第一話 置き去りにされる少年

 場所は魔王城付近。

 高難易度ダンジョン。


「ほらほら! うちのとっておきの魔法、くらえばいいし!」


 と、聞こえてくるのは元気がよく、可愛らしい様子の少女の声。

 そして、そんな声に続いて聞こえてくるのは。


「あぁああああああ! ネイカが倒そうとした魔物、アオイが横取りしたのだぜ! せっかくネイカがあそこまで追い詰めたのに!」


 先の少女、アオイとは違うベクトルで元気そうな――けれども、どこかおバカそうな声。

 そんな彼女はアオイへと言葉を続ける。


「ずっこいのだぜ! アオイはいつもおいしいところだけ持っていくから、すごいずっこいのだぜ!」


「別にずっこくないし~、あんたの手が遅いだけっしょ?」


 わーわー

 きゃーきゃー。

 と、騒ぎ出す二人。


 魔法使いアオイ。

 金髪癖毛ポニーテール、豊満な肉体がトレードマークな少女。

 そんな彼女はどこかの学校の制服の上から、ダボッとした黒色ローブを羽織っている。


 そしてもう一人。

 彼女と言い争っているのは。


 剣士ネイカ。

 ミディアムショートの黒髪、貧乳低身長がトレードマークの少女。

 そんな彼女は、極東由来らしい赤色の和服に身を包んでいる。

 


 二人はパーティーだ。

 荷物持ちの少年、ゾイの大切な仲間達。

 仲間といえば、忘れてはならないのがもう一人――。


「あ、あの……喧嘩はよくないかなって、わたしは思うんだけど。ほ、ほら。せっかくみんなでパーティー組んでるんだし、仲よくしよ?」


 と、言ってくる少女こそ。

 ゾイの脳裏に浮かんだ件の一人。


 回復術師ライヒ。

 茶髪おさげに、バランスの取れた肉体を持つ彼女。

 そんな彼女はすっぽりと頭以外を覆う、白を基調としたローブを身にまとっている。


 そう。

 この三人こそが、ゾイの大切な仲間達だ。

 少なくとも、ゾイは彼女達の事をそう思っていた。



      ●●●



 時はその夜。

 場所はダンジョン内――そこに設営したキャンプ。


 現在。

 ゾイは裸で四つん這いになり、手を使わずに地面に直接おかれた残飯を食べていた。


「ちょーうけるんですけど! やっぱりみんなでご飯食べるときは、ゾイの犬真似見るのが一番だし!」


 と、楽しそうな様子で言ってくるのはアオイだ。

 要するにこれ、アオイの命令で嫌々やっているのだ。


 もっとも、これは今日に始まったことではない。


 アオイは夜になると、いつもこうなのだ。

 その日の反省――そんな名目で、ゾイに難癖をつけ罰を強いてくる


 とはいえ、今日のは大分マシだ。

 なんせ先日など、ゾイは自分のウ○コを無理矢理食わされ、死にかけたのだから。

 などなど、そんな事を考えていたその時。


「ねぇねぇ、あんたたちもなんかリクエストすれば? こいつバカだから、何でもやってくれるし!」


 と、そんな事を言ってくるアオイ。

 すると。 


「え、えと……じゃあ、わたしはクンクン言って、床を転げまわるゾイくんが見たいかな……なんて」


「ネイカもそれがみたいのだぜ!」


 と、順に言ってくるのはライヒとネイカだ。

 逆らう選択肢はない。


「…………」


 逆らえれば、より恐ろしくて屈辱的な目にあう。

 となれば、ゾイがすることは一つ。


「く、くぅーん! くぅーんくぅーん! はっはっ! くぅーんくぅーんくぅーん!」


 言って、ゾイはその場にひっくり返る。

 そして、そのまま犬真似を継続

 すると――


「ぷっ……ちょ! キモイんですけど! マジでキモイんですけど!」


「自分でいってアレだけど、確かにちょっと気持ち悪いかな……」


「あはははははっ! ゾイ最高に面白いのだぜ!」


 言ってくるのはアオイ、ライヒ、ネイカの三人だ。

 我慢だ、我慢するしかな――。


「ひぐっ!?」


 と、突如ゾイの股間に襲い来る痛み。

 その正体は。


「ゾイのあそこ、ふにふにしてて気持ち悪いのだぜ!」


 と、言ってくるのはネイカだ。

 彼女は笑いながら、ゾイの股間を踏みつけにしてくる。


 ぐりぐり。

 ぐりぐりぐり。


「ね、ネイカ……や、やめ――」


「ゾイの癖に口答えしたのだぜ!」


 と、楽しそうに言ってくるネイカ。

 さらに、そんな彼女に続くのは――。


「え、まだ教育しなきゃいけない感じ?」


「ゾイくん……やっぱりバカなのかな」


 そんなアオイとライヒの声だ。

 前者――アオイはゾイへと言葉を続けてくるのだった。


「ねぇゾイ。うち、お花摘みに行きたくなっちゃった。でもめんどいから、口開けてくれない?」

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