第68話

「プレイボオオオオオオオオオオオオオオオオイ!!!!」


「まじめにやらんかい」


『さあ始まりました第666回赤室学園球技大会、実況はわたくし』《アアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!》『……がお送りいたします』


「いやサイレンでなんも聞こえんわ、誰やねんお前!!」


「ちなみにサイレンって最寄り駅に試合状況を伝えるために鳴らすらしいですよ、試合が終わると多くの観客が駅になだれ込むので」


「はー、そんな意味が……って今はどうでもええねん、こんなんで大丈夫なんかホンマ」


 球技大会当日。

 グラウンドを照らす清々しいほどの晴天の下、審判を務める教師の掛け声から試合は始まった。


「せいぜいコールドゲームにならないように頑張ってねパイセーン、裏じゃトトカルチョも動いてるからさ」


「なに野球賭博してんねん、まあうちらは自分の勝ちに賭けとったけど」


「気が合うじゃん、ボクもだよ。 お互い自信満々だねぇ!」


 ホームグラウンド上では、互いのキャプテンが前哨戦とばかりに火花を散らしている。

 メンチの切り合いはほぼ互角だ、決着をつけるならばやはりバットとボールで語るしかない。


「というか、出場してるの私たち2チームだけじゃない。 ほかの連中どこにいったのよ?」


「皆さん勝ち目がありそうな競技に逃げたみたいですね、賞品が賞品ですから必死ですよ」


「センパイたちはよく逃げなかったよねぇ、今から尻尾巻いて逃げてもいいんだよぉ?」


「まあ正直直接勝負より、他の競技で優勝してお願い権利を相殺したほうが良いのではと考えましたね」


「うーん、リアリスト。 まともに取っ組み合ってくれてありがとう新人ちゃん」


「いえ、その方がお互いに禍根も少ないと思ったので」


 元は理事長の思い付きでようやく成立したような駆け引きだ、勝負を避ける手段ならいくらでもある。

 だがおかきはその選択肢を選ばず、口にもせず、ただ事の成り行きを見守った。

 それは当事者としての責任ではなく、「無粋だ」と考えたからだ。


「正々堂々楽しみましょう、勝っても負けても恨みっこなしですよ」


「ふっふっふ、もちろんだよ新人ちゃん。 絶対負かしてボクのクラスに呼ぶからね!」


「プレイボオオオオオオオオオオオオオオオオイ!!!!!!!」


「いやうっさいわ審判! 場合によっちゃセクハラやぞ!!」


――――――――…………

――――……

――…


「1番バッター、中島! 行ってまいります!!」


「しゃあ行ってこい、初手ホームランぶちかましてこい!」


「とにかく出塁しなさい、あとは4番ウカがなんとかするわ!」


「ストライク一本につき指の骨が1つ折られると思え、死ぬ気でいてこまして来い」


「イエスマム!!」


「とんでもない試合に巻き込まれたかもしれません」


 表の攻撃、チーム・ウカのベンチは殺気立っていた。

 忍愛への恨みが骨髄まで染み渡った精鋭たちが、日ごろの鬱憤を晴らすべく目の色を変えてバットを握っている。


「去年バスケで負けてからしこたま煽られたメンバーよ、面構えが違うわ」


「殺人沙汰にならないことを祈ってます……」


「まあ気持ちで勝てたら苦労しないんやけどな、まずは山田の球に当てるところから始めな」


『5番、ピッチャー、ゴリ山君』


「ウホッ」


「審判ー!! マウンドにゴリラおるー!!!」


「プレイボオオオオオオオオオオオオオオオオイ!!!!」


「何回コスんねんそのネタァ!! おもんないわ!!!」


「ウカさん、どうどう」


 叫び続けるウカの口元に紙袋を当てて落ち着かせるおかき。

 だが彼女が動揺するのも無理はないだろう、なぜならピッチャーマウンドにはユニフォームを着た二足歩行のゴリラが立っていたのだから。


『ゴリ山君は突然変異により、IQ180を獲得した天才的ゴリラです。 密猟者に狙われたところを理事長に助けられ、本学園へ入学する運びとなりました』


「濃いねんキャラが、胃もたれするわ」


『理事長へのお願いは”死んだ母にもう一度会いたい”とのことです、ロージンバックを握る手にも力がこもります』


「いや戦りにくいわ! クソッ、どこからあんな人材……いやゴリ材連れてきた!?」


「さすが赤室学園、訳あり人材……いえ、ゴリ材の宝庫ですね」


「ゴリ材が何人もいるようなところはもう学園じゃなくて動物園なのよ」


 そうこうしている間にも、一番打者が三振を取られてとぼとぼとベンチに戻ってくる。

 マウンドに立つゴリラは決して奇をてらったわけではなく、ピッチャーとしての実力も十分備わっている証拠だろう。


「サーセン、キャプテン!! けどあんなキレッキレのスライダー打てねえよ!!」


「めっちゃ技巧派やん、あのふっとい指でなに変化球握っとんねん」


「見てくださいウカさん、ドラミングしてますよ」


「なんかもう一発ぶん殴ってきてええか?」


「やるわね山田。自分の実力を過信せずにしっかりと先発選手を用意してる。 本気で勝ちに来てるわよ」


「最初の作戦は通じないですね、さすがに一筋縄ではいきませんか」


「作戦立て直しやな……ああ、とりあえず中島は残しとく指2本選んどいてな」


「イヤダアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!」


 ベンチで急遽作戦会議を開いている間にも、ゴリ山のピッチングは快調であれよあれよと三振を稼いでいく。

 結局ウカまで打順が回ることはなく、おかきたちは早々の守備を余儀なくされた。

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