17話 最高の相棒~商人~

 目の前にぶわんと音を立てて、青色の半透明の枠の中に文字列が浮かび上がる。

 そこには商品のリストらしきものが、ズラリと並んでいた。







【テン】所持キャップ0

全て

10ミリピストル⒠

Shelterシェルタージャンプスーツ⒠

ゴーグル付きマスク⒠

RADZラドゼータ 1

RADXラドエックス 2

ブラドパック 3

プッカコーラ 5

マグカップ 1

SheltTokシェルトトック社の教材 ×

弾薬10ミリ 50

弾薬9ミリ 10

弾薬5.5ミリ 3


【リア】所持キャップ300

全て

10ミリピストル

RADXラドエックス 1

ブラドパック 2

リスの串焼き 3

トウモロコシ 5

トマト 2

トウモロコシの種 1

弾薬10ミリ 20

弾薬5.5ミリ 10







 品物がズラリと並んでいたが、それ以前に驚いた事がある。

 私は自分の名前を初めて見た。StayGirlにも書いていたかもしれないが、そこを気にして見てなかったから、全く気が付かなかった。

 私の名前はおそらく"テン"で、"リア"が酒場の店主だ。"リアの酒場"ってくらいだし。

 ちなみに、私はゲームやるときのハンドルネームは決まって"テン"だ。


 そして大輔も同じで、決まって……まぁそれは今はいいか。

 ここにいると思ったのにいない。このゲーム始めて、誰もがこの酒場に行くはずだから。ここにくるかもって思ったんだけどね。


 ――宛が外れた。


 そもそも大輔、この世界に本当に入っているのかな? 私の思い込みって事は……。

 でも私だけだとしたら、何で私が……? いや、私だけとか絶対、無理!


「……やめよ」


 大輔がいないかもって考えたら、不安に押しつぶされそうだ。

 大輔はこの世界に来てる! 絶対! うん、そう信じよう……。


 私は自分にそう言い聞かせ、再び目の前に浮かぶ商品に目を移した。

 そして肝心な事に気が付いてしまう。


 それは……。


 私には今、1キャップも持っていないという事!


 とは言っても売るものもないしな。

 リアが持っている弾薬10ミリとブラドパック、それとRADXは絶対に欲しい。

 少なくても弾薬10ミリとブラドパックだけでも。見つけたら買っておかないと、後で後悔する事になる……けど、キャップがないから仕方ないか。ないものは買えないし。


「あっ! そうだ」


 私はある事を思いつき、目の前の商品をじっくり眺める。


 弾薬。

 これは売るには打って付けかもしれない。

 10ミリは何かと使うから今の所は取っておきたいけど、9ミリと5.5ミリは暫くは使わなそう。

 これを売ってキャップを稼ごうかな。


「あのっ……弾薬っていくらですか?」

「はいよ、弾薬ね。10ミリと5.5ミリがあるけどどっちが欲しいんだい?」


 どうやら勘違いされてしまったようだ。

 買うのではなく売りたいのだ。


「あ、いや……買い取って欲しいんです。9ミリと5.5ミリを……」

「あぁ……なんだい。9ミリはひとつ2キャップ、5.5ミリはひとつ5キャップで買い取るよ」

「あ、はい」


 思ったよりも安価だった。

 これじゃあ、全部売った所でブラドパックのひとつも買えない。


「ちなみにブラドパックっていくらで売ってますか?」

「250キャップだよ」


 ほらね。

 聞くだけ無駄だったようだ。

 ブラドパックは物凄く貴重だから、商人達は足元見て高く売り付ける。


 これじゃあ弾薬をいくら売った所で買えない。

 しかしこの使うかどうかもわからない弾薬を持っていた所で何の役にも立たない。

 私は仕方なく弾薬だけを売る事にした。


「じゃあ……9ミリを10個と、5.5ミリを3個、買い取って下さい」

「はいよ、合わせて35キャップね」


 私は、目の前の空間に浮かぶ文字列の弾薬をタッチすると、インベントリ欄からそれぞれの弾薬が消え、代わりに"所持キャップ"の量が増えた。

 なんて便利な仕様なんだ。と、驚きと増えたキャップを見つめ喜びに浸り、自然と顔がニヤける。


「まいど」

「ありがとう……ございます」


 だけどやっぱり、この少量のキャップじゃ何も買えないよね。


 私は軽くため息を吐くと、複雑な気持ちで店の扉の音を鳴らした。


 そして酒場の外に出ると、店のすぐ目の前に設置されている長ベンチ腰かけた。

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