる。

 すると見えてくるのは。


●ジョブ

『荷物持ち』『※剣士』『※槍使い』


 なるほど。

 先の門番のジョブは。


「槍使いか。剣と違って持ち歩きが面倒だし、あんまり使わなそうだな。だけど、貰っておいて損はない」


 さらに、今回の戦闘で得たのはジョブだけでない。

 それは戦い方についてだ。


「スキル『身体強化』を使わなくても、やり方次第では各上の相手を倒せるってことだ」


 それにしてもと。

 ゾイは視線を門番の死体へ向ける。


(状況が状況故、仕方ないことだったけど)


 門番を死なさせたのは、かなり惜しい事をした。

 どうせなら、もっともっと苦しめたかった。

 と、ゾイはここでとある事にきがつく。


(そうだ……僕の腹を散々かき混ぜてくれたクソ錬金術師がいる)


 奴に地獄を味合わせればいい。

 まだゾイの復讐相手は残っている。

 なんという幸せ!


「くく、くははははははははははっ!」


 と、ゾイは門番から槍をひったくる。

 同時、スキル 『身体強化』を発動。

 牢の天井をぶち破り、無事脱出を果たすのだった。


 さてさて。

 一方、牢に残ったクレハはというと。


「ゾイ、口血まみれで笑ってた……楽しそうで、よかったわ」


 狐尻尾をふりふり。

 一人、そんな事を呟くのだった。

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