第95話
「もー2人揃って寝坊してたら意味ないでしょ! 起こしてよおかきー!」
「起こしましたよ何度も! でも甘音さん全然起きなかったじゃないですか、しかも私をがっちりホールドして抜け出せないし!」
「仕方ないじゃない、おかきの体温高くてちょうどいい抱き枕なのよ!?」
「はーいそこ痴話げんかしなーい、彼氏いない先生への当てつけー?」
「「飯酒盃先生おはようございまーす!」」
あきれ顔の飯酒盃へ挨拶を返し、HR寸前の教室におかきと甘音が並んで滑り込む。
そして2人の着席と同時に鳴るチャイム。 あわや遅刻によるAP減少を回避し、おかきたちは肩で息をしながら安堵の息をこぼした。
「どうしたのガハラ様? 遅刻なんて珍しいねー」
「ええ、ちょっとね……昨日夜更かししちゃって……」
「おかきちゃんといっしょに夜更かし、しかも抱き枕ってことは一緒のベッドで……? 妙だな」
「はいはい私語は慎みなさい名探偵諸君、その推理力はテスト勉強に生かしてね」
「「「「ぐふっ」」」」
テストの3文字で数名の生徒が口から泡を吹き、机に突っ伏して失神する。
おかきたちがあわや社会崩壊の危機を救ったのもつかの間、地獄の中間テストはすぐそこまで迫っていた。
「学園祭を五体満足で迎えたかったら勉強も頑張るように、それじゃ先生は職務中飲酒の時間だからHRはここまでー起立礼さよならー」
「さらっととんでもないこと言ってますよね」
「いっつも思うけどなんでクビにならないのかしらね」
「まあ理由が理由やからな、そんなことより遅刻ギリギリまで2人で何しとったん?」
「おっさんみたいな絡み方してくるんじゃないわよ、ウカ。 寝坊しただけって言ったでしょ」
からかい交じりに肩へ回されたウカの手を、甘音は鬱陶しそうに払いのける。
だが遅刻した2人をイジりたい者はウカだけではない、刺激を求めた
「お客さぁん……こいつぁ嘘をついてる味ですぜ?」
「吐いちまいなよ、冬の新刊ネタが欲しいんだ……」
「男の子は男の子同士で、女の子は女の子同士で結婚すべきだと思うの」
「だーもううっさいうっさい! あんまりしつこいと勉強会呼ばないわよ、特に男子!!」
「「「「サーセンっしたぁ!!!」」」」
「おかき、あんたからも一言……って、なーにスマホ弄ってんのよ」
「ああ、ごめんなさい。 ちょっとAPの残量が気になって」
「AP? ああ、たしかに途中編入だと心もとないわよね」
AP、それはこの学園で生き残るために欠かせない電子通貨兼生徒への評価点だ。
授業に出席してテストなどで好成績を収めるほどに加算され、逆に素行不良などが発覚すれば減点される。
毎日まじめに授業を受ければ赤字にはならない設計だが、途中編入かつ事情が特殊なおかきはAP管理に不安を抱えていた。
「今日は遅刻しかけて特急便も使ってしまいましたからね、しばらくお昼も切り詰めていかないと」
「おかき、それはあかん。 ただでさえちっこいんやから飯はちゃんと食わな縮こまって消えてまうで?」
「言っておきますけどウカさんと5㎝ぐらいしか背丈変わらないですからね?」
「厚底込みの5㎝でしょ。 というか、そこまで貧乏なら私のAP貸すって言ってるじゃない」
甘音のスマホに表示されたAP額は、おかきの残量とは文字通り桁が違う。
趣味が関わらなければ品行方正で通り、薬学分野においていくつもの結果を残している彼女は、学園からも相応の評価として多大なAPを与えられているのだ。
「それはそれでヒモみたいなので嫌なんですよ……」
「あらー? なら自分でちゃんと稼いでほしいわね、旦那様」
「ぐぬうぅ……」
ただ学園で生活するだけならば、毎日の授業を欠席しなければ収入も黒字になる。
ただしそれは必要最低限度の生活であり、嗜好品や趣味にAPを使えば破綻しかねない。 それだけでなく、病気や怪我で長期療養に入れば即詰みだ。
おまけにおかきたちSICKはいつ任務が入るかもわからない身、外出権を購入するためのAPは常に確保しておきたい。
「甘音さんはともかくとして、ウカさんはAPをどうやって確保してます?」
「うちか? バイトしとるで、あと委員会活動」
「えっ、バイトしていいんですか?」
「そりゃあるわよ、この学園にいくつの施設があると思ってんの? 外部から人呼ぶにしてもこんな
おかきにとってAPは金銭の代替というイメージがあり、労働によって稼ぐというのは盲点だった。
だがたしかに理にかなった話ではある、この広すぎる学園を管理するため、いちいち外部から人を呼んでは予算がいくらあっても足りない。
「委員会というのは?」
「委員会や部活に参加するとそれだけでAPがもらえるのよ、あんまりサボると今度はペナルティ食らうけど」
「うちは農作委員会に所属しとる、米や野菜が割引で手に入るで」
「いいなぁ……私も参加しようかな」
「あっ」
「「「「「「ならぜひうちの委員会(部活)に!!!!」」」」」
おかきが漏らした迂闊な言葉に、飢えた生徒たちが再び群がる。
魔性の幼女を求める需要はごまんとある、おかきの机を取り囲むクラスメイト達の様相はさながらゾンビが如くだ。
「あーあ、私知らないわよ。 自分で何とかしなさいよおかき」
「あ、甘音さーん! 見捨てないで、助けてウカさん!」
「うちもまだ命惜しいわ」
「これ弓道部のパンフ! ダースで置いとくから見て!!」 「ぜひとも我が野球部のマネージャーに!」 「その魅惑的な片メカクレは将棋部こそよく似合う!」 「風紀委員会! 王道の風紀員会をよろしく!」 「茶道部はお茶菓子いっぱい食べられるよ!」 「昔は保健委員会は人気がないと考えられていた……だが今は違うッ!」 「やっぱりここはソフトテニス部ですわ~!!」 「放送委員ならDVD半額でレンタルできるよ!!」 「交通委員会なら電車通学の負担が激減!」 「流鏑馬部!!」 「アルティメット部!!」 「祭事委員会!!」
「おっはー、可愛いボクが遊びに来たよ……って、どういう状況これ?」
「忍愛さーん! ヘルプー! ヘルプミー!」
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